レズカップルにお祝いされるのは好きですか? 1
「……彼氏ができた」
小仙上高校、二学期の一日目。
小鳥遊の第一声であった。
無表情ながら、両手でVサインをして、それを鋏のように開け閉めしている。
シュールだと立川は思う。だけどひどくご機嫌なのだということも立川は分かる。
牧を見れば首を振られる。自分も知らなかった、ということだろう。
牧にも知られず、その二人はどこで知り合い、そしてどこで逢瀬を重ねたのかは気になる。凄く気になる。だけどそれ以上に重要なことがあるのだ。絶対に無視できない重要な部分が。
「たかちー。その、おめでとうってお祝いしたい気持ちはあるんだけど。あるんだけどね……」
慎重になる。当然だった。立川は小鳥遊の趣味を知っている。
よもや本当に小学生に手を出してしまったんじゃないだろうか。夏と言えばプールだ。そしてプールといえば海パン姿ではしゃぐ小学生男子だ。あの豊満なボディで一人の少年にめくるめくひと夏の体験をさせてしまったのではないかと立川は気が気でない。文字通り一皮剥けさせてしまったのではないか。
立川だけではない。早乙女も、牧も、立川と全く同じ気持ちであった。小鳥遊と立川の会話を緊張しながら拝聴している。
「そのー、どういう子? 写真ある?」
ふるふると、小さく首を振られる。
「……写真は見せられない」
おいおいこいつどんな写真撮ってんだ。可愛い顔してアクセルべた踏みでいけないボーダーラインを飛び越えてしまっているんじゃないか。三人の心は一つになった。
「……立川、早乙女。今日はバイトある?」
「え? あ、うん。今日から復帰だけど」
小鳥遊と牧には、不始末を起こしたので夏休み中のバイトが無くなったと伝えてある。さらに用事が出来たので二学期まで遊べないとも。しかしどうしてここでバイトの話なのだろう。ひょっとして誤魔化す気なのだろうか。やはり小学生でめくるめくで一皮剥いちゃいましたなんだろうか。
「……そう。じゃあ、放課後少し待ってて」
「あの、それはもしかして、お相手はこの学校の方、ということですか……?
夏休み前に言っていた方も……?」
夏休みにひたすら詰め込まれた知識のせいで底の方まで押し込まれた古い記憶。おのれ浅井優大。あいつ本当容赦なかった。お盆休みは束の間の自由だった。浅井への恨みつらみを胸の中に吐き出しながら立川はようやくそれを発掘できた。夏休み前、水着を買いに行こうと誘った時に小鳥遊は何と言って断ったか。
「上手くいったの!?」
頷かれた。
「えっ本当に!? 相手誰!? 一年!?」
人差し指を立てて唇の前へ。
「……まだ秘密」
わずかにだが、その唇は間違いなく曲がっていた。
お盆休みを経て数日振りに浅井と再開した時、雰囲気が変わっていたように立川は思う。
こういう変化に心当たりがあった。
童貞を捨てたのではないか。相手はもちろん紗雪だろう。過去、友人達が彼氏とヤった後の彼氏たちの雰囲気の変化によく似ているような気がしたのだ。バイトが禁止期間だったのが悔やまれる。当時に紗雪と出会うことが出来ていれば、紗雪と浅井が共にいる状況に遭遇できていれば、この疑惑はきっと確信できたのに。
首の奥がグズリと痛む。胸の奥が締め付けられる。
立川は、このことを考えないようにした。
浅井手ずからの教えで、立川の学力は盛り盛りと伸びていった。
盆休みを終えた立川を待っていたのは、また地獄だった。
勉強の後に襲い来る確認テストが、サボりのツケが生み出した復習の海が。
暗記と理解を、基礎と応用を立川の脳をミキサー代わりに混ぜて飲み込んだ。
次の地獄は二学期の中間試験だろう。その時も早乙女と付き合ってもらおうと立川は決意を固める。
浅井手ずからの教えで、早乙女の調理技術は盛り盛りと伸びていった。
お盆休みの間に練習したんですよ、と言って作ったのは、オムライスだった。ニヤリと笑っていた。あの笑い方は、どうだ、という自信のほかに何か別の意図があったように浅井は思う。それがどういう意図だったかまでは分からなかったが。
最後の方には「これじゃあ勉強合宿じゃなくて花嫁修業でしたね。あ、花婿さんは浅井君じゃなくて紬ちゃんですから。勘違いしちゃだめですよ?」などと軽口まで叩いていた。
始業のチャイムが鳴る。
体育祭がある。文化祭がある。そして二年生には修学旅行がある。
楽しい楽しい、二学期の始まりだ。
二学期は本当イベント多い
なおそれをうまく使えるかは別問題




