第10話 落ちてる肉は食べないよね
アイバーン達が13歳になった頃、トゥマール城である事件が起こっていた。
ここはトゥマール城の地下にある牢獄。
そこに、兵士達から事情を聞いているパドレーの姿があった。
「どうやって牢を破ったと言うのだ⁉︎」
「ハッ! どうやら何者かが外部から侵入したようです!」
「何だと⁉︎ 見張りの兵は何をやっていた⁉︎」
「それが、我々が駆けつけた時には既に、全員倒されていました。発見が早かった為、幸いみな一命は取り留めましたが」
別の兵士が報告を続ける。
「侵入者は3人だったと報告を受けています!」
「たった3人⁉︎ 魔装具を装備していた兵士15人が、たった3人に倒されたというのか⁉︎ 一体何者なんだ……」
トゥマール城の牢獄より、囚人全員が脱獄するという大事件。
だが後に、この事件が前代未聞と言われるようになったのは、また別の理由からである。
「ジアー! ジアー! どこだー⁉︎」
いつもとは逆で、ジアの姿を探しているアイバーン。
「あれ? アイ君、ジアと一緒じゃなかったの?」
「いや、僕も朝からずっと探してるんだけど、全然見当たらないんだ」
「嘆きの丘じゃないの? 昨日はまたアイ君に負けたから、かなり落ち込んでたし」
「うーん。でもかなりの接戦だったし、そんな落ち込むような内容でも無かったと思うけど、まあ行ってみるか」
アイバーンが嘆きの丘へやって来ると、丘の上に人影を発見する。
「いた! あいつ、一体いつまで落ち込んでるんだ?」
人影に近付いて行くアイバーン。
しかしその人影は、ジアでは無くブレンだった。
「いや、お前かっ‼︎」
「アイバーン⁉︎」
「何をやってる? ブレン」
「だってよー、せっかくパパが魔装具を買ってくれたってのによー、またジアに手も足も出なかったんだぜー? そりゃ凹むだろー?」
「分からなくは無いが、ジアだって魔装具を持ってるんだ。条件が同じなら、元々実力で劣るお前が負けるのは当前だろ?」
「……お前、サラッと酷い事言うよな?」
「お世辞を言ったって強くはならんからな。それより、ジアを知らないか?」
「ジア? いや、見てねーぜ。また野菜でも貰いに行ってんじゃねぇのか?」
「野菜? どういう事だ?」
「何だお前、知らねーのか? 最近ジアの奴、商店街の連中と仲良くなったとかで、毎日野菜やら肉やら色々大量に貰って来るんだぜ?」
「知らない、初耳だ」
「お前は食いもんにあんま興味示さねぇからなー、最近おかずが豪勢になってんのも、全然気付いてねぇだろ?」
「だけど、いくら仲良くなったからってそんなに毎日食料を分けてくれたりするだろうか?」
「可愛いからだって言ってたぜ?」
「自分で言うかっ⁉︎」
「じゃあ何か? ジアがどこかから盗んで来たとでも言うつもりか?」
「そうは言ってない! でも、何か怪しい事は事実だ」
正午を過ぎた頃、ブレンの言う通りに大量の肉を抱えたジアが孤児院に帰って来る。
「ほら! 凄いでしょみんな! 今日はこんなに一杯お肉ゲットしたよ!」
大喜びの子供達。
「凄ーい‼︎ お肉だお肉ー‼︎」
「昨日貰ったお野菜がまだ一杯残ってるから、今日のお肉と合わせて今夜はすき焼きパーティーにしましょう!」
「やったー‼︎ すき焼きパーティーだ〜‼︎」
「す〜き焼き! す〜き焼き!」
はしゃぐ子供達とは裏腹に、真剣な表情でジアを問い詰めるアイバーン。
「ジア! そんなに大量の肉、どうやって手に入れたんだ?」
「何よアイ君。そんなに怖い顔して?」
「いいから答えろ」
「ろ、路地裏に落ちてたのよ」
「落ちてるかっ!」
「野良猫がくわえてたのを奪い取ったのよ」
「どんなデカイ猫だっ⁉︎ 真面目に答えろ!」
「しょ、賞味期限が近いからって、お肉屋さんが分けてくれたのよ」
「こんなに大量にか?」
じっとジアの目を見つめるアイバーン。
「な、何でも仕入れる量を間違えたらしくてさ……捨てちゃうのは勿体ないからって……」
目をそらしながら答えるジア。
「何もやましい事はしてないんだな?」
「し、してないわよ〜」
しばらくジアの顔を見つめていたアイバーンが、ようやくジアを解放する。
「そうか……ならいい。疑って悪かったな」
「全くだよ! さ、さあみんな! 夕飯の支度するから手伝ってね!」
「は〜い‼︎」
子供達とキッチンに入って行くジア。
アイバーンの元にやって来るブレン。
「いいのかアイバーン? ジアの奴、明らかに怪しいぞ?」
「分かっている。だが現場を押さえない限り、ジアを糾弾する事は出来ない」
「じゃあどうすんだ?」
一夜明けてまだ日が出ていない早朝、辺りの様子を伺いながら出かけるジアの姿があった。
「こんな朝早くから商店街が開いている訳がない。やはりおかしい」
孤児院の壁が揺らぎ、何も無い場所から現れるアイバーンとブレン。
「小便じゃねぇのか?」
「わざわざ外でするかっ! バカ!」