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奇術師、叱られる

 ポンッという軽い音を立て、二人の周囲で小さな破裂が起こった。音と共に発生した煙が消えると、そこには小さな正方形の木箱が無数に現れていた。その木箱らは一面が空いており、何かの入れ物の様な見た目をしている。


「なっ!?これは、奇術師の力か?」


 驚愕の表情を浮かべるカーティオを見て、エスは満面の笑みで答える。


「その通り、折角剣術を教えてもらうのだ。私の【奇術師】もお見せしよう」


 そう言いお辞儀をするエスだが、カーティオは警戒心を強め木剣を構えた。


「そう警戒しなくてもいいだろ。命の取り合いをするわけじゃないのだ。それに…」

「…なんだ?」


 途中で言葉を切ったエスにカーティオが問いかける。


「私だけを警戒していると痛い目をみるぞ?」


 エスは徐に足元の木箱、その開いている面へと木剣を突き立てる。木箱の開いてる面は剣身が入る程度の大きさで、まるで底など無いかのように木剣は木箱にスルスルと飲み込まれていった。


「いったい何を…っ!?」


 カーティオは足元にあった木箱がカタカタと揺れるのに気づく。そして、嫌な予感を感じ咄嗟に後方へと飛び退いた。カーティオが逃げた後、その木箱からはカーティオが先程居た場所へと木剣の剣身が突き出された。


「おいおい、何だコレ。もしかして、この箱全部が…」

「そう、ご想像の通り。さあ楽しんでくれたまえ!」


 エスは剣を木箱から引き抜くと、別の箱から飛び出していた剣身もそれと同調するように引き込まれる。そして、再びエスは木剣を木箱へと突き立てた。


「二度はくらわん」


 カーティオは、すぐ近くでカタカタ揺れた木箱へと視線を移す。そこから飛び出てきた剣身を手に持つ木剣でガードした。


「なに!?」


 ガードしたかと思った剣身は、カーティオの持つ木剣をすり抜け体へと突き刺さる。しかし、痛みどころか当たっているという感覚すらなかった。


「幻影か!」

「ほら、油断してはダメだぞ」


 エスの言葉に我に返ったカーティオだったが、勢いよく背中を押され前につんのめる。なんとか倒れることなく踏みとどまったカーティオが振り向くと、浮かんだ木箱から剣身が飛び出していた。


「いかがかな?私の【奇術師】の力は」

「わけのわからん力だな…」

「結構結構、わかってしまったら驚きを提供するという目的から外れてしまうからな。フハハハハ」


 エスが木剣を引き抜き徐に指を鳴らすと、周囲に落ちていた木箱が宙へと浮かぶ。そしてカーティオを取り囲むように周囲に漂い始めた。エスは足元に残った一つの木箱を拾い上げる。


「さて、フィナーレといこうではないか!」


 その言葉にカーティオは木剣を構え集中する。その木剣には白い光が集まり、薄っすらと光りはじめていた。エスがそんなカーティオを見つめながら手に持つ木箱へと木剣を突き立てようとしたそのとき、ガラスの割れるような音が響き渡りカーティオが張った結界が消滅する。それと同時に、宙に浮く木箱もすべて消滅していた。もちろん、エスが手に持った木箱も消滅している。


「エスさん、少々やりすぎではないですか?カーティオも程々にしなさい」


 声のした方へと二人が向くと、そこにはチサトが立っていた。


「ふむ、カーティオに付き合っていたら叱られたではないか」

「俺だけのせいかよ!」


 やれやれといった表情でエスがカーティオを見ると、カーティオは諦めたようにため息をつき俯いていた。


「多少は下位の者たちに刺激になったでしょうし、これ以上は何も言いませんが…。特にエスさん、あまり派手に【奇術師】の力を使われると、悪魔の気配に気づく者がいますのでご注意ください」

「やれやれ、仕方がない。程々、というレベルにしておくと約束しよう」

「お願いしますね」


 エスの言葉を聞き微笑むチサトは、そのままどこかへと歩いていってしまった。それを見送ったカーティオは周囲で見学していた聖騎士たちに再び訓練に戻るよう指示していた。


「ハッ!そういえば怒られたせいで、プライバシーの侵害だと文句を言うのを忘れていたな。まあいい、私は別の場所にでも行こうか」

「そういえば、見学だって言ってたな。それなら書庫でも行ったらどうだ?色々と知れると思うぞ」

「ほう、それはイイ。是非行こうではないか」


 書庫のことを聞いたエスは、カーティオ達に手を振り再び転移部屋へと戻ってきた。操作板を眺め書庫の文字を発見すると、その横の紋様に触れる。エスは今までと同様に光に包まれ、また別の場所へと移動した。


「さて、書庫とやらはどこかな?」


 しばらく廊下を歩くと、少し開いている大きな扉の前へと辿り着く。僅かに開いている隙間から中を覗くと、大きな本棚に大量の本が見えた。


「ここか?」


 エスはゆっくりと扉を開き中へと入った。


「ほほう、食堂も広かったが、ここはもっと広いな。一体どれだけ本があるのだ?」


 部屋を歩きながら周囲を見るエス。書庫の広さは会食した食堂とは比べ物にならない程の広さだった。その広い空間に天井に届くほどの本棚が所狭しと並び、ぎっしりと本が収められていた。


「いやはや、これでは何がどこにあるのかわからんのではないか?」


 そんなエスの独り言に背後から声がかけられる。


「そんなことはないですよ。ちゃんと望みの書物を見つけるための魔道具があります」


 エスが振り向くと、そこにはアエナが立っていた。いつもの鎧姿ではなく、白い服を着ている。


「アエナか、今日は鎧ではないのだな?」

「ふふふ、私は鎧を着てる方が少ないのですよ。それより、何かお探しですか?」

「面白いものを探してここへ来たのだが…。この世界についてわかる本はないか?」

「それでしたら、魔道具をお貸しした方がいいでしょうね。こちらへどうぞ」


 アエナに連れられエスは書庫の奥へと歩いていく。少しして、机や椅子の並んだ如何にも読書をする場所といった場所へと到着する。そこでは見知った顔が本を読んでいた。


「あ、エス様」


 アエナに連れられ現れたエスに気づいたアリスリーエルは、本を置くとエスの元へと駆け寄ってきた。


「アリスはここでも読書か?」

「はい、見たことのない書物があっておもしろいです」


 話しているエスとアリスリーエルをそのままに、アエナは事務処理などに使われているようなスペースへと向かうと、机の引き出しから一つの球体を取り出す。その球体を持ちエスの元へと歩いてきた。


「こちらをどうぞ。これを手に念じてもらえれば、その本へ導いてくれますよ」

「ほう、それは面白そうだ。是非使わせてもらおう」


 エスはアエナから球体の魔道具を受け取ると、早速この世界のことについて書かれている本を見つけるよう念じてみる。すると頭の中に、その本の場所をまるで誰かに聞いたかのように理解する。しかし、『この世界のことについて』と大雑把な条件だったためか、大量の本の場所が流れ込んできたためエスは眩暈を起こす。額を抑えながらふらつく体に力を込めた。


「エス様、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。条件が大雑把すぎて、情報量が多すぎたようだ」


 心配そうにするアリスリーエルに、エスは大丈夫だと告げた。


「細かく条件付けをした方がいいですよ。それはあくまで狙った書物を探すための物なので…」

「そういうことは使う前に言って欲しいものだな。だが、実にコレも面白い。ファンタジーな道具だ!フハハハハ」


 アエナの言葉に僅かに文句を言うものの、エスは魔道具を使った際の経験に感動していた。


「それではごゆっくりどうぞ」

「わたくしも、続きを読んでますね」

「ふむ、では探してみるか…」


 アエナは魔道具を取り出した机へと向かい、アリスリーエルは先程まで座っていた場所へと戻っていった。エスは二人に背を向け、球体を握り念じる。

 もう少し、細かく指定か。悪魔について、では七大罪の物が引っかかりそうだな…。そうだ!

 エスは、条件を細かく指定する。キーワードに指定したのは、奇術師、舞踏家、曲芸師、道化師、調教師の五つ。自分たちを表現する言葉だった。少しして頭の中に二冊の本の場所が浮かぶ。その場所へとエスは歩いていった。

 目的の場所目前といったところで、目の前に大きな扉が現れる。どうやら目的の本はその扉の向こう側にあるようだった。エスは、扉に手をかけ開けようとするがビクともしない。


「鍵でもかかっているのか?仕方がない、アエナに聞いてみるか」


 来た道を戻り、何やら書類を見ているアエナに声をかける。


「アエナ、向こうにある扉の奥に行きたいのだが…」

「向こう…、禁書庫ですか?」

「ほほう禁書、イイ響きだ」

「少々お待ちください…」


 アエナは静かに目を閉じる。エスの目にはアエナから発せられる僅かな魔力が見えていた。少ししてアエナは目を開けエスを見つめる。


「チサト様から許可が下りました。今、扉を開けますね」


 アエナについていき扉へと戻る。エスはアエナが扉を開けるのを待っていった。


「どうぞ、中の書物を禁書庫から持ち出すのは禁止ですが中で読むのは自由です」


 エスは頷くと、禁書庫の中へと入っていった。

 禁書庫の中は小さな部屋ではあったが四方の壁は本棚となっており、大量の本が収められている。どの本も年代物なのが見た目でわかる。エスは魔道具が教えてくれた書物の一冊、表題の書かれていない本へと手を伸ばした。


「これか。さて、内容は…」


 手に取った書物を読み始める。そこにはエスたち本来の悪魔について書かれていたが、エスの知っている内容が殆どであった。


「残念、もう一冊のほうはどうだ?」


 エスは本を戻し、もう一冊を手に取る。少し読んでそこ書かれている内容にエスは驚いた。

 この世界において人と言われる存在は所謂、人間だけではなくエルフ族やドワーフ族、亜人や獣人に至るまで人として扱われているという事実であった。それを見て、エスは一つ思い出す。


「転生者は通常、人に転生する。そういえばドレルはドワーフだったな。なるほど、この本の通りというわけか。つまりモンスターなどに転生することは通常ではない。これが事実なら悪魔に転生した私だけが異常なのも理解できるが…」


 エスはこの事実に、自分たちは人と同じ見た目であるのにモンスターと同じ分類なのかと思った。


「いったい何をもって、人とそれ以外を区別しているのだろうな?さて、折角の禁書庫だ。いろいろと読ませてもらうとしよう」


 エスは他にいくつかの本を手に取ると部屋に置かれた椅子へと腰掛けると、先程の本を読み始めた。


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