かたられるぽんぽこ
——それでは、最初は本当にただの獣だと?
「なにしろ出会いが出会いだからな、森にいた珍種の生き物だとしか思ってなかったよ。……今思うと、食料が潤沢にある環境で良かった。腹が減ってりゃ、捌いて食ったろうからよ」
——毒があったかもしれないのに?
「そんなもん、捌いてから一口食ってみれば大体わかるさ。ベテランの兵士はだいたい、野にある毒物は食ってるからな。啓示は参考にするが、飢えには勝てん。はは、こんなこと言うと神官連中には怒られちまうが」
——お話の中では、閣下が進んで保護しようとしていたようですが。
「まぁ、食うほど腹も減ってなかったしな。それになんか、実家の犬に似てたのよ。あの黒い目が。食い意地の張った年寄り犬で、俺にはあんまり懐いてなかったが……いや、その話はどうでもいいな。神樹の種を見つけるのが主目的だったが、難航してた。だから、報告書のタネが欲しかったんだよ。見たこともない生き物を持って帰れば、一応は“フィールドワークしてました”って感じになるだろ」
——ほとんど、気まぐれのようなものだったと?
「ぶっちゃけて言えばそうだな、それにアイツ自体手のかからない獣だったから、処分するタイミングを逃しったってのもある。なにしろ雑食だ、餌をやらなくても道端の虫とか実とか食って勝手に肥えてるわけ。あとは俺のオヤツでも食わしとけば、機嫌よくしてたしな。あ、これあとで注釈つけられるな。野生動物に餌を与えてはいけませんって」
——ばれちゃいました?
「最近は、業界も自主規制だらけで大変だ。ま、あの頃にはあの頃の価値観があったと思っといてくれ。最悪、非常食にしようと思っていたのも本当だしな。ともかく、手のかからない動物だったから連れ歩いた。最初はそれだけだったよ、あれだけ警戒心のない生き物も、物珍しかったし。神樹の種が見つからなくて、そのまま森の中であてどなくウロウロするのも飽きてた。神官殿の探知はめちゃくちゃざっくりで、この辺に種があるって見当はついても細かい場所までは分からなかったからな。皆んな木を見たり地面見たりと、あの時は一生分自然と触れ合ったような気がするよ。あの後しばらくは、森でピクニックしようなんて言われると、そそくさと逃げたっけ」