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奇術師、賊を捕まえる

 村の西、生い茂る木々により薄暗い森の中、少年から聞いた場所に辿り着くと話にあった通り洞窟の入口があった。


「あそこかな?」

「たぶんね」


 エスとターニャはゆっくりと中へと入る。罠などに警戒したものの特にそういった類のものはなかった。しばらく奥に進むと、松明と思しき明かりが見え、その下に机や椅子といった物が置かれている。案の定、見張りらしき人物がひとり椅子に座っている。


「まずは見張りを何とかしないといけないか」

「ここからだと正面からしかいけないぞ?」

「ふぅむ、ここは身体能力にものを言わせてってのが一番楽か」


 エスはポケットから大きめのハンカチを取り出し捻じった後、中央で一回縛る。それをクルクルと回しながらターニャへと一言告げる。


「それじゃ、行ってくる」


 エスは目にも止まらぬ速さで見張りの後に回り込むと先程作った猿轡を噛ませ素早くロープで縛りあげる。一息ついたエスはターニャを手招きする。


「あんた一体何者なんだ?」

「秘密だ」


 ターニャの疑問に軽く答え、見張りを放置しさらに奥に進むと宴会でもしているのか騒がしい声が聞こえてきた。詰まれた木箱の陰に隠れて様子を窺う。人数は8人、洞窟の横穴に鉄格子を付けただけの牢がいくつかあり、その中に人質らしき人たちが捕えられていた。


「アレなら多少暴れても人質に被害が及ぶことはなさそうだな。それにしても一つの村から奪ったにしては物が多くないか?」

「もしかして他の村も襲ってるのかもな」

「なんとも強欲なことだ」


 あちらこちらに置かれた木箱の量からそう予想する二人だった。その予想は当たっており、賊たち周囲の村を順番に襲っては金品や食料を奪っていた。順番に襲っているが故に、数日に一回という決まった形で村に恐喝しに来ていたのだ。しかし、二人にそこまで知る由はない。


「ふむ、これだけの木箱があれば遊べそうだな。さて私が賊を無力化するから、ターニャは無力化した奴を片っ端から縛り上げてくれ」

「わかった。でも人質はどうする?」

「すべて終わるまでは牢の中の方が安全だろう。全員縛り上げた後でゆっくり解放するとしよう」


 ターニャは静かに頷く。それを確認したエスは堂々と宴会をする賊たちの元へと向かった。


「ん?なんだいあんたは!?」


 それに気付いた姉御肌な賊がエスの前に立ちはだかった。エスはお辞儀をしながら答える。


「私は奇術師のエス、冒険者としてあなたたちを捕えに来ました」

「ハッ!それより見張りはどうしたんだい」

「その人なら縛り上げて転がしてありますよ」


 そんなやり取りをしているうちに他の賊たちは武器を構えエスを取り囲む。しかし、エスはそれを気にも留めず言い放つ。


「さあ、私と遊ぼうか!」


 目にも止まらぬ速さでエスは姉御肌の賊とすれ違う。エスを見失った賊たちが辺りを見渡すと姉御肌の賊の背後、3メートルほどのところに両腕を広げ、背を向けた状態で立っていた。その手は何かを握り締めている。そっと開かれる左手から、一本の白い帯が垂れ下がった。それを見た姉御肌の賊が声をあげた。


「あたいのさらし、いつの間に!」


 焦った姉御肌の賊は胸元を見るが、革鎧は着たままだった。だが、肌に伝わる感触からさらしが奪われたのは明らかだった。そして、下半身にも違和感を覚える。


「さらに!」


 エスは叫びつつ振り向きさらしを投げ捨てる。そして、自分の胸の前でパンッと手を叩くとゆっくりと手を離していった。その手の間にはあるものが姿を現す。


「あたいの下着!」


 涙目をし、泣きそうな声で訴える姉御肌の賊へとエスは下着を投げ返す。あまりの出来事に他の賊たちは動けずにいた。そして、投げ返された下着を手に広間入口へと走る姉御肌の賊だったが、構えていたターニャに捕まり縛り上げられた。


「ターニャ、下着ぐらい履かせてあげたらどうだ?可哀想じゃないか」

「あんたが剥ぎ取ったんだろ!」

「ソウデスネ」


 悪びれる様子もないエスを見て、ターニャは頭を抱えていた。その間に、ようやく正気に戻った他の賊たちがエスを取り囲む。


「まずはこいつからだ。あっちの女は弱そうだから後回しにするぞ」

「プッ、ククク。弱そうだとさターニャ。アハハハハハ」

「笑ってんじゃねぇ!」


 賊の言葉を聞き、笑い出したエスにターニャが怒鳴る。


「死ねや!」


 その言葉を合図に賊たちがエスへと襲い掛かった。振り下ろされる剣や斧を鮮やかに躱しつつ、エスは近くの木箱へと飛び込み蓋を閉めた。


「ヘヘヘ、自分から逃げ場のない所に入るとはな」

「死にやがれ!」


 一人の男が剣を木箱へと突き立てると同時に、木箱の蓋が天井高くへと弾け飛び中から球体が飛び出してきた。それは直径50cmくらいのゴムボール。ボールの下部には巨大なバネが付いており、ビックリ箱の要領で飛び出してきていた。ボールは剣を刺した男の顔面に当たると跳ねまわりながら近くにいた賊へと次々にぶつかっていく。賊たちは突然の衝撃にフラフラになっていた。


「クソッ!奴はどこだ?」

「ここだ!」


 賊たちが声がした背後を向くと、木箱の一つが揺れ蓋が開く。中から現れたのは木箱の蓋を頭に乗せ腕組みをして立つエスの姿だった。


「どうやって…」

「なんだ?自己紹介を聞いてなかったのか?仕方のない奴らだ」

「ふざけやがって…」


 次々に文句を口にする賊たちだったが先程の衝撃で未だふらついているのか、一人また一人とターニャに捕縛されていった。エスは賊たちを揶揄いながら、時にはトランプを利用し時にはステッキで一人ずつ無力化していった。10分程度の後、賊の全員が縛られ集められていた。


「ふぅ、いい汗かいた」

「あんたは遊んでただけだろ」

「ちゃんと無力化していただろう?」

「ふんっ!」


 終始、エスの後始末に回っていたターニャはエスから視線を逸らすと、人質が捕まっている牢へと歩いて行った。エスは周囲を見渡す。隠れている賊がいないかどうかの確認を兼ねて牢の様子を見ていた。すると縛られた賊たちの話声が聞こえてきた。


「こうなったらアレを使うしかねぇ」

「俺たちもヤバいぞ」

「だけど、このままじゃ…」

「しょうがねぇ」

「あたいは反対だよ…」

「真っ先に捕まったヤツは黙ってろ」


 賊の一人が突如叫び出した。


「人質を贄に契約だ!『強欲』に連なる悪魔、願いを叶えろ!こいつを殺せ!」


 エスは視界の端に見えた壺に危機感を覚える。

 アレはただの装飾品じゃない。だが、割るのもマズそうだな。

 風や地震といったわけでもなくカタカタと壺が揺れ始めた。それを見て賊たちは引き攣った笑いを浮かべている。


「さしずめ、あの壺の中に悪魔がいるということか。さてどんなものが出てくるか」

「逃げようエス、契約が可能な悪魔じゃ最低でも男爵級だ」


 焦った様子で脱出を促すターニャにエスは疑問をぶつける。


「爵位があるのか?」

「知らないのか?悪魔は爵位が強さの目安になってる。爵位を持たない奴は人との契約もしないしモンスターと大差ない。だけど、契約が可能な時点でそれは男爵以上の強さがある証拠になる。爵位持ちの悪魔の強さはヤバい、早く逃げよう」

「ほほう、悪魔とはそういうものなのだな。いやぁ勉強になったよ」

「何暢気なことを…」


 ターニャの話が終わると同時に壺の揺れは収まった。二人が壺を見ると、ゆっくりと蓋が開き始めていた。


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