表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/34

レズカップルにお世話をされるのは好きですか? 5

 問.三人の供述内容より、誰が悪いのかを求めなさい。


 供述者その1。立川(つむぎ)

 「ボクがふざけて浅井を揶揄(からか)っていたら、それで浅井をひどく怒らせてしまったんです。すべての元凶はボクです」(補足:本人はかなりの狼狽が見られ、顔は涙と鼻水でとても人に見せられない様相を呈しており、聞き取りには大変な困難を要した。この供述は本人の口から出たものではなく、鳴き声と鼻水をすする音と謝罪の言葉の間にかろうじて聞き取れた内容をまとめたものである)


 供述者その2。浅井優大。

 「立川に手を上げた。早乙女が俺から立川を助けたら、結果的に骨折していた。女性に手を上げた俺が全部悪い。この怪我は完全に自業自得によるものだ。どうか二人を責めないでやってほしい」


 供述者その3。早乙女疾風(はやて)

 「紬ちゃんを助けなきゃって思って。無我夢中で。掴んでいる手に飛び掛かって、紬ちゃんを奪い取るように体当たりをしたら、その……。骨折させてしまいました。浅井君の怪我は私のせいです。ごめんなさい」


 裁定者、今泉紗雪のコメント。

 「喧嘩両成敗っていうか、もう全員が自分を悪いって思ってるから全員が悪いってことでいいんじゃないかしら」


 三人が上告した。一人は変わらず「悪いのは俺一人だから」と。残る二人は「それじゃあ自分たちの気が済まない」と。


「面倒くさい子たちね三人とも!? じゃあこうしましょう。ふたりはゆーくんが完治するまでお世話をしてあげて。私が帰れるのも土曜の夜だけだし、片手じゃ何かと不便だろうし。それが二人への罰ってことで。ゆーくんはこの二人に面倒を()られるのが罰ってことね」


 その裁定に一人は不満たらたらだったが、ここは法治国家日本である。四名中三名の意見が一致したことで、今回の事件は解決扱いとなった。


 ただ一つだけ。一名だけ、「怪我は俺の責任だから、治療費とか賠償金とか、その類のものは一切受け取らないし請求もしない」と強く求めた。これが認められないのなら、この裁定は受け入れられないと。


 ようやくここに、当事者三名による合意が得られたのだ。




 やっと帰ってこれたと、浅井は一人そう思う。騒動が起きたのは昼過ぎだったが、今はもう完全に日が落ちている。なんでこんなに遅くなったかを思い出そうとして、ほとんどが泣きじゃくる立川をなんとか(なだ)めすかしていただけだったと気付いたので忘れることにした。


 リビングは出ていった時のままだ。今日ついに終わった立川の課題。三人分のカップ。中には飲みかけの珈琲やミルクティー。浅井の読みかけの文庫本。横に倒れる一人用のソファー。机の上、着信があったことを点滅して知らせている浅井のスマートフォン。二人とも鞄を忘れている。いくら何でも慌てすぎだとくすりと笑う。


 半日と経過していないのに、浅井には何もかもが懐かしく思えた。


 すまないと、浅井は強くそう思う。あの様子では、二人は浅井の謝罪を受け入れないだろう。それでも浅井は、一人そう思うのを止められない。

 自分なんかに関わってくれてありがとうと思う。自分なんかに関わるからあんな目に遭うんだと申し訳なく思う。自己嫌悪で窓から飛び降りたくなってくるが、そうした所であの二人は余計に気に病むだろう。


「……片付けるか」


 明日、二人がリビングを見れば怪我をしているんだから余計なことはするなと、自分たちに全部させろと怒りそうな気もするが、別に腕が一本動かせないだけなのだ。最近の食器乾燥機はすごい。中に入れれば自動洗浄までしてくれるから片腕でも困りはしない。




 そんなことをしているから、この男は最後まで気付かなかったのだ。




 チャイムが鳴った。時刻は午後9時21分。今忙しいんだと思い無視しようと思うが、こんな時間に訪ねてくる馬鹿は誰だと同時に思う。


 インターフォンを付ければ、見知った顔が二人で並んでいる。

 息が弾んでいる。きっと駅から走ってきたのだろう。カメラ越しではなく自分の目で見れば、きっと玉のような汗が浮かんでいるのではないかと浅井は思う。

 大量の荷物を持っている。この間のボストンバッグが可愛く見える。




 浅井が最後まで拾わなかったスマートフォンには、メッセージが着信している。


 ―――今日これから行くから 20:38

 ―――リビングの掃除は私たちでやりますから、何もしなくていいですよ 20:40

 ―――お風呂だけ入ってて 20:41

 ―――やっぱり今の無し。一人じゃ洗えないよね。お風呂も手伝うから 20:43


 その後にも、分刻みでいくつものメッセージが届いているが、ある時を境にピタリと止んでいる。

 最後のメッセージ。


 ―――今駅から降りた。すぐに向かうね 21:10


 そして同時刻に、()()()()()のスタンプが二人から送られている。一体どこで手に入れたのだろう。

 駅からここまで、歩いてどれくらいだっただろうか。少なくとも11分でたどり着けないことは確かだ。



 安堵で緩みそうになる顔に活を入れる。二人以外に誰も映っていないことを確認する。

 浅井がやることは決まっていた。二人を中に入れて説教をするのだ。

 ―――こんな時間に若い娘だけで外を出歩くなんて何を考えているんだ、と。

立川、物理面は強いんですが(暴力系、殴ったんだから殴り返されて当然だし、怒らせたのなら殴られて当然という思考)メンタルはめっちゃ柔らかいってキャラです。暴力ヒロインというよりは物理全振りヒロイン。


対して早乙女は物理面が弱い(相手が怒ると殴られると思って身がすくむタイプ)んですが、メンタルは強いって対比で書いています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ