第8話 お約束だね
全員がそれぞれスタート地点についた所で、いよいよバッジ争奪勝ち抜き戦が開始される。
街並みが再現されたフィールドを歩くアイバーン。
そんなアイバーンの背後から、ひとりの生徒が音も無く襲いかかる。
「おっと危ない」
その生徒の攻撃をさらりとかわし、後頭部に一撃を加えて失神させたアイバーンが、バッジの数字を確認する。
「ふむ……俺の相手で間違い無いな。障害物の多い場所に居れば、そっちから来てくれると思っていたよ」
襲って来た生徒をあっさり返り討ちにして、バッジをゲットしたアイバーン。
同じ頃アイバーンとは対照的に、何も障害物の無い草原でじっと立ち止まって辺りを警戒しているジア。
「これだけ見通しの良い場所に居れば、どこから敵が来てもすぐ分かると思ったけど……これじゃあよっぽど体術に自信が無い限り出て来ないわよね〜」
その後、制限時間ギリギリになって痺れを切らして襲って来た相手を瞬殺して、何とかバッジをゲットしたジアであった。
建造物の多いフィールドを歩いているブレンの背後から、音も無く近付き殴りかかる男子生徒。
「ん? 何だぁ⁉︎」
だが、何事も無かったかのように振り返るブレン。
「何ぃっ⁉︎」
「残念だったな! そんなヤワな攻撃じゃあ、俺様は倒せねーぜ? 喰らえ! バーニングファイアーナックルぅぅ‼︎」
まるで魔法を放つような構えで拳を握るブレン。
「えっ⁉︎ 魔法⁉︎」
「‼︎」
一瞬魔法を撃つかに思われたが、そのままただの拳で殴りつけ、男子生徒を一発KOしたブレン。
「バカヤロウが! ま、魔法なんか撃つ訳ねえだろ⁉︎」
相手の生徒が驚かなければ、間違いなく魔法を撃っていたであろうブレンであった。
同じく建物だらけのフィールドを歩いていたメリアの前に、ひとりの男子生徒が立ち塞がる。
「ほう? 不意打ちをするでもなく堂々と私の前に立つとは、褒めてやろう」
「フッ。女を不意打ちで襲うなんて、男として……」
そう言いかけて、何故か不思議そうにメリアを見つめている男子生徒。
「どうした? 私があまりにも美し過ぎて、見とれているのか?」
「あんた、女……だよな?」
「んなっ⁉︎ た、確かに私の勇ましい姿を見れば、男と見間違えるのも致し方ない。しかし! この隠しきれない胸を見れば、女であるのは一目瞭然だろう!」
言われた通り、メリアの胸をじっと見つめた後、首をかしげる男。
「……胸?」
「無礼者ー‼︎」
「ぐはあああー‼︎」
メリアの強烈なアッパーカットを顎に食らってダウンする男子生徒。
「この私の豊満な胸が分からないのか⁉︎ 何なら触って確かめてみるかああ〜⁉︎」
既に気を失っている男子生徒を怒りの表情で踏みつけ、足でグリグリする涙目のメリアだった。
色々あったものの、まずは初戦を突破したアイバーン達。
「みんな無事に突破したようだな?」
「当たり前でしょ? アイ君からバッジを奪い取るまで、絶対に負けられないわ!」
「俺様も楽勝だったぜ!」
ブレンは紙一重だった。
勝利を喜ぶアイバーン達とは対照的に、ひと言も発せず不機嫌そうな表情のメリア。
そんなメリアを気遣って声をかけるジア。
「どうしたのメリア? あなたも勝ったんでしょ?」
「あ、ああ。当然だ……」
「じゃあどうしてそんな顔してるのさ?」
「いや、別に……」
そんなメリアがジアをジッと見つめる。
特に胸を……。
「な、何?」
ジアの胸をジッと見たメリアの表情が優しくなり、ポンとジアの肩を叩く。
「私達はまだまだこれからさ」
「え、何⁉︎ 何なのさー⁉︎」
続く2戦目も無事に突破したアイバーン、ジア、メリアの3人だったが、ただひとりブレンは……。
「よし、バッジナンバー9番。あいつで間違い無いな」
ある建物の屋根裏に潜み、下を通る男子生徒のバッジナンバーを確認するブレン。
「俺様がいつも馬鹿正直に、真正面からぶつかると思ったら大間違いだぜ。暗殺も出来るってとこを見せてやるぜ」
男子生徒が下を通過したタイミングを見計らって、スッと男子生徒の背後に降り立ち、後頭部に一撃を加えて男子生徒を気絶させるブレン。
「へへ、どうだ! 完璧な暗殺じゃないか!」
得意げに男子生徒のバッジを奪い取り、戻るブレン。
「ブレン! ターゲットと違うバッジを奪った為に失格!」
「何だとおおー‼︎ この通りちゃんと9番のバッジを奪ったじゃねーか! 何が間違いだってんだよ⁉︎」
呆れ顔の試験官が、ターゲット番号が貼り出されたボードを指差す。
「よく見ろ! お前のターゲットナンバーは9番じゃない、6番だ! 大方逆さまに番号を見て、6を9と間違えたとか言うオチだろう?」
「なんじゃそりゃああー‼︎」
憐れブレン、2戦目で敗退となる。