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レズカップルに追いつめられるのは好きですか? 4

 烈火の如く怒られた。これについては自分が悪いと、浅井もそう思う。でも、下痢は急に出るから下痢なのだ。自分でもコントロールなんて出来ないのだから許してほしい。


 しぶしぶとだが、名前は教えてもらえた。

 背が低くてショートカットなのが立川。

 背が普通でロングヘアなのが早乙女。

 身長と髪の長さで覚えておくことにした。


 ―――そうかー、あの裸が立川で、あの裸は早乙女かー。


 そこから先の思考を、浅井は強く意識を持って断ち切った。思い出してしまったことに対しては、しょーがねーだろ男なんだから、という言い訳を添えて。


「……ボクたち、何の話してたんだっけ」

「どうやって浅井君の弱みを握るかって話よ」


……あれ、そんな話だったっけ?

 何それこわいという顔で早乙女を見れば微笑み返された。こんな時じゃなければ、素直にかわいいと思いたかった。


「えーとですね、浅井君が先に私たちの弱みを握ってしまったので、今度は私たちが浅井君の弱みを握ってしまえば大丈夫かな、と」

「……なるほど、抵抗はあるが一理ある」


 一瞬気でも狂ったのかと思ったが、まともな理由で安心した。発言した通り、抵抗がないわけではないが、相手は先に裸まで晒したのだ。


 ―――当然、その姿を思い出した。正直な男で本当に済まないと思う。


 落ち着こう。とりあえず、自分の弱みで安心するのならそれでもいい。何かないかだろうか。


「……公言もしてないけど隠してるわけでもないし、俺がここで働いてるのは弱みになりそうにないしなぁ」




 その言葉で、立川と早乙女は即座に理解した。浅井は自身の客観的な評価を理解していないと。


 まず1つ目。

 いくら同性愛者でも立川達とて女子であり、女子特有の情報源も持っている。そしてその情報源曰く、店員浅井(ヒルナシ)の女子人気は中々に高いのだ。まず、浅井はこの事に気付いていない。


 そして2つ目。

 にもかかわらず、学校での浅井の周りは平穏そのものだった。つまり、浅井=ヒルナシだと気付いている女子はおそらく少数で、少なくとも噂にすらならなっていない。この事も浅井は気付いていない。


 つまり、この二つを組み合わせれば、浅井の学校の平穏を破壊できる。十分な弱み足りえるのだが、しかしてそこは以心伝心。それだけでは不十分だということにして、さらに深く掘り下げようとする。


「そうだねぇ、ボクたちでも気付いたくらいだし」

「浅井君、それが知られて困る相手がいるんですか?」




 浅井は何か二人のノリが違ってきたような気がしたのだが、残念ながら人の心の機微に疎い男であった。気のせいだと流してしまって、さらには素直に答えてしまう。


「……運動部の連中くらいか。去年、かなり勧誘がしつこかったんで」


 ここで、小鳥遊(たかなし)という少女について紹介しよう。

 立川と早乙女、浅井の所在を教えてくれた牧と合わせたこの四人こそが、2年3組が誇るトップカーストグループである。

 身長170cmと女子の中でもかなりの長身で、150cmを軽く下回る立川は常日頃からちょっとその身長を分けてくれと言っている。ついでに言うと、170㎝は多分サバ読んでるなと立川は睨んでいる。

 寡黙な性格で、自発的に話題の中心になろうとする人物ではないが、人付き合い自体は悪くない。


 単純に言うと、コミュニケーション能力のある浅井の女バージョンだ。


 ついでに言うと、四人の中でも一番胸が大きい。

 立川が小鳥遊に抱きつくと、身長差に加えて胸の凸と凸のすり合わせの都合でするりと胸の中に頭が埋まっていく。早乙女ではそうはいかなかった。少しばかり身長が足りず、胸の上と下が()()()()()()しまうのだ。

 四人の中で唯一寸動体型の牧などは、「巨乳の近くにいることで巨乳因子を摂取してウチも巨乳になるのよ!」などと息巻いているが、効果のほどは定かではない。


 その話はさておいて、早乙女は小鳥遊と当の浅井を頭の中で対比した。確実に小鳥遊よりも背が高い。二人が実際に並んでいるところは見たことがないのであくまで想像だが、恐らく頭半分以上は差があると思う。男の中でも長身な方だろう。となるとバスケ部やバレー部辺りだろうか。


「……浅井、ボクにも分けてくれない? その身長」


 それで許してくれるならそれもやぶさかでないが……、と言うのを尻目に、早乙女は一人心の中で思う。立川は背が伸びても可愛いだろうが、そのままでも素晴らしく可愛いと。

 その一方で、身長について触れた立川の脳は、過去のことを一つ思い出していた。


「あ、そういやめっちゃ足速かったよね。ほら去年の体育祭。団代表のリレーでさ、浅井、最下位から2位までごぼう抜きしてたよね」


 その言葉で、背が高い男がものすごい速さで何人も追い抜いて盛り上がったのを、早乙女もようやく思い出した。


「あー、うん。あの後、陸上とか野球からもすごい勧誘がな……」


 栄光の話のはずが、浅井にとってはそうではない。一人遠い目になっているのをみて、立川は妙案を閃いた。


「……よし、分かった。それじゃあ浅井、連絡先を教えて」


 浅井は急に話が飛んだ気がした。いや、待て。実は飛んでいないのかもしれない。今の話題は自分の弱みをどうするかということだ。つまり互いに連絡を取れることが弱みにつながるのだ。そして自分は先に二人の裸を見ているのだ。


 ……なるほど、そういうことだな。閃いた。


「……俺の裸を撮って二人に送れということか」


 何を入力すれば、こんな結果が出てくるのだろう。まだ脳に下痢が残っていたのだろうか。

 覆水盆に返らず。言った後で失言だったと浅井は思う。「バッ……カじゃないの!?」と立川は顔を真っ赤にして殴ろうとしてくる。やめろ、この眼鏡は借り物なんだ。あと声が大きい注目される。

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