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レズカップルにお世話をされるのは好きですか? 2

「立川さん、頑張ったんだからご褒美を上げるべきだと思わない?」


 そう言ったのは、Mondnacht(モーントナハト)店長の今泉紗雪だった。

 店舗にいるのは総勢四名。浅井、立川、早乙女、そして紗雪だ。つまり、客は誰もいなかった。


「そうですよ、ヒルナシ君。最後まで面倒を見るべきです」


「餌を上げたことはないんだが」


「成績っていう美味しい餌をあげちゃったじゃないですか」


 浅井が黙った。形勢が不利なのを悟ったのだ。そもそも、紗雪が立川達の味方の時点で浅井の不利はどうやっても覆らないのだが。


「……店長、せめて一緒に来てもらえませんか」


「そんなことしたら私に任せて逃げるでしょ、絶対に」


 完全に行動を読まれていた。


「頼むよ~ヒルナシ~! 来年の夏なんてどう考えても着る暇なんてないんだからさ~」


 命短し恋せよ乙女。

 久々に、宇宙からの電波を受信する。もうUFOの日を有する6月は終わったというのに、宇宙人は今日も元気だ。


「分かった。分かったよ」


「イヤッホー!」


 立川が抱き着いてきたので脇に手を入れて持ち上げる。


「その代わり、今年の夏休みから受験対策に取り組むからな。立川、自分の成績分かってるのか?」


 真顔になっておとなしくなった。肩から力が抜けて下に落ちていく。腕が上に延ばされたまま、背が高い男に捕まった宇宙人のような体勢になっていた。




 日曜日、朝早くから浅井は立川と早乙女(レズカップル)に襲来されていた。


「ショッピングモールの前で待ち合わせでよかったんじゃないか?」


「いや、絶対ナンパされるし」


「それ以前に、浅井君を改造しないといけませんし」


 立川の今日のファッションは、黒のチューブトップブラに同じ色を合わせたショートパンツ。肩とかへそとか太ももとか、ちょっと露出が多過ぎないかと浅井は目のやり場に非常に困る。


 早乙女は、立川と色を対比させるような白のワンピース。胸の下と腰の二か所にそれぞれ細いベルトが止まっている。露出が少ない分こちらがマシかと思いきや、胸回りが緩いので深い谷間が目に映る。


 同級生男子の家に来るんだから、もうちょっと服装は考えて欲しい。

 いや、そもそも今日はこの二人のデートに、虫よけとして浅井がついていくだけなのだ。わざわざ虫よけの視線なんて気にしない。それだけの話なのだろう。


「浅井君」


「なんだ」


「エッチな目で見るのは許しますけど、お触りは厳禁ですからね」


「やかましいわ!」




 視線が気になる。

 落ち着かない。

 周りの人間すべてが自分の陰口をたたいている気がする。

 浅井はこういう状況をなんというのか知っている。

 針の(むしろ)、だ。


 試着室から、立川が顔だけを出してきた。


「あれ、疾風(はやて)は?」


「他のを取りに行ってる。……言っておくが、俺に見せても良し悪しは分からんぞ」


「あーいやーそのー、ちょっとサイズ合わなかったって言うか、今人様には見せられない状態というか」


「まさか俺に取って来いなんて難易度の高すぎることを要求したりはしないよな」


「それはちょっと……。サイズ知られんのは恥ずかしいし」


 女性の水着サイズについて、浅井にはその知識がなかった。例の作者の本にも書かれてはいなかった。さすがに宇宙人と戦うのに、そんな知識は必要ない。


「ねえ浅井」


「なんだ」


「なんで『ヒルナシ』って呼ばれてんの?」


「うん? ……ああ、俺のフルネーム、分かるか?」


「そりゃ浅井じゃないんだから分かるよ。浅井優大でしょ」


「『朝』と『夕』が入ってるだろ?」


「うん? ……うん???」


「分からんか? 音が同じだ」


「ああ、うん。確かに入ってるね。でもなんでそれでヒルナシ?」


「『朝』と『夕』があるけど『昼』がないだろ。春夏冬と書いて秋が無いから『あきない』と呼ぶのと同じ理屈だ」


「その読み方と理屈初めて知った」


「ああ、うん……。そっか……」


「あとさ、浅井」


「なんだ」


「冷房効きすぎてちょっと寒いから、上着貸してくんない?」


 言わんこっちゃない。




 早乙女が戻ってきて、最終的に浅井は店の外で待つことを許してもらえた。上着は立川に奪われたままだった。右腕の傷痕が露出してしまうのが妙に気になる。今更だが、横着せずにアームガードを付けてくるべきだったかもしれない。

 ボディバッグの中に文庫本を1冊入れてきたのが不幸中の幸いだ。読書しながら二人を待とうとしていたのだが、やたらと女性に話しかけられる。全然読み進められない。何故だ。本を読んでいるのになぜ話しかけてくるんだ。俺が今忙しいのが分からんのか。


 げんなりしていると、ようやく立川と早乙女が店から出てくる。思わず笑顔になった。近付く二人が突然固まり、あれほどしつこく話しかけていた女性たちが去っていく。

 どうして二人があれほどナンパ除けになってくれと求めていたのか、浅井にはよく分かった。これは確かに必要だ。今後は頼まれたら、もう少し前向きに検討しようと浅井は思う。

ヒルナシの由来を話す機会がないかと待っていたんですが、今回やっとその機会に恵まれました。

後で読み返すとここに入れればよかったなーとか後から改善点に気付くタイプです。

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