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奇術師、会談する

「ですが、肝心なことは私も話せませんが…」


 そう言ったチサトの額に異様な紋様が浮かび上がる。その紋様にエスは見覚えがあった。


「神の呪いか…」

「そうです」

「何なのよソレ!」


 紋様を見たリーナが声をあげた。紋様が漂わせる気配に、他の仲間たちも血の気の引いた顔色になっていた。


「七聖教会の最高司祭様も呪われているのか」

「この呪いをかけた者、それこそがエスさん、あなたのような転生者をこの世界に招いた張本人です。目的は不明ですが…。元の世界での自分の死んだ理由、不可思議だと思いませんでしたか?」


 エスはチサトの問いかけに少し考えると何かを思い出したかのように話し始めた。


「そうだな、いくら脱出マジックの練習中とは言え、爆死は不自然だ。本番以外で火薬など入れるはずないのにな…」

「それこそが神が干渉した結果です。恐らくあなたも、何か目的があって選ばれたのでしょう。七大罪の悪魔たちも何かしらの目的で呼ばれたはずです。流石にその目的が何かまではわかりませんが…」

「アエナはおまえは何でも知っていると言っていたぞ」

「ふふふ、そうですね。私が知っているのは、この世界で今までに起きたことだけ。この世界で起きた事象、その全てを知ることができる、それが私の力です。ですが、残念ながら神の意志まではわかりません」

「なるほど、あくまで『起きた』事象だけか。未来はわからないのか?」

「はい」


 ここまでのことから、エスもあることを考えていた。

 時折聞こえていた頭の中の声、あれもその『目的』とやらと関係があるのかもしれないな…。


「ところで、私にもその神の呪いとやらはついているのかね?」


 それを聞き、チサトは真剣な目でエスを観察する。少ししてチサトは小さく首を振る。


「呪いは、なさそうですね。あなたは、転生時に神に会っていないのですか?」

「神に?いいや、気がついたら草原で寝ていたのだが…」

「なるほど、悪魔たちとは違う転生の仕方をしたようですね。勇者マキトもそうでしたが、神に何かあったのでしょうか?それはそうと、話を戻しましょう。七大罪の悪魔たちについてでしたね」


 あまりの内容に驚き戸惑っていた仲間たちだったが、姿勢を正し話を聞く。リーナも複雑な表情を浮かべたまま、背もたれへと体を預けていた。エスもマキトが同じ転生の仕方をしていたと聞き、詳しく聞こうとしたがそれよりも先にチサトは話を続けた。


「彼、彼女らは転生時に神から権能を譲り受けたと聞きました。エスさんが手に入れた【強欲】も元々【知恵】という神の権能で、それが変化したものなのです」

「【強欲】を手に入れたことも知っているか。ふむ…」


 自分の行動が筒抜けなのを改めて確信し、エスは警戒心を強めた。


「ところでチサトは何故、七大罪の悪魔たちと敵対しているのだ?」

「敵対というほどではないのですが…。この七聖教会は、悪魔の眷属たちがこの世界の人に仇なすのを抑止するためのものです。彼らの目的は…」


 そこまで言うと、チサトの額に薄っすらと浮かんだ紋様が怪しく輝き始めた。チサトは俯くと、申し訳なさそうな顔をエスたちへと向けた。


「…どうやら、これは話せないようですね。申し訳ありません」

「いいや、どうやらその悪魔たちの目的というのが核心に近いのだろうということはわかった。ところでだ…」


 エスはこれ以上のことは聞けないと察し、チサトに疑問をぶつける。


「何故リンドを、『憤怒』に飲まれた聖騎士をそのままにしたのだ?おまえなら気づいていたのだろう?」

「あなたたちが神都に入るタイミングで、必ず勇者マキトと相対することがわかっていました。そのままでは、あなたたちは住人にただの討伐対象として見られてしまう。聖騎士が迎えに出たところで、あの正義感の強い勇者マキトを納得させることはできません。そこで、『憤怒』の悪魔を共闘し討滅、そのお礼と言うことで招く。そうすれば、勇者マキトも住人も納得すると思ったからです」

「そのために、放置していたの?」


 リーナが声をあげる。それを聞いたチサトは小さく頷いた。


「あの子、リンドの『憤怒』はエスさんに向いていましたからね。言い方は悪いですが、他の聖騎士や住人に納得させるため利用させてもらいました。もし、危なくなった場合のために、カーティオも向かわせておいたのですが…」


 エスたちを見渡しチサトは微笑む。


「その必要もありませんでしたね」

「確かに、初めて会った時からあの人はエスさんに対して強い怒りを見せてたしねぇ」


 話しを聞き、グレーススでの一件を思い出していたサリアが呟いた。


「おそらくはその怒りを『憤怒』の悪魔に利用されたのでしょう」

「フハハハハ、そんな悪魔たちすら利用するとは、恐ろしいやつだ」


 チサトの説明に、笑いながらエスが感想を言う。仲間たちはそんなエスの言動に動揺していた。


「ふふふ、そのぐらいしなければ国など動かせませんよ」

「ん?最高司祭がこの国では国王の立場なのか?」

「はい、そうなっています」


 七聖教皇国の仕組みに興味が湧いたエスだったが、とりあえず目的を果たすことにする。


「この国の仕組みにも興味はあるが、とりあえず『色欲』の居場所と、ドラゴンが見られるような場所を教えてくれないか?」

「構いません。ただ、一つお願いを聞いていただけますか?」

「ふむ、内容次第だな」

「私からのお願いは『怠惰』の公爵級、その所在を探して欲しいのです」

「構わんが、おまえの力ならわかるのではないか?」

「どうやら、【怠惰】の力で痕跡が残らないようにしているようです。私が自分で探しに行くことはできないので、お願いできませんか?」

「理由はよくわからんが、まあ探すだけならいいだろう。どうせ、私たちが見つければ、おまえにわかるのだろう?」


 エスがそう答えると、チサトは笑みを浮かべ頷いた。


「では、まずは『色欲』の悪魔。彼女の居場所ですが…」

「ほう、女性なのか。てっきり『色欲』というから男性かと思ったのだがな…」

「この大陸から海を越えた西方、岩と砂に覆われた国、ポラストス。通称、奴隷国家と呼ばれている国です」

「遠いのか?」


 エスは、アリスリーエルへと視線を向け問いかける。


「はい、かなりの長旅になるかと。数ヶ月はかかるはずです」

「まあ、観光がてら向かうとしよう。それで、ドラゴンは何処で見れるのだ?」

「そうですね。ポラストスへの道程でと考えると、危険ではありますが海路から少し外れた場所に海龍の巣がありますね」

「ほほう海龍、海に住むドラゴンか!」


 チサトの言葉に興味津々のエスだったが、仲間たちからは反対の声が上がった。


「海龍って、船を壊されたら終わりじゃない!」

「冗談じゃない!出会ったら終わりだと言われてる奴じゃないか!」

「お二人とも落ち着いてください。ですがエス様、流石に海龍は危険かと思います」


 声をあげるリーナとターニャを、アリスリーエルがなだめつつ自分も反対だと伝えてくる。


「ふむ、確かに何もない海上で何かあったら問題ではあるか、要検討だな。陸上にはいないのか?」

「別の方角にしかいませんね。ここから港まではそこまで距離もありませんし、ポラストスがある大陸にもいるにはいますが、少々遠くになってしまいます」

「そうか、それは残念だ」


 少し考えるような素振りを見せた後、エスはグアルディアへと声をかける。


「グアルディア、おまえのコネで丈夫な船は用意できないのか?」

「エス様は私を便利に使いすぎではないですか?ですが、そうですね…。チサト様、この国への我が国の船の入港を許可していただけますか?」

「構いません。早急に連絡しておきましょう」

「ありがとうございます。これでエス様も満足できるような船が用意できるかと。すみませんが、少し連絡をしたいので席を外させてもらいます」


 そう言って立ち上がると、一礼し部屋を出ていく。それを見送りチサトも立ち上がった。


「では、私も少し席を外します。すぐに戻りますので、食事を楽しんでいてください」


 そう言ったチサトの姿は空間に溶けるように消えていった。


「魔法!?一切魔力を感じなかったわよ…」

「すごい腕前です…。わたくしもあのくらいできるようになりたいですね」

「まあ、二人が戻ってくるまで料理を楽しもうではないか。こんなに美味い物は初めてだ」


 エスは驚愕する仲間たちを他所に、目の前の食事に手を付け始める。そんなエスの脳裏にアヴィドの言葉が思い出される。


『何故、自分が転生したのか、それを知るといい』


 だが、チサトと話した内容からはその意味を知ることはできなかった。


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