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奇術師、相変わらず絡まれる

 エスが『強欲』の悪魔たちと話をしている頃、誰もいなくなったアヴィドとエスが戦っていた異空間を歩く人物がいた。


「…予想外です。どうもしっかり混じり合わなかったようですね…」


 声からして、その人物が女性だとわかる。しかし、異空間を維持する者がいなくなり明かりが殆ど消えているため、その顔はわからない。ゆっくりと歩くその女性は、アヴィドが座っていた玉座に近づくと小さくため息をついた。


「仕方ありません。計画を練り直すとしましょう」


 そう呟く女性の姿は、闇へと溶けるように消えていった。

 レマルギアは朝を迎えていた。都市の性質上、行き交う人々の数は多少の差はあるが時間に関係なく賑わっている。そんな外の様子を眺めつつエスは新たに得た【強欲】の力について調べていた。同じ部屋だったグアルディアは、体の調子を確認するついでに買い出しに行っている。


「ふむ、物質、事象関係なく認識するモノを奪う力とは、本当に異常な力だな。ん?今更か、フハハハハ」


 自分の持つ【奇術師】と【崩壊】も大概だと思い、再び【強欲】について調べる。


「使い方はわかったが、これは同時使用ができるのか?」


 【奇術師】と【崩壊】は同時に使うことができない。こればかりは眷属を得て力をつけても無理なのではないかとエスは考えていた。試しに、誰ともわからない頭に響く声に問いかけてみる。


「【強欲】は【奇術師】や【崩壊】と同時に使用できるのかね?」


 しかし、しばらく待っても返答はなかった。いつもであれば、すぐにでも答えがくるのだが今回は何の反応もなかった。


「おや、拗ねたか?制止を振り切って【強欲】を手に入れたのがそんなに癇に障ったのか。やれやれ、器の小さなやつだ…」


 愚痴をこぼしつつも、エスは同時使用を試してみる。結論としては、【奇術師】と【強欲】の同時使用はできなかったが、【崩壊】と【強欲】の同時使用は何故か可能だった。


「どういうことだ?どちらかと言えば【奇術師】の方が性質は近いだろうに…。とりあえず、【奇術師】と【強欲】のスムーズな切り替えが出来れば、もっといろいろなことが出来そうだ。要練習だな」


 エスがそう結論付けたタイミングで、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ、開いてるぞ」


 扉を開け、入ってきたのは仲間たちだった。身支度も整え、いつでも外出できるような恰好をしていた。


「グアルディアは?いませんね」

「出かけてるぞ。用事だったのか?」

「いえ、調子はどうかと思いまして…」


 アリスリーエルがグアルディアの様子を確認しにきたようだった。他の者たちはその付き添いだろうとエスは考える。


「ところでエス、もう少しこの街には居るんでしょ?」

「ああ、そのつもりだ」

「それじゃ、私たちちょっと出かけてくるわね。行きましょ」


 リーナに促され、仲間たちがどこに行こうかと相談しながら部屋を出て行った。


「やれやれ、賑やかなお嬢さん達だ。さて、私も何か面白いものがないか散策しに行くとしよう」


 エスは立ち上がると、身支度を整え宿の入口へと向かった。

 宿を出ると、昨日の戦いで抉られてしまった道を大工たちが直していた。エスの姿を見つけた大工の一人が話しかけてきた。


「おお、悪魔殺しの兄ちゃんじゃねぇか」

「私を知っているのかね?」

「昨日、ここで見たからな。どっか出かけるのか?」

「とりあえずフラフラしようかと思ってな」


 エスには、とりあえず一ヶ所行こうと思っている場所はあった。それ以外の予定は決まっていない。


「そうか、気をつけろよ。腕自慢の冒険者に絡まれんようにな」

「ご忠告ありがたく受け取っておこう。それにしても、街中で喧嘩になったら怒られるのではないか?」

「まあ、冒険者同士なら周りに被害が及んだり、ギルドが止めない限りはなんも言われねぇな」

「なるほど、気をつけるとしよう」


 そんな情報をくれた大工に手を振り、エスは様々な露店が並ぶ道へと繰り出す。そして、早々に大工の言葉が現実となった。


「おい、そこのテメェ、悪魔殺しだな?」


 そんな風に背後から声をかけられたエスは、盛大にため息を付き振り返った。エスの視線の先には声の主と思われる、筋肉質な体を金属鎧で包んだ、如何にも冒険者といった体の男が立っていた。その男の背後には仲間と思しき三人が笑みを浮かべ立っている。


「やれやれ、早速ではないか…」


 ため息をついたエスに苛立った男たちが声をあげる。


「今ここで、悪魔殺しの実力見せてみろよ」

「俺たちが勝ったら、悪魔を殺したのは嘘でしたって頭下げて街中歩けや!」


 有無を言わせず、男たちは武器を構えエスへと向かってきた。

 こいつらをここで無視してもいいのだが、つきまとわれても面倒だ。

 そこで、エスはポンッと手を鳴らす。


「君たちを見せしめにすればいいのではないか。簡単なことだったな、フハハハハ」


 エスは、自分に挑戦してきそうな冒険者への牽制として、眼前に迫る男たちを利用しようと考えたのだった。エスの思わず口に出してしまった言葉に、侮辱されたと思った男たちの表情は怒りに染まる。


「死ねぇ!」


 次々と振り下ろされる武器、それを一切避けることなくエスはその場に佇んでいた。振り下ろされた武器は、エスを切り裂き地面へと叩きつけられる。だが、切られたはずのエスは、ゆっくりと歩きながら男たちの間を歩いて背後に回り振り向いた。


「君らの武器は人ひとり切れないのかね?武具の手入れは大事だぞ?」

「なにしやがった!」

「チッ、魔法か!?」


 やれやれといった感じに首を振るエスを見て、男たちは額に青筋を浮かべている。周囲の人々は男たちとエスを遠巻きに見ていた。その顔には、またかといった表情を浮かべている。


「そんなに怒っていると血管が切れるぞ。それに、周りを見たまえ!皆迷惑しているではないか。まったく、いい大人がもう少し落ち着いたらどうかね?」

「「「「うるせぇ!」」」」


 ひらりひらりとエスは男たちの攻撃を躱し距離をとった後、笑みを浮かべ男たちの側を駆け抜ける。少し離れたところで足を止めたエスの手には、四つの小さな革袋が握られていた。


「これ、なぁんだ?」

「俺らの金じゃねぇか!」


 エスの持つ革袋を見て自分の荷物を確認していた男が叫ぶ。それを聞き、ますますエスは楽し気に笑っていた。


「では、お返ししよう」


 エスはそう言うと、革袋を男たちに向けて投げる。それを慌てて受け止める男たちだったが、手に持った瞬間小さな爆発と共に中身が周囲へとばら撒かれた。エスは袋を投げる瞬間、中に革袋が破れる程度の僅かな爆発を起こすように魔力を調整した爆発の魔結晶を潜り込ませていた。もちろん、冒険者たちが怪我しない程度の威力だ。周囲へと撒き散らされた銅貨や銀貨を、遠巻きに見ていた者たちが拾い始める。


「俺の金だ!拾うんじゃねぇ!」


 硬貨を拾い集めている者たちに駆け寄り突き飛ばす男たち、エスは周囲を窺いながらそれを止めるために移動する。その姿は殆どの人が見ていなかった。必死に硬貨を拾う男たちの肩に手を置くと、次々と後方へ投げ飛ばす。


「ダメだろ、観客に危害を加えては。これは、君たちが皆に払うべき迷惑料だよ」

「ふざけんな!」

「ふむ、どうしてこう君らのような者たちは皆同じ言葉を口にするのかね?」


 男たちを小馬鹿にした口調で話すエスへと男たちは再び駆け寄るが、それを制止するモノが、突如両者の間にどこからともなく降りてきた。そのモノはフードを深く被っており表情は見えない。


『支配人、こんなことろで何をされているのですか?』


 身に纏う雰囲気から、エスにはその者が『強欲』の悪魔だとわかった。そして、人込みの中からも一人の人物がエスに近づくと頭を下げた。突然の乱入者に、冒険者の男たちは動けずにいた。


「あなた様が、新しい支配人のエス様ですね。私は前支配人であるアヴィド様から支配人代理を任されていたマニーレンと申します」

「ほう、あのカジノの支配人代理か。まあ、あいつが表に出てくるわけにはいかないだろうしな」

「左様でございます。昨夜は別件で出ておりました故、こうしてご挨拶に参りました。ところで…」


 マニーレンと名乗った男は頭を上げると、冒険者の男たちの方へと視線を移す。


「この者たちは?」

「名声を求め私に挑んできた者たちだ。冒険者としては普通の行動だとは思うが、些か相手をするのも飽きてきたところだ」

「では、私たちで処理しておきましょうか?」

「フハハハハ、物騒な発言だな。だが、頼むとしようか」

「承知しました」


 マニーレンは冒険者の男たちへと体を向け宣言する。


「あなたたちは我らが支配人に手を出したのです。それ相応の賠償請求をさせてもらいましょう。では、お願いしますよ」

『任せろ』


 フードを被った『強欲』の悪魔が瞬く間に男たちを気絶させていく。その動きを見るに始めから殺すつもりはなかったようだ。


「公衆の面前で殺してしまうと色々と面倒ですからね。それに、彼らには支配人、いえ私たちのカジノに手を出したらどうなるかの見せしめになってもらおうと思っております。最近、ちょっかいを出してくる輩がいますので…」

「なるほど、カジノとしても利用価値があるというわけか」


 マニーレンはエスの感想に、頭を下げて答える。男たちはフードの男が引きずりながら連れて行った。


「レマルギアで困ったことがあれば私に言ってください」

「ふむ、そうさせてもらおう。ただ、もう困ったことにはなりそうもないがな」


 エスは再び周囲を窺いながら答える。先程見かけた敵意を持った人物たちは、ここまでのやり取りで手を出す気がなくなったのか、敵意そのものが消え視線を合わせぬよう俯いていた。


「では、さらに釘を刺しておきましょう」


 そう言ったマニーレンは周囲の者たちから見える位置に立ち、声をあげた。


「私はレマルギア最大のカジノ、アワリティアの支配人代理マニーレン。そして、この方はこの度アワリティアの支配人となられたお方。この方に手を出すのであれば、我々アワリティアを敵に回すと覚えておきなさい!」


 周囲にざわめきが起こる。そして、様子を見ていた人々は散り散りにどこかへと去っていった。


「フハハハハ、カジノの名前は初耳だったな。それに、一切私に手を出す気はなくなったようだ。むしろ警戒され過ぎて動きにくくなりそうだな」

「それは申し訳ございませんでした」

「いやいや、これでのんびり観光ができそうだ。感謝しているさ」

「そうですか。では私は彼らの対応がありますので、これで」

「ああ、ではな」


 エスに一礼したマニーレンはそのままカジノがある方へと歩いていった。それを見送ったエスは、当初の目的地へ向け歩き始めた。


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