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奇術師、立ち寄った村を守る

 翌朝、朝食を済ませたエスたちはグアルディアが準備した馬車へと集まっていた。


「なかなか楽しい街だったな。また来るとしよう」


 レマルギアの街を見渡しながらエスが呟いた。この街に着いてから美味な食事を食べ、モンスター闘技場にカジノで遊び、『強欲』の悪魔との戦いと盛り沢山だった。


「もう出発されるのですか?」


 エスが声のする方へ視線を向けるとマニーレンがいた。礼をするマニーレン、その傍にはフードを深く被った男が立っている。


「おや、見送りに来たのか?」

「はい、それと…」


 フードの男がエスへと革袋を渡す。エスが中を覗くと金貨が大量に入っていた。


「これは?」

「お約束した売り上げの一部です。旅のお役に立ててください。定期的に渡すのは転移の得意な者に任せますのでご心配なく」

「ほほう、グアルディア」


 エスがグアルディアへと革袋を投げ渡す。それを受け取ったのを確認し頷くエスの隣でリーナがマニーレンを見て声をあげた。


「何故、妖精族のあなたが悪魔といるの!?」

「私の種族にお気づきになりましたか…」

「妖精族?」


 聞き慣れない種族名にエスはリーナに問いかける。


「ええ、この人は妖精族、人に化けてるから詳しくはわからないけど…。とにかく、私たち悪魔を敵視している種族よ」

「少々誤解がある言い方ではありますが、まあその通りで間違いございません」

「なるほど、少し人と違うと思っていたが…。しかし、そうなるとアヴィドに従っていたことを考えると不自然か…」


 マニーレンは僅かに困った表情を浮かべたが、すぐにエスへと答える。


「そうですね、詳しいことは七聖教会で聞かれるとよいかと思います。ここの悪魔たちを聖騎士たちが滅ぼさない理由とも無関係ではありませんので…」

「そうか。ならば、チサトとやらに直接聞くとしよう」


 リーナは納得いかないといった表情を浮かべていたが、エスに促され仲間たちと共に馬車へと乗り込んだ。


「さあ、出発するとしよう。目指すは七聖教皇国、神都だ!」


 仲間たちが馬車に乗り込んだのを確認したエスも馬車へと乗り込む。


「ではマニーレン、アワリティアの運営を任せるぞ」

「はい、お任せください」


 マニーレンとその側近である悪魔が見送る中、馬車を走らせエスたちはレマルギアを出発した。

 レマルギアを出て数日、途中の村で休憩をしつつ順調に旅路を進めていた。


「平和だな…」


 馬車の外、流れる景色を眺めつつエスは呟いた。危険なモンスターがいるわけでもなく、実に平和な旅路だった。


「平和でよかったのではないですか?」


 エスの呟きを聞いたアリスリーエルがエスへと話しかける。


「そうだな、平和はいいことだ。だが、旅なら多少のトラブルは楽しい思い出になるのではないか?」

「そんなものですか…」


 旅が常に死の危険にさらされるこの世界で生きてきたアリスリーエルには理解できない感覚だった。そんな会話を聞いていたグアルディアが僅かに慌てた声でエスに告げる。


「エス様、お望みのトラブルかもしれません」

「ほほう…」


 御者台の方へと顔を出すエスにグアルディアは続ける。


「少々厄介かもしれませんね」


 エスとグアルディアの視線の先には、次の休憩場所として予定していた村があった。しかし、その村は家々を蜘蛛の巣のようなものが包んでいた。エスに続き顔を出したアリスリーエルたちも状況を知る。


「あれは、蜘蛛型のモンスターでも出たのかしら?」

「でも、この近くに虫のモンスターが生息してそうな森はないよ。姉さん」


 ターニャが周囲を見渡す。ターニャの言う通り村の周囲に森はない。ただ、かなり遠くではあるが森があるようには見えた。


「とにかく行ってみましょう」


 アリスリーエルの言葉に頷き、グアルディアは馬車の速度を上げた。

 エスたちは馬車を村の外に止め、徒歩で村へと入る。


「規模はおかしいが、確かに蜘蛛の巣だな」


 目の前の家を包む糸を見てエスはそう結論付けた。その糸にエスが触れようとした瞬間、何かが家の上から飛び降りてくる。咄嗟に背後に飛び退き、それを避けたエスの目の前には一体のモンスターらしき姿があった。


「フハハハハ、これまたスゴイ姿のモンスターだな。蜘蛛なのか蟹なのか」


 その姿は、甲殻に包まれた蜘蛛といった姿で、蜘蛛のように複数の目を持ち八本の脚の先は蟹の鋏のようになっていた。その脚の鋏を閉じ地面に突きたてるようにして立っている。そんなモンスターの姿を見て、エスはふと思いつく。


「果たして、肉の味は蟹なのか蜘蛛なのか…」


 笑みを浮かべるエスの側に仲間たちが近づく。しかし、全員がエスの目の前ではなく各々別の場所を見ている。それに気づいたエスが周囲を見ると、何匹ものモンスターに囲まれていた。その姿は全て同じで、僅かな体色の違いがある程度だった。


「おやおや、こんなにたくさんいたのか。村をこんな風にしたのはこいつらかな?」

「でしょうね…」


 エスの言葉にリーナが答える。


「姉さん、こいつら…」

「ええ、アラネアフェクスね。幼体のようだけど…」

「ほう、これで子どもなのか」


 サリアの言葉にエスは僅かに驚く。目の前の個体でも付近の家の半分くらいの大きさはあった。


「いったい成体はどの程度の大きさなのだろうな。フハハハハ、見てみたいものだ」

「とにかく、これらを何とかしないと村の様子も確認できませんね。私は馬車が気になるのでそちらに行きます」

「そうだな。馬車は任せる。私たちはこいつらを始末しよう」


 グアルディアに馬車を任せ、エスたちは目の前でカチカチと顎を鳴らしているアラネアフェクスへと武器を構えた。

 エスは走り手刀をアラネアフェクスの脚の付け根へと振り下ろす。予想に反してアラネアフェクスの脚はあっさりと切り落された。


「おや?意外と脆いのだな」

「幼体だからねぇ。エスさん、こいつらは今のうちに始末した方がいいわ」


 サリアの言葉にふと疑問を持ったエスが問いかける。


「成体は硬いのか?」

「成体は生半可な武器じゃ傷一つ付けられないぞ」


 今度は目の前のアラネアフェクスを捌き、少し余裕のできたターニャが答える。エスたちはそのまま、自分たちに向かってくるアラネアフェクスの幼体たちをすべて倒し終えた。馬車の様子が気になりグアルディアの元へとエスたちは移動すると、馬車ではグアルディアが御者台に座り寛いでいた。周囲には数匹のアラネアフェクスの死体が転がっている。


「皆様、無事で何よりです」


 地面へと降り立ち一礼するグアルディア。それを見てやれやれとエスは首を振っていた。


「おまえも余裕そうだなグアルディア」

「この程度でしたら問題ありません。レマルギアで襲ってきた悪魔の方がよっぽど絶望的でしたよ」


 馬車の無事を確認したエスたちは再び村の中へと戻る。無事な者がいないかと、家の中を調べようとするも糸が邪魔をして思うように確認できずにいた。


「ふむ、面倒だな。燃やすか…」

「物騒な事言わないでください」


 焦れたエスが糸を燃やそうと言い出し、それをアリスリーエルが窘める。その時、ガタガタと近くの家の扉が鳴った。それに驚くアリスリーエルやターニャを他所に、エスとグアルディアがその家の前へと進んだ。


「誰かいるのか?」

「そうですね。遺体や、痕跡がありませんから生きてる可能性はあるかと思います」

「なら…」


 エスは魔器を取り出し剣を生成する。そして扉部分を覆っていた糸を切り裂いた。次の瞬間、扉は内側から開かれ中から村人らしき男が現れた。


「た、助かったのか…」


 膝をつき、息を整えている男をエスたちが取り囲む。


「君はこの村の人かな?」


 エスの言葉に男は驚くように顔をあげた。


「あんた達は?」

「私たちは旅人です。他の村の方たちは無事なのですか?」

「多分、家の中にいるとは思う」


 アリスリーエルの質問に答えた男の言葉を聞き、エスたちはそれぞれの家の入口を包む糸を切り裂き扉を開けた。それぞれの家から村人たちが姿を現し、他の村人たちと無事を喜んでいたが、数人の村人が見つからないようだった。全ての家の入口を解放し終えると、一人の老人がエスたちに近づいてくる。


「旅の方、助けていただきありがとうございました」

「あなたは?」


 アリスリーエルがその老人に問いかける。


「この村で村長をしてる者です」

「ほう、ところでなんでこの村はこんな状況になったのだ?」


 エスの問いかけに村長の表情は曇っていった。


「わかりませぬ…」


 俯く村長の側で、一番初めに助けた男が何かを思い出したように話し始めた。


「西の森にいたモンスターじゃないか?時々村にまでくるのはいたけど、こんなに大量に来たことは…」

「西の森といえば、勇者様が向かったのではなかったかの?」

「…確かそうだ。でも、今までも冒険者の方が西の森にモンスター退治に行ってるが、こんな押し寄せてきたことなんて今までなかったぞ」


 村長と男の話を聞き、エスが思わず呟いた。


「ここでも勇者君か…。村長、その森は近いのかね?」

「は、はい。数刻もあれば着くかと…」

「ふむ、勇者君の手がかりもあるかもしれないし見に行ってみようではないか」

「そうですね、またモンスターが来たりしたら村の人たちも安心できないでしょうし」


 エスの提案にアリスリーエルは賛成した。リーナや、サリアとターニャも賛成のようだった。


「では、私は村に残りましょう。入れ違いでモンスターが来ても困りますからね」

「そうだな。いいようにサボる理由にしただけの気がするが…」


 エスのそんな指摘にグアルディアは笑みを浮かべる。


「まあいい…」


 日はまだ頭上にある。それを確認したエスは村長たちに告げた。


「では、すぐにでも行動するとしよう。あ、そうそう。そのモンスターの脚だけでいいから数本残しておいてくれたまえ」

「え、あ、はい…」


 何を言ってるのか理解できない村長たちを他所に、エスは仲間たちを連れ話にあった森を目指した。


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