第4話 誰でも臭いセリフが様になる訳じゃない
アイバーンの側に来るパドレー。
「アイバーンよ。何故あの瞬間、攻撃をためらった?」
「む〜、パパまでそんな事言うの〜? 僕の蹴りよりもジアちゃんの蹴りの方が早かっただけだってば〜」
「私を見くびるんじゃないぞ、アイバーンよ。躊躇せずにあのまま蹴り抜いていれば、間違い無くお前の勝ちだった。だがお前はジアの顔を蹴る事を嫌ったのだ」
「ん〜。だってジアちゃん蹴るのイヤだったし、それに女の子の顔なんて蹴れないよ〜」
「ふむ……まあ確かに、相手が身内や知り合いならばためらうのも分かる。しかし、もしも相手がお前を殺そうとしている敵だったとしても、お前はそうやって情けをかけるつもりか?」
「ん〜」
悩むアイバーン。
「優しさは、人としてはとても大切なものだ。しかし戦場においてその優しさは、時に命取りになる事をよく覚えておくのだ」
アイバーンの頭を優しく撫でるパドレー。
「ん〜」
その頃、ジアに負けて街外れの丘で体育座りをしてイジケているブレンの隣に、涙目のジアが同じ様に体育座りをする。
「あん? 何で俺様に勝ったお前が泣いてんだよ? 泣きたいのはこっちだっつーの」
「アイ君と……戦った……」
「ほう、あいつが戦うなんて珍しいな。んで、まんまと負けて泣いてるって訳か? ハッハー! ざまあみろ! お前も負けた者の悔しさを味わうといいぜ!」
その瞬間、ジアの右ストレートがブレンの顔面に突き刺さっていた。
「ムグッ‼︎」
「勝った……」
「はあ⁉︎ じゃあ何で泣いてんだよ?」
「アイ君に手を抜かれた……」
「でもお前が勝ったんだろ?」
「ホントはアイ君が勝ってたのに! 最後にあたしを蹴るのをやめたのよ!」
「ああ〜、あいつならやりかねねぇな〜」
(特に、相手がお前なら尚更な……)
「あんなんで勝っても嬉しくない!」
膝に顔を埋めるジア。
「う〜ん」
ポリポリと顔をかくブレン。
「ならよ〜、あいつが手を抜く余裕すら無くなるぐらいに、俺達が強くなればいいんじゃねぇか?」
「ブレン……」
顔を上げて、ブレンを見つめるジア。
「俺様ももっと強くなって、今度こそお前に勝ってやるからな! そ、そしたらよ! こ、今度はお、俺様が……お、お前を守って、やるから、よ……」
「ブレン……」
そんなブレンの言葉に、ニコリと微笑むジア。
「あんたにだけは、天地がひっくり返っても負ける気がしないわ」
「いや、そこは嘘でもうんって言っとけよ!」
そんなジア達の背後から、怪しい男達が近付く。
「何だ⁉︎」
気配を感じ、振り向いた瞬間に腹に蹴りを食らい吹っ飛ばされるブレン。
「ぐええっ‼︎」
「ブレン‼︎」
「く、そ……ぐうっ」
立ち上がろうとするが、身体に力が入らずそのまま気を失うブレン。
「ブレン‼︎ さっきのセリフが台無しっ‼︎」
男達に向かって構えるジア。
「何よ‼︎ あんた達⁉︎」
「何もんって訳でもねぇんだけどよ〜。ここに居られちゃマズイんだよな〜」
「だ、だったら口で言えばいいじゃないのさ‼︎ そしたら向こうに行くわよ‼︎」
「それがそうもいかねぇんだお嬢ちゃん。俺達の姿を見られた以上、このままオメェらを帰す訳にはいかねぇんだ……よっ!」
いきなりジアに向かって前蹴りを繰り出す男。
しかしそれを簡単にかわし、一気に間合いを詰めて男のみぞおちに蹴りを食らわせるジア。
「ぐえええー‼︎」
悶絶しながら前のめりに倒れる男。
「ブレンの苦しみ、少しは分かった⁉︎」
「はあ⁉︎ 何やってんだテメェ⁉︎」
別の男がジアを掴みに来るが、その腕を取り合気道のように男を投げ飛ばすジア。
「ぐはああっ‼︎」
すかさず投げ飛ばした男の右腕を関節技で決め、他の男達を脅すジア。
「来るなっ‼︎」
「うっ!」
ジアの眼力と、覇気のこもった声に怯む男達。
「近付けばこいつの腕を折るわよ‼︎」
「ぐっ、このガキ……」
ジアの只ならぬ迫力に、近づけない男達。
「ば、馬鹿野郎! たかが女のガキ相手に、何ビビってやがる‼︎」
「だ、だけどよー兄貴。俺、さっきから本当に動けねぇんだよー! これ、何かの魔法なんじゃねぇかなー⁉︎」
「バカな! 何もそんな素振りなんか……」
怯む男達に更に要求するジア。
「あたし達からもっと離れなさい‼︎」
まるでジアの命令を聞くかのように後ずさりする男達だったが、ふと何かに気付いた男がジアに提案をする。
「わ、分かった‼︎ 大人しく帰るから、そいつを離してやってくれ‼︎」
「あんた達が十分離れたら、解放してあげ……」
そう言いかけた時、突如激しいめまいに襲われフラつくジア。
(クッ! こんな時に⁉︎)
ジアが怯んだその隙に、いつのまにか背後に来ていた男に蹴り飛ばされてしまうジア。
「あぐっ‼︎」
辛うじて意識は保っているものの、立ち上がる事が出来ずにいるジア。
「へっ! ガキが、手こずらせやがって! オイお前ら! 人目につく前に、さっさとガキ共を小屋の中に連れて行け!」
「ヘイ! しかし兄貴。このガキ共、始末しなくていいんですかい?」
「馬鹿野郎! こんな場所で始末なんかしたら、目立つだろうが! それに、女の方は殺すには惜しい。これ程の器量なら、その手の趣味の奴に高く売れるだろうからな」
「へへっ、なるほどね。んじゃ!」
手下がジアに近付こうとした時、声が響く。
「ジアちゃんに触るな‼︎」
「ああ⁉︎ 何だぁ? またガキが増えやがった」
ヒーローのように颯爽と現れたのは、アイバーンだった。
「ア、アイ君⁉︎」
「何だテメェは⁉︎ 何しに来やがった?」
「ジアちゃんと、ついでにブレンを助けにだ‼︎」
ブレンはついでだった。
「ケッ! ガキのクセに言うじゃねぇか? だが、もうちょっと大人のズルさを学ぶべきだったな!」
「何⁉︎ あうっ!」
そっと背後から近付いて来た男に持っていた木刀で殴られ、あっさり気絶してしまうアイバーンだった。
「キュウウー」
「……いや、ウチの男共は役立たずかああー‼︎」