レズカップルに追いつめられるのは好きですか? 1
とあるゲームのGvGイベント中に閃いたのを形にしました。
旧作は眠気と酒でかなりテンションハイになって書いたやつだったので最初から大幅に書き直しです。
旧作を読んでいただいた方は駄文でしたがありがとうございました。
浅井優大は根暗である。友人はいない。
人に話しかけず、本を読んで過ごしてきた。
浅井には青春が分からず、平穏を愛し、静寂を愛する日々を生きていた。
けれども平穏を破壊する出来事に対しては、人一倍に鈍感であった。
たとえば、そう。
放課後の誰もいないと思っていた教室で、女同士でキスしている最中にその教室の扉を開いた時とか。
件の二人は全裸であった。どちらも大きい。浅井の素直な感想だった。浅井が電気のスイッチを入れたせいで、闇に隠されることなく、その先端部までもがしっかりと視界に収められていた。
カーテンは全て閉め切られているし、浅井が入るまでは教室の電気も落とされていた。きっと二人で計画して、教室に誰もいなくなるまで待っていたのだろう。
申し訳ない気分になった。逢瀬を邪魔してごめんなさいと。
しかして浅井はこうも思うのだ。そこまでやるなら、どうして鍵を閉めていないんだと。画竜点睛を欠くとはこのことではないだろうか。
足元から平穏が破壊される音が聞こえるが、それはきっと幻聴だろう。危険を賭してでも美しい景色を見たいという人の気持ちが、浅井は今なら完全に理解できた。
まるで夢でも見てるようだが、しかし、目に映る圧倒的情報量が伝えてくれるツヤとハリと重量は、これは現実だとも教えてくれる。
浅井は何故か、裸ばかり見ているのは失礼だと突飛な方向に考えた。その思考が向かう先は、二人の顔を確認しようという行動だ。そしてその後に、それが失敗だと浅井は気付いた。
浅井が根暗で、本だけが友達で、自分から人に話しかけることをせず、この一ヶ月で教師以外に話しかけられることもなく、そして影で暗黒門番と呼ばれていることを知らないような男でも、一ヶ月も経てばクラスメイトの顔くらいは覚えているのだ。
二人は、浅井が自分たちが誰が気付いたのが分かったのだろう。青ざめた顔がぐにゃりと歪んでいくのが分かる。ヤバい。泣かれる。
よし、逃げよう!
そう結論した浅井を、誰が責められようか。
浅井には分かっていることが一つだけあった。俺ではこの状況を終息させることは不可能だ、と。
そして、そんな浅井にでもできることが一つだけあった。
「―――誰にも言わないから」
さっき自分でつけた電気を消す。カーテンは外からの光を遮り、わずかな隙間から差し込む光だけが光源となって、教室が薄闇で包まれた。
元通り、だ。
「信じられないかもしれないけど、約束する。話すような相手もいない。……そもそも、俺が言ったところで誰も信じないし」
廊下に出て扉を閉める。その直前、
「ごめん、邪魔をした」
教室に戻った目的も忘れて、浅井は廊下を駆け出した。「廊下を走るな」のポスターが見える。今ばかりは許してほしい。男なら誰だって、廊下を走らなきゃならない日が来るのだ。浅井にとっては今がその時なのだ。
階段を2段飛ばしで駆け下りる。昼休みは生徒で溢れる購買前は、当然ながら放課後には誰もいない。遠慮なく駆け抜けて昇降口までたどり着いた。
乱れた息を整えながら、あの二人は追いかけてくるだろうかと考える。
―――裸を思い出した。
違うそうじゃない落ち着くんだ浅井優大。追いかけようとする前に、あの二人は服を着なければならない。その時間はきっと、自分に逃げるだけの猶予を与えてくれるはずだった。
よもや全裸なり半裸なりで追いかけてくるほど常識知らずではあるまいと思う。
一般常識がある女子高生なら、放課後の教室で全裸になって抱き合ったりはしないのだが。
願いを託すには、あまりにも不安が過ぎる相手だった。
……実は一つだけ、嘘をつきました。
昨日まで続いた5月の大型連休は、浅井にすっかりクラスメイトの顔を忘れさせていた。
そのせいで余計に、二人がクラスメイトだと気付いたことで、顔と裸が強く脳裏で結びつけられてしまったのだ。
ああ、名前も覚えていないクラスメイトの二人よごめんなさい。今後は二人の顔を見る度に、二人の裸を思い出すと思います。
ブクマとかで評価ポイントが貯まると、作者の承認欲求の獣化ポイントが比例して増えていきます。
君もブクマして一人の人間が承認欲求の怪物になるのを手伝おう!!