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あいまいもこたるぽんぽこ

日頃の行いが功を奏して狸鍋を回避して、私はこの人間の群れに強制的に参加させられました。

全部で15匹ほどの人間たちは、森の中をあてどなくうろうろしているようでした。

迷っているのかと思うとそうではないらしく、時々ちくヒゲが方向をきびきびと指示しています。

日があるうちにウロついて、暗くなるとそこで火を焚いて寝る。

燃える臭いはいささか気に入らないけれど、これのおかげで焼いた肉のおいしさを知りました。

どうやら私の毛皮の魅力にやられたらしいちくヒゲは、あれもこれもと色んな食べ物をよこしてくるのです。

これはおそらく、私の子分になりたいということでしょう。

二足歩行の子分は目立って邪魔なので、私は要らないのですが。

すまんな、ちくヒゲ。

それにこの大きな生き物はまったく気が利かないので、私のご機嫌を取りたがるくせに、肝心な要求には気がつきません。

私は何度もさっさと解放しろと伝えているのに、木偶の坊なちくひげはあろうことか、細長い革紐を私の体に巻きつけて逃げ出せないようにしてしまったのです!

イケてない、イケてないですよ、ちくヒゲ。

「しかし隊長は器用ですねぇ、ハーネスを自作ですか」

火を眺めながら私を膝に乗せ撫でるちくヒゲの横に、赤毛が座りました。

あの長い手足は想像以上に伸びて、逃げようとする私をあっさり捕まえるので、少し苦手です。

ちくヒゲと違い私の魅力があまり通じないようで、食べないことになっているはずの私を時々物欲しげな目で見て来ます。

これではおちおち昼寝もできず、仕方ないのでちくヒゲの脚を軽く引っ掻いて抱き上げさせます。

こういう合図はすぐ覚えるくせに、どうして私に巻き付けた紐をとってくれないのか。

まったくもってイケてない。

「俺の世代はなぁ、こういうハンドクラフトもカリキュラムにあったんだよ、なぁドルト」

「ん、ああ。隊長は大分凝ってた方だがな」

ちくヒゲの反対側に座っている大人間が、芋を剥きながらそう応じました。

のろまな熊みたいな印象のそいつは、どうやら群れの中でご飯を管理する係のようでした。

奴の荷物には食べ物がいっぱいなのですが、ご飯の時間以外にちょっかいをかけると背中の肉をつままれてぽいとされてしまうのです。

奴ら、自分でご飯を探すのが下手くそなので、今あるものを後生大事に抱え込んでいる様子。

この森はわりかし豊かで、虫も木ノ実もそこそこあるのに気づかないのです。

間抜けな人間たちが気づくと厄介ですから、教えてはあげませんけれど。

だって、私の取り分が減ってしまいますので。

厳しいようですが、これは野生の掟。

同胞でもない生き物を、助けてやる道理などないのです。

ちくヒゲの膝の上でパサパサを貪りながら、ふんすと息を吐きました。

「……隊長、その生き物を甘やかし過ぎでは?」

ちくヒゲを従える私に嫉妬したらしい大人間が、私を見下ろして眉を下げています。

たしかに皆んなに食べ物を分ける大人間を差し置いて、私だけパサパサをもらっているのは不公平かもしれません。

これも私のカリスマが成せる業…許せよ。

「そんなに沢山クッキー食わせて、太っちまうんじゃないですか」

「んん?いいんじゃないか、捕まえやすくなって」

なんということでしょう。

ちくヒゲの邪悪な企みが、今白日のもとに。

咀嚼を行ったっん停止して、ちくヒゲを見上げます。

お前、そんな悪いことを考えていたのか……。

「肉がつくだけならいいですけど、砂糖を与えすぎると病気になりますよ」

「それは良くないな」

ちくヒゲが、そう言いながら私を見下ろしました。

私を慕うヤツの考えは、何と無く分かります。

押し付けがましい親切によりパサパサを奪われる前に、私はそれを猛然と口に押し込みました。

「ありゃ、食べ切っちまった」

「意地汚い獣だなー、しっかり肥れよぅ」

赤毛が囃すのも無視して、私はどうにか出されたパサパサを食べきりました。

一度出されたものを回収されるなんて、冗談じゃ有りません。

二度と余計なことを言わぬよう、きっと大人間を睨みつけました。

「お、ドルト嫌われたんじゃないのか」

「……野生動物は大体人間が嫌いでしょうよ」

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