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奇術師、隠れ家を知る

 少し歩くと賊と村人が睨み合っている姿が見えてきた。賊は男二人組、一人は人質と思われる後ろ手に縛られた少年を連れていた。エスとターニャの二人は近くの家の影へと隠れ様子を窺う。


「ギルドで聞いた話の通りだな。さて、どうするのが一番かな?」

「その一番ってのは、どうしたら面白くなるかってことだろ?」

「わかっているじゃないか」


 笑うエスにターニャは呆れた視線を向ける。その視線を気にすることなくエスは握り拳大の玉を懐から取り出した。


「どうやってそんな物を懐にしまってるんだよ…」

「企業秘密」

「きぎょう?」


 取り出した玉を手で弄びながら次の手を考える。


「ターニャ、私が合図をしたら人質を助け出せ。任せるぞ」

「わかった」


 村人の一人と人質を連れた賊が睨み合っている中央へと歩いていた。村人の手には革袋が握られている。


「おっと、さっさと行動せねばな」


 エスは手に持った玉を村人と賊の間、中央目掛けて放り投げた。転がる玉に周囲の視線が集まる。


「なんだコレは?」


 賊が玉を拾おうと近付いてくる。すると玉は、ポンッという軽い音と共にキラキラとした装飾を撒き散らしつつ弾け、中から煙を噴き出した。すぐにその煙は散り、玉の側で両手を広げ天を仰ぐエスの姿が煙の中から現れる。


「私、参上!」


 エスはその視線を近くの賊へと向ける。村人と賊の視線はエスに集中していた。


「あれ?あれぇ?」


 その姿に気が付いたターニャは自分の隣、先程までエスが居た場所を見るが姿はなかった。ターニャの声は、目の前の唐突な出来事に動揺した村人や賊には気付かれることはなかった。


「何者だてめぇ!どこから湧きやがった!」


 地面に転がる割れた玉を指差し、エスは答える。


「私は奇術師エス、この玉から現れた。短い付き合いになると思うがどうぞよろしく」


 恭しくお辞儀をするエス。その言葉を聞き、警戒心を強くした賊は怒鳴り始めた。


「あ?人質がどうなってもいいのか?大人しく出すもの出しやがれ!」

「ああ、人質か。君らは何か勘違いをしていないか?」

「何?」

「君らはここに来た時点で詰んでいる。隠れ家の場所を教えるなら連行するだけにしようじゃないか。もし人質を殺して逃げるのなら、それ相応の目に合うことを覚悟したまえ。君らにその覚悟があるならばな」


 不敵な笑みを浮かべるエスを見てたじろいだ賊は手に持った剣を振り上げる。


「クッソ!殺してやる!」


 その剣は少年へと振り下ろされる。だが、少年に剣が届くことはなかった。エスが素早く取り出したステッキでその剣を受け止めていた。何も持っていなかったはずのエスに剣を止められ、驚き思考が停止してしまっている賊。その隙をつきエスはターニャへと手で合図を送る。

 物陰から素早く走り寄ったターニャは人質の少年を連れエスの横へと移動する。正気に戻った賊が悔しそうな声をあげた。


「一人じゃなかったのか!」

「一人と言った覚えはないがな。さあ、逃げるならどうぞ。その後を追って隠れ家まで行くとしよう。向かってくるなら遊んであげようじゃないか」


 エスの言葉に目の前の二人を殺して逃げる以外の選択肢がないことを悟る賊。


「チッ!お望み通り殺してやるよ!」


 後ろで様子を窺っていただけのもう一人の賊は剣を振り上げ走ってきた。エスはその姿を見ながらため息をついた。


「はぁ、たった二日の間にむさ苦しい男ばかりが走って近付いてくる。もしかして私は呪われてるんじゃないのか?」

「そんなことよりもこいつ等どうすんの?」


 エスは懐からトランプを一枚取り出し走りくる賊へと投げる。それは賊の振り上げる剣の剣身を切り飛ばし、そのまま空の彼方へと消えていった。賊は剣身を失い重さの変わった柄だけになった剣を見て唖然となり足を止める。もう一人の賊はエスの持つステッキから剣が離れずに困惑していた。


「アハハハハ!こんなに切れるのか、すごいなこのカードは。どっか飛んで行ってしまったが…」

「いや、あんたの能力が異常なだけだろ」


 呆れていたターニャだったが、これで賊が逃げる可能性が生まれたと考え素早く賊の後へと回り込む。人質だった少年は安全を考えエスの横に置いたままだ。その行動の早さを見てエスは感嘆する。

 小さな盗賊ギルドとはいえ、頭をやっているだけはあるな。状況判断が見事。さて、この状況で奇術を使って遊ぶのは無理そうだしさっさと捕えるとしよう。

 そう思ったエスだったが捕縛するためのロープなどを用意していなかったことに今気が付く。


「ふぅむ、どうしたものか…」


 チラッと少年を見て思いつく。素早く少年の腕に縛られたロープを片手で掴むとスルスルとまるで結ばれていなかったかのように引き抜く。少年は自由になった手を確認し始め、その姿をみた賊は驚愕の声を上げた。


「な、なんでロープが…」

「結び忘れたのではないか?」

「んなわけあるか!チックショウ、なんで剣が動かねぇんだ!」


 諦めた賊は動かない剣を手放し逃げ出すが、既に待ち構えていたターニャに取り押さえられた。剣を破壊された方の賊はすでにターニャによって一本だけ用意していたロープで縛られていた。ステッキで固定していた剣を捨てステッキ自体を消したエスはターニャへと歩み寄る。


「いやぁ、仕事が早いなターニャ」

「あんたが適当過ぎるんだよ!」

「いやいや、ターニャを信用していたのだよ」

「嘘つけ!」


 エスは未だ賊の一人を取り押さえたままのターニャへ手に持ったロープを渡す。そのロープを使い賊を縛ったのを確認し、エスは賊の二人の足を持ち引き摺って村人の元まで向かった。


「村人の皆さんこれからこの二人に隠れ家の場所を聞き出したいのですが、お手伝いしてくれませんか?」


 村人たちに動揺が走った。拷問の手伝いをさせられると考えたからだ。賊を殺してでも人質たちを救いたいとは思っていても、苦しめるだけという行為に対しては忌避感があった。賊の二人も拷問されると考えたのか青い顔をしていた。


「エス、拷問しなくても…」


 場の空気を感じ取りターニャがエスへと話しかける。


「拷問?何を言っているんだ?楽しい楽しい尋問だよ。ん?そうだ少年、こいつらの隠れ家の場所はわからないか?」


 エスは人質になっていた少年へと話しかける。突然話しかけられ身を震わせた少年は恐る恐る答える。


「西の森の中にある洞窟…」

「そうか、ならすぐにでも向かうとしよう。しかし残念だ。楽しい楽しい尋問が出来なくて…」


 本当に残念そうにしているエスを見て、ターニャはため息をつく。村人たちもどう対応していいものかと困惑した表情を浮かべている。ふと、エスは賊を引きずり近くにあった木箱へと向かった。その木箱を開けると中はからだった。


「この木箱は使われていないのか?」

「え、ええ…」


 恐る恐る答える村人を気にも留めずエスは二人の賊を木箱へと放り込む。そして、賊が持っていた剣を使って木箱の下に人の足が出るくらいの穴を開け賊の足を引きずりだした。せっせとエスは靴を脱がせている。


「何をしてるんだ?」


 心配になったターニャがエスへと問いかける。笑顔のまま振り返るエスの手には、一本の鳥の羽根が握られていた。


「被害にあった村人に愉快な娯楽をと思ってね。少年、この羽根をあげよう。この羽根はこう使うのだ」


 裸足となった賊の足の裏を羽根でくすぐる。木箱の中で賊はもがいているが、箱から聞こえてくる声は笑い声だ。それを見て人質にはなっていなかった子どもたちが羽根を持ち面白がってくすぐり始めた。何本かの羽根を村人に渡し木箱に蓋をすると、その上に重しになる大きめの石を置き中から開けられないようにしておく。その後、少年から洞窟の場所を細かく聞き、捕縛用にロープをいくつか貰った。


「子どもというのは物怖じしないものだな。それでは、私たちは賊の隠れ家に行ってこよう。その二人の見張りは頼むよ。少年たちも程々にな」


 子ども達の笑い声を背に、エスとターニャは村の西の森にあるという隠れ家を目指した。


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