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第1話 幼馴染って最強だよね?

 ここは王都トゥマールの城下町にある、とある教会。

 その教会に併設された孤児院より、この物語は始まる。



「アイ君‼︎ アイくーん‼︎ どこー⁉︎」


 孤児院より、薄紫色の髪を一本の三つ編みにした、可愛らしい少女が出て来る。

 孤児院の前で遊んでいた子供達が、その少女に声をかける。


「どうしたの、ジア⁉︎」


「ねえみんな! アイ君見なかった?」


「んーん。今日はまだ見てないけど?」


「んもうっ! 今日は一緒に街に買い物に行こうって約束してたのにぃ! 朝ごはんも食べないで一体どこ行ったのさー⁉︎」


「分かんないけど、またどこか散歩にでも行ったんじゃないの?」


「アイくーん‼︎」


 叫びながら走って行くジア。


「ジアってばアイ君と同い年なのに、完全にお姉さんだよね〜」


「いや、お母さんかもしれないよ」


 その頃、街はずれに流れる小川の前で、水の中を覗き込んで魚や貝等を眺めている少年が居た。


「ふわあ〜、お魚一杯だ〜。あ〜、ヤドカリも居る〜」


 この金髪の、将来は間違い無くイケメンになるであろうと思われるほんわかした少年が、後に王国騎士団最強の氷使いになるアイバーン(10歳)である。


「ふう〜、お腹空いたな〜。僕も朝ごはん食べよ」


 そう言って持参した弁当を広げて食べ始めるアイバーン。


「グルルルルー!」


 するとその匂いにつられたのか、一匹の野良犬が唸りながらアイバーンに近付いて来る。


「君もお腹空いてるの? 良かったらこれ食べる?」


 威嚇する野良犬に対して特に警戒する事も無く、手にしたおむすびを渡そうと腕を伸ばすアイバーン。


「グワァー‼︎」


 急にアイバーンに飛びかかる野良犬。


「止まれ‼︎」


 いきなり響いたその声に、ビクッとなり動きを止める野良犬。


「びっくりしたな〜。あ〜、ジアちゃんいらっしゃ〜い」


「いらっしゃ〜いじゃないでしょ⁉︎ あたしが止めなかったらアイ君、噛み付かれてたじゃないのさ⁉︎」


「ん〜? 大丈夫だよ〜。この子はただお腹が空いてただけだよ〜。はいどうぞ」


 何事も無かったように、野良犬の前におむすびを置くアイバーン。


「ク、クウウーン」


 だが、ジアを恐れているのか、震えて食べようとしない野良犬。


「ジアちゃん、もう許してあげて〜」


「はあ〜、あんたって子は……」


 アイバーンのユルい態度に緊張が解けたジアが大きく息を吐くと、同時に野良犬の緊張も解れる。


「いいわ、食べなさいよ!」


 ジアの許しを得た野良犬が、嬉しそうにおむすびを頬張る。


「美味しい?」


「ワンッ!」


 おむすびを食べ終えた野良犬が、尻尾を振りながら去って行く。


「相変わらずジアちゃんの目力(めぢから)は凄いね〜。もう睨んだだけで岩に穴空くんじゃない?」


「そんな訳無いでしょ!」


「でもジアちゃん身体弱いんだから、あんまり大きな声出すとあばら折れちゃうよ?」


「そんな人居ないわよっ! もし仮に折れたって、毎日牛乳3リットル飲めばすぐくっ付くわよ」


「その前にお腹壊しちゃうよ〜」


「それはそうとアイ君、こんなとこで何やってるのさ⁉︎」


「ん〜? 生き物観察だよ〜」


「今日はあたしと買い物に行く約束してたでしょ⁉︎」


「あれ〜、今日だっけ? ごめ〜ん、忘れてた〜」


「もうっ! 早く行くわよ!」


 アイバーンの首根っこを片手で掴んで引きずって行くジア。


「ジアちゃん、ホントに身体弱いの〜?」


「いつも弱ってる訳じゃ無いわよ! それに、アイ君は目を離すとすぐどこかに行っちゃうじゃないのさ!」


「ジアちゃんだってよく病院から脱走しようとするじゃない?」


「ずっとベッドで寝てるなんて、耐えられないのよ。もっとも誰かさんのせいで、成功率ゼロだけどね!」


「ンフフ〜」


 買い物を終え、孤児院に帰って来たアイバーンとジア。

 そんな2人を茶化す孤児院の子供達。


「ああー! アイ君とジアがデートから帰ってきたー!」


「なっ⁉︎ デ、デートなんかじゃないわよ! ただの買い物だって言ったじゃないのさ!」


 顔を赤くしながら否定するジア。


「ええー⁉︎ だって男の子と女の子が2人きりで出かけたらデートだって、パパ言ってたも〜ん!」


「あのエロオヤジ……と、とにかく違うからね!」


「そうなのー? 2人ならお似合いだと思ったのにな〜」


「ていうか、いつも一緒に居るからもう付き合ってるのかと思ってたのにー」


「あああ、あたしとアイ君はそんなんじゃないわよ! ほら! アイ君も言ってやってよ!」


「ん〜? 僕とジアちゃんはそんなんじゃないよ〜? 僕とジアちゃんはもっと深い関係だよ〜」


「えっ⁉︎ アイ君、それって⁉︎」


 まさかのアイバーンの言葉に、恥ずかしそうなジア。


「僕とジアちゃんは凄く仲のいい、兄妹みたいなもんだからね〜」


 一気に冷めた表情になったジアが、思いっきりアイバーンの足を踏み付けて部屋を出て行った。


「痛〜い! え〜⁉︎ ジアちゃん何で怒ってるの〜?」


「そりゃあ、今のは怒るよね〜」


「アイ君ってば、鈍感」


「ええ〜⁉︎」


 辺りが暗くなった頃孤児院に、推定年齢35歳程のひとりの男性が帰って来る。


「おかえりなさいませ、パドレー様。長旅お疲れ様でした」


 パドレーと呼ばれたその男性を出迎えるシスター達。


「うむ。私の留守中、変わった事は無かったかね?」


「ハイ。いつも通り、みんなとても元気でしたよ」


「そうか。それは良かった」


「おや? パドレー様、その子は?」


 ひとりのシスターが、パドレーの背後に隠れている少年に気付く。


「ああ、この子はノインツで……」


 そう言いかけた時、パドレーに気付いた子供達が集まって来る。


「ああー‼︎ パパだー‼︎」


「ホントだー‼︎ パパおかえりなさ〜い‼︎」


「パパおかえりー‼︎」


「ハハ、ただいま。みんな元気そうだね?」


「うん。元気だよ! あれ? パパ、その子だ〜れ〜?」


 少年に気付いたひとりの少女が覗き込む。

 恥ずかしそうに、更にパドレーの後ろに隠れる少年。


「ほら、隠れてないで自己紹介しなさい」


 だが、中々出て来ようとしない少年に、アイバーンが手を差し伸べる。


「僕はアイバーンだよ〜。君の名前は〜?」


「ぼ、僕は……」


 隠れていた少年がいきなり出て来て、アイバーンの手をバシッと払いのける。


「僕……お、俺様の名はブレン‼︎ 今日からここは俺様のナワバリだ! 手始めにお前!」


 アイバーンを指差すブレン。


「僕〜?」


「喜べ! まずはお前を俺様の子分第1号にしてやる!」


「そうなの〜? うん、分かった〜」


 ブレンの無茶苦茶な要求を、あっさり承諾するアイバーン。


「ちょっと! 何勝手な事言ってんのさ⁉︎」


 怒って飛び出して来るジア。


「何だ⁉︎ 活きのいい奴が居るな⁉︎ じゃあお前は俺様の子分第2号だ!」


「あ〜ん? あんた! 誰に向かってもの言ってんのさ⁉︎」


 ギロリとブレンを睨みつけるジア。


「あ……い、いや……ごめんなさい……」


 怯えた顔で目をそらし、うつむくブレン。

 孤児院における力関係がハッキリした瞬間である。






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