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番外編・クラスメイトは見た! 謎の店員ヒルナシの正体とは……

 その日、小仙上(こせんじょう)高校2年3組の教室は、朝から緊張感で包まれていた。文化祭を終えた翌日の朝のことである。


 見知らぬ男が、浅井優大の席に座っている。


 カチューシャを付けた長身の男であった。我が物顔でその席に座り、教室の雰囲気も気にせず、読書を続けている。


 ひょっとして、転校生だろうか。


 だとすれば運がないと教室にいる皆は思う。よりにもよって、文化祭を終えた翌日なのだ。わざわざこんな日に転入しなくてもいいだろう。今日は授業という授業はなく、文化祭によってゴミ屋敷と化した校舎を生徒の手で清掃する日なのだ。


 もしかしたら、2年3組の担任教諭、地獄坂光からこの男に何らかの情報が伝わる間に、ミスが発生したのかもしれない。例えば教室の座席。例えば転校生用の新しい席の準備。例えばホームルームを迎えるまでの待機場所。


 そういったミスの咬み合わせが奇跡的に合い、2年3組で待機させられて、準備されているはずの「窓際の一番後ろの席」が準備されていなくて、だから誤って本来予定されていた席の一つ前、すなわち浅井優大の席に座っているのではないか。


 きっとそうだ。


 だとすると優大も運がない。普段は早朝から教室にいるあの男が、今日に限ってまだ登校していないのだ。彼が教室にやってきたらどうなるだろうか。あの根暗な青年は、この男に声をかけられるのだろうか。もしかしたら読書を通じて話しかけるのかもしれない。


 教室にいる皆にとって、それはあまりに未知との遭遇であった。



 緊張感という空気で膨らんだ風船は、二人の女生徒が登校してきたことで、あっけなく破裂した。


「あれ、()()?」


「あ、その姿で来たんですね」


「ああ、おはよう。()()()


 その瞬間、破裂した風船は3つの衝撃をもたらした。


 一つ。この男が浅井優大張本人であるということ。


 一つ。この三人が名前で呼び合っていたということ。


 一つ。この男が近所の喫茶店で働くヒルナシであると多くの女子が気付いたこと。


 巨大な不発弾が、ついに爆発した。



 その日が文化祭の翌日でよかったと、後に地獄坂はそう語る。


 文化祭の後で浮かれた生徒達が、連鎖するように騒ぎ出したと多くの教師が思ったからだ。だから他の教師の介入が遅かった。だから地獄坂だけが介入出来た。


 優大を始めとした話題の中心である三名は、地獄坂の手によって迅速に隔離された。その後、牧の必死の情報操作によって、この騒ぎはパンデミック・パニックを起こす直前になんとか沈静化された。



 ここは国語教師達の集うセーフルーム。すなわち国語準備室である。そこには、地獄坂によって隔離された件の三人だけがいた。


「……俺、何か間違ったんだろうか」


「うーん、優大が悪いような悪くないような」


「小規模だったはずの爆発が、別の所に連鎖的に着火して、それで大爆発を起こしたような感じでしょうか」


 優大はよく分からなかった。(つむぎ)疾風(はやて)は、爆発することは予想していたが、それがここまで巨大化するとは想定していなかった。


 何がいけなかったんだろう。三人でそう悩む。


「ああ、でも、時期はずらすべきでしたね。3月……いえ、3年になってからがベストだったと思います」


 優大は分からなかった。紬は分かった。


「あー確かに。優大、今年のバレンタイン、チョコ何個貰った?」


 優大はまだ分かっていないが、紬の質問に答えればそれが分かるのだろうとは思った。


「3個だな。紗雪姉と、安芸さんと、暁さん」


「お客さんからは貰わなかったんですか?」


「紗雪姉が全面禁止してたよ。事前に通達もされていたし。ああ、でも……」


「「でも?」」


「何かその日限定で、妙なサービスをやったな。特定商品を選べば運ぶ店員を選べるって言うの。それでやたらと俺が指名されたのも覚えている」


 余談だが、その日、喫茶店Mondnacht(モーントナハト)は過去最高の売り上げを叩き出している。


 そして優大の発言で、疾風たちは自分たちの予想が遥かに甘かったと理解した。


「優大。来年のバレンタイン、覚悟しておいた方がいいよ」


「いっそ学校をお休みしたほうがいいかも知れません」


「何言ってんだお前ら」


 優大は未だに分かっていない。




 結局、事態を軽視していた優大は、バレンタイン当日に普通に登校した。


 そして学校中を走り回ることになった。北は体育館裏から南は運動場の部室棟裏まで。


 こうなることを事前に予測していた紗雪は、バレンタイン当日はMondnachtは午後休だと事前に通達。その日の放課後を優大と共に過ごすことが出来た。


 そしてその日の夜、優大の部屋にあるベッドは、人間二人分の重量に耐えている。愛の重さと振動と数度の再戦に耐えている。


 机の上には、陽葵(ひなた)の写真と共に、3つのものが置かれている。


 本命チョコが一つ。友チョコが二つ。誰のものかなんて言うまでもない。




 命短し恋せよ乙女。


 翌日も、浅井優大の受難は終わらない。

浅井は警戒心が高く、よく知らない相手からはバレンタインだろうとチョコを受け取ろうとしません。

渡された相手を覚えておくことと、その相手にお返しするのが面倒くさいという理由も割と大きいですが。

赤の他人からチョコを貰う喜び<<<(越えられない壁)<<<よく知らん相手にお返しする面倒くささ

な生態をしています。


ただのクラスメイトやバイトの常連客程度ではノーチャンス。

信頼している担任教諭やバイトのスタッフ辺りからなら受け取ってくれるようになります。


牧や小鳥遊の義理チョコを受け取るかは半々。伊東や市原に悪いと思うのが半分。友人からの義理チョコを受け取らないのは悪いと思うのが半分。

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