レズカップルにお世話をされるのは好きですか? 6
「念のために確認するけど、どっちか料理できるのか?」
浅井のその一言が、二人の乙女の心を深く傷つけた。
「料理ができなくたっていいじゃない。人間だもの」
「鋭意検討中といいますか前向きに検討させていただきますといいますか」
「どっちもできないんだな」
「「はい……」」
あれ、と浅井は何か引っかかった。
「いや……、前に早乙女が泊まった時、朝に何か作ってなかったか?」
早乙女が目を逸らした。そのまま見ていると「……紬ちゃんです」と蚊の鳴くような声が出てくる。そのまま見つめていると観念したのか、
「あれを用意したのは紬ちゃんです!」
「……立川、何故料理ができないなんて嘘を」
「え、いや。だってあれ料理って言うか卵とベーコン焼いただけだし。ボクそれ以上は出来ないよ」
それは十分料理だと思ったが、もう一つ問題があった。立川の身長だ。料理中、足場として使えそうなものが見当たらない。仮に足場があったとしても、包丁でも使ってる最中に足を踏み外しそうで正直言って怖い。
人間、あきらめが肝心である。
冷蔵庫の中を確認するが、未加工で食べられるものはあまりなかった。普段なら弁当用に冷凍食品があるのだが、夏休みに入るので、学校がある間に調整して全て消費していたのが仇になった。
「すいません、気が利かなくて……」
「来る途中でコンビニに寄って来ればよかったね」
「コンビニかー。高いからあまり使いたくないんだよなぁ……」
「普段はどうしてるんです?」
「駅の反対方向に大型スーパーがあるんで、いつもそこだな」
「歩いてどれくらい?」
「ここから近くのコンビニまでと大体同じ」
「確かにそれならスーパーに行きますね。でも、まだ空いてます?」
「……多分、閉まってる」
正確には覚えていないが、9時か9時半閉店だったと浅井は思う。もっと遅くまで空いているなら、浅井もバイトの後でお世話になっていたはずだからだ。
「しょうがない。コンビニ行くか……」
「あ、いいよ浅井は残ってて。ボクが行ってくるから」
「……立川、さっきの俺の話、聞いてたか?」
こんな時間に女の子だけで夜道を歩かせるわけにはいかない。
結局、三人で行くことにした。
セミの鳴き声が聞こえる。今何時だと思ってるんだと浅井は思う。昼間のマンションの5階より、真夜中の夜道の方がセミの声は大きく聞こえる。
「……そういえば、家の人にはなんて言ってきたんだ?」
「勉強合宿という名目です。紬ちゃんの期末の結果で大層驚かれまして。あの時勉強を教えてくれた人が、夏休みを利用して泊まり込みで勉強を教えてもらえるって伝えたらどっちの家の親もすぐに許可を出してくれました。事前に紗雪さんが口裏を合わせて連絡しておいてくれたのが大きいですね」
「それ、相手がクラスメイトの男だって知ったらまた大層に驚かれそうだな」
真実を知った二人の父親がいつか包丁を手に突進してくるのではないか、そして紗雪は実はこの状況を楽しんでいるのではないだろうかと、浅井はそう思わずにはいられない。
「立川の勉強を見るつもりではあったから、辻褄は合っているか」
当の立川は、先程から聞こえないふりをしていた。お前、スパルタだから覚悟しとけよ。
「あ、しまった。俺がこんなんじゃシフトも全部調整して貰わないと」
「あれ? 浅井ライン見てない?」
聞こえてるじゃねえか立川。
スマホを確認しようとしたが、持っていないことに気付いた。まだリビングに置きっぱなしだ。手元にあるのは財布と鍵だけだった。
「グループで連絡来てましたよ。夏休み限定でですが、二人補充の当てがあるそうです」
そりゃまた都合のいいことで。
夏休み中の仕事は割と余裕だ。学校がないから放課後も何もない。部活にくる生徒がぽつぽつと利用しに来るのと、一部の教師が襲来するくらいだ。仮に三人が全員抜けても、二人も増えれば十分に回るだろう。
「そしてボクたち三人はペナルティ。夏休みの間は全部お休み」
どうやら、さっき考えたのはフラグだったらしい。
「全部、……って全部!?」
「そんな驚くこと?」
「いや、だってお前らバイト代とか」
「浅井をほっといて遊びに行けるわけないじゃん。前に貰った分を使う当てがないよ」
「私はお金は二の次で、あそこで紬ちゃんと一緒に働くことが目的でしたから」
謙虚なことだ。
そして夏休み限定とはいえ、妙に都合よく補充できたものだと見知らぬ二人のことを考えた。
今度は一体だれが、宇宙人の観察対象にされたのだろうか。
観察対象にされた二人のスピンオフもこれが完結したら書きたいところ




