第2話 かませ犬だって大事な役目
アイバーン達の居る孤児院にブレンがやって来てから約1年。
アイバーン、ジア、ブレンの3人はそれぞれ11歳になっていた。
「よし! では今日は久しぶりに、模擬戦トーナメントをやるとしようか」
パドレーがそう宣言すると、お祭りのようにはしゃぐ子供達。
「やったー! 今回はどっちが勝つかなー⁉︎」
「そりゃあやっぱりジアに決まってるわ!」
「なんの! ブレンの兄貴だって毎日特訓してるんだ! 今日こそ兄貴が勝つぜ!」
「なあ! アイ君はどっちが勝つと思う?」
「え〜? やっぱりジアちゃんの方が強いんじゃないかな〜?」
「だよな〜。てか、何でアイ君はいつも模擬戦に出ないんだ?」
「ん〜? 僕、戦うのはあんまり好きじゃないから〜」
「アイ君は凄く良い動きしてるって、パパも褒めてたのにな〜。ジアが病院から脱走しても、いつもアイ君が捕まえてるし〜」
「ジアちゃんの動きは読めるからね〜」
そして、参加希望者全員による模擬戦トーナメントが行われ、みんなの予想通り決勝まで勝ち残ったのはジアとブレンだった。
最下ランクの魔石、翡翠石がはめ込まれた日本刀のような形をした模造刀を持っているブレン。
対するジアは、同じく翡翠石が付いた短剣型の模造刀を持っていた。
「よおジア! やはり勝ち残って来たのはお前だったな! 今日は体調は良いんだろうな⁉︎」
「問題無いわ! それに、もし調子が悪くてもあんたに負ける事は無いから安心しなさい!」
「言ってくれるぜ! だが、今日こそは俺様が勝つ!」
「あんた、今まであたしと全戦全敗のくせして、恥ずかしげも無く、よくそんな事が言えるわね?」
「うるせー! 行くぜ!」
力任せに刀を振り回すブレン。
それを最小限の動きでかわすジア。
大ぶりな斬撃は身体全体でかわし、間合いに入って来た斬撃は短剣で受けて軌道を変えて受け流すジア。
「くそ! 当たらねー!」
文字通り子供扱いのブレンを野次る子供達。
「どうしたブレンー⁉︎ 今回も同じ展開かー?」
「その光景、もう見飽きたぞー!」
「う、うるせー‼︎ でやああー‼︎」
渾身の力を込めて、思いっきり刀を振り下ろすブレン。
「隙だらけ」
その刀を難無くかわしたジアがブレンの懐に入り、腹に蹴りを入れる。
「ぐえっ‼︎」
腹を押さえて跪くブレン。
「あんた、一体何を特訓したのさ? ブンブンブンブン振り回すばっかりで、刀で風でも起こそうって言うの?」
「そ、そんなもん、起きる訳ねえだろ!」
「起きるわよ? こんな風にね!」
「へっ⁉︎」
そう言ってジアが短剣を振ると剣先から風の刃が発生し、ブレンの横を通過して背後の木の枝を斬り飛ばした。
その光景に子供達が驚く。
「凄〜い! 今のって魔法だよね〜⁉︎」
「ジアちゃん、いつの間に魔法使えるようになったの〜⁉︎」
「ついこの間だけどね。どお、ブレン? 特訓の成果ってのはこういう事を言うのよ?」
それを見ていたパドレーも驚いていた。
(ほう。あの剣さばきだけでも相当なものだが、少し教えただけでもう魔法が使えるとは、大した才能だな、ジアは。だが惜しむらくは病弱である事か……身体さえ健康なら、将来は騎士団の団長になる事さえ有り得ただろうに……)
「どう? まだやる? まだやる気なら、今度はあんたに当てる事になるけど?」
「う、ぐぎぎぎぎぎ……覚えてろー‼︎」
捨てゼリフを吐きながら逃げて行くブレン。
「そこまで! この勝負、ジアの勝ちとする!」
パドレーがジアの勝利を宣言する。
「やったー‼︎ またジアの優勝だー‼︎」
「もう誰もジアちゃんには勝てないよなー」
「え〜⁉︎ でも、まだアイ君とは戦った事無いよ〜?」
「そう言えばそうだね? アイ君とジアちゃんってどっちが強いんだろ?」
子供達がみんなアイバーンをジッと見つめる。
「ん〜? 僕はやらないよ〜?」
「何で? アイ君。一回ぐらい戦ってみてよー」
「そうだよー! アイ君だって剣術はパパに教わってるんでしょー?」
「脱走したジアちゃんを止められるのは、いつもアイ君だけなんだから」
「そうだけど、剣術はただ護身用に教わってるだけだし〜、ジアちゃんを止められるのはジアちゃんの行動パターンを読んでるからだし〜」
「ええー⁉︎ 模擬戦なんだからいいじゃん!」
頑なに戦おうとしないアイバーンを、パドレーがけしかける。
「アイバーンよ。もしもお前がジアに勝つ事が出来たら、お前が行きたがっていたトゥマール城に連れて行ってやってもいいぞ?」
「ふえ〜⁉︎ ホント〜? じゃあ僕、やってみようかな〜」
アイバーンの言葉にピクリとなるジア。
「ふ〜ん。つまりアイ君は、このあたしに勝つつもりなんだ?」
「うん。そのつもりだよ〜?」
「言ってくれるじゃないのさ! 今まで模擬戦ではまともにあたしと戦った事も無いのに、何を根拠に言ってるのさ? 言っとくけど、脱走した時に捕まるのはあたしが弱ってるからだからね!」
「それは分かってるよ〜。ちゃんと戦った事は無いけど、ジアちゃんの事はずっと見てたから……」
またジアの額がピクリとなる。
「見ただけで強くなれるなら、ヒーロー物の映画を見た人は、みんなヒーローになれるじゃないのさ!」
「あっ、ホントだね〜。あははは〜」
「くっ、このゆるキャラ〜」
「アイバーン、武器は何にするんだ?」
模擬戦用に用意されたあらゆるタイプの模造刀の中から、己の身長程はあろうかという大剣を手にするアイバーン。
「僕、これにするよ〜」
「む? それでいいのか?」
「うん。だってこれってパパがいつも訓練の時に使ってるのと同じタイプだよね〜?」
「まあ確かにそうだが、動きの速いジアの短剣が相手だと、かなり不利だぞ?」
「いいの。パパの動きをいつも見てたから、これがいいの」
パドレーの忠告を無視して大剣を携えたアイバーンが、ジアと対峙する。
それを見たジアの額がまたしてもケイレンしていた。
「アイ君? 完全にあたしを舐めてるわよね? あたしの動きを見てたんでしょ⁉︎ だったらそんな巨大な剣じゃ、あたしのスピードについて来れないって分かるわよね⁉︎」
「うん。ずっと見てたよ。ジアちゃんが凄く強い事も知ってる」
「だったら!」
「でも、ジアちゃんはパパに勝てないよね〜?」
「あ、あたしがパパに勝てないからって、同じ武器を持ったアイ君に勝てないなんて理屈にはならないでしょ⁉︎」
「あ〜っ! それもそうだね〜? あははは〜」
「……アイ君、絶対泣かす!」