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奇術師、奪われる

 エスは魔導投剣を手前に立つ二人のフードの男へと投げる。男たちは咄嗟に避けるが、投剣はそのフードを切り裂き二人の男の素顔が露わになる。


「ほほう、猪か。見た目だけなら獣人のような感じだな」

「エス、獣人は体も動物の特色があるわよ。あいつらは頭だけ、『強欲』の悪魔たちね」


 隣へと来たリーナがエスの勘違いを訂正した。


「それは獣人の皆さんに謝らないといけないな。あんなものたちと一緒にしてしまって…」

『武器を手放すとはな。死ねぇ!』


 エスは額に手を当て空を仰いだ後、明後日の方向へごめんなさいと頭を下げる。フードを被ったままだった残りの二人もフードを脱ぎ、エスたちへと走り出した。


「君たちは、情報共有ということをしないのか?情報というのは大事なのだぞ」


 エスが手を振り魔導投剣を引き戻す。フードを裂き、建物の壁へと突き刺さっていた投剣はエスへと勢いよく飛んだ。そして、エスたちへと向かう猪頭と豚頭の後頭部へと突き刺さった。それを抜き取り手に持つ悪魔たち、後頭部への攻撃も特に効いている様子はなかった。


『これは、さっきの短剣か!』

「魔導投剣と言うのだよ。やれやれ、頭を刺されても死なないのか、丈夫だな。それにしても一体、君たちは何しに私を追ってきたのだ?」

『損失の回収だ』


 それだけ言うと再び悪魔はエスへと走り、手に持つ剣を振り下した。二人の悪魔からの攻撃を避けつつ、エスはリーナとサリアの様子を見る。激しく撃ちあってはいるものの、怪我をしている様子はなく有利に立ち回っていた。


「あれなら心配はいらなそうだな。どれ、私も少し本気で動いてみるか」


 悪魔たちの視界から笑みを浮かべたエスの姿が唐突に消える。エスを探すように周囲を見渡す悪魔の頭上に、どこからかふわりとエスが降り立ち、両手に持った魔導投剣をその悪魔の目に突き立てた。


『グガアアアァァ!』

『奇術師、どこから!?』


 仲間の頭に立つエスへともう一人の悪魔が剣を振るが、一瞬にしてエスの姿は消え剣は空を切った。


『クソッ、今度はど…』


 どこへ、と言おうとする悪魔の言葉は途中で途切れる。そこまで口にした悪魔が視線を下へと向けると、屈んだエスが魔導投剣を自分の喉に突き立てている姿が見えた。その視線に気付いたエスは、短剣を引き抜くと両手を広げつつ背を向ける。


「フハハハハ、何故?と言った表情だな、猪だが…。軽く教えてやろう。一切魔法などは使っていない、純粋な身体能力による移動だ。君たちは私の動きを追う事すらできなかったというわけだな」

『ふざけるな!奇術師は戦闘能力が低いはずだ!貴様はなんなんだ!?』

「はぁ、やれやれだ。折角、モンスター闘技場でほんのちょっぴりだけ実力を見せてやったというのに、君たちの大将から聞かなかったのかね?街に着いてから私たちを監視していたのは、君たちの大将だろう?」


 目を潰された悪魔の問いかけに、仕方がないといった感じでエスが答えた。それを二人の悪魔は驚愕しつつ聞いていた。


『貴様、気づいていてこんな行動を…』

「おや?そのくらいはわかってると思ったんだがな。さて、死ぬ前に君たちの大将の居場所を教えてくれないか?」


 その瞬間、爆発音が響き渡る。それは、エスたちのいる場所ではなく少し離れた場所から聞こえた。


「エス!あっちは宿がある方向よ!」

「何?」

『クククッ、もう少し付き合ってもらうぞ奇術師!』


 一人は目を、もう一人は喉をやられながらも剣を手にエスへと向かう。その二人を、自分が相手にしていた悪魔を倒し終えたリーナとサリアが妨害する。


「エスさん、宿の方に行って。嫌な予感がするわ」

「こいつらは私たちに任せて」


 リーナとサリアの言葉に頷き、エスは腕を上げると指を鳴らす。エスの体は地面から現れた布に包まれた。

 エスたちが悪魔たちと戦闘を始めたころ、宿付近まで来たグアルディアが、アリスリーエルとターニャを手で制し止める。その視線は宿の前に固定されていた。


「どうかしたのですか?」

「どうやら、こちらが本命だったようですね」


 アリスリーエルの質問にグアルディアは簡単に答える。


「エス様たちは、忙しそうですね。仕方ありません」


 グアルディアは呟きながら、突然走り出す。その視線の先にはフードを被る大男が立っていた。その大男目掛けグアルディア全力の正拳突きを繰り出すが、大男はその手で正拳突きを受け止める。


『アレの護衛か。聖騎士以外にも強者はいるものだな』

「やはり、悪魔。それにその気配、伯爵級ですか…」


 受け止められたことに驚くことなくグアルディアは後ろへと飛び退く。周りを行き来していた人たちは突然の騒ぎに大男とグアルディアを遠巻きに様子を見ていた。


「グアルディア!」

「どうしたんだ?」


 そのグアルディアの側へとアリスリーエルとターニャが駆け寄ってきた。


「ターニャ様、アリス様を連れてお逃げください。できればエス様の元へ。あれは伯爵級の悪魔です」

「えっ!?」

「なんでそんなのがここに…」


 グアルディアの言葉に驚く二人、大男は逃がさないと言わんばかりにその拳を地面に突きたてる。すると、遠巻きに様子を窺う人たちの前に透明な膜のような結界が現れた。


『無関係な者に被害を出しては、アヴィド様の意に反する。これでいいだろう』


 拳を戻した大男は目にも止まらぬ速さでグアルディアの目の前に移動すると、横薙ぎに蹴り飛ばした。蹴られたグアルディアは結界へと叩きつけられる。


『そこでじっとしていろ、用があるのはその薄青色の髪をした女だけだ。一緒に来てもらうぞ』

「させませんよ」


 大男の背後にいつの間にか現れたグアルディアが、大男を殴り飛ばす。大男は辛うじて腕でガードした。


「立場上、この街での戦闘は避けたかったのですが。そういった目的なら問題なさそうですね」

『やってくれるな、聖騎士でもない人間風情が!』


 素手での殴り合いを始める大男とグアルディア、その凄まじい攻防にアリスリーエルとターニャはただ見ているだけしかできなかった。グアルディアの拳を躱す際、大男のフードが取れ素顔が露わになる。その頭は熊だったが、額には一本の小さな角があった。その姿を見た、周囲にいた人々は声を上げ逃げ出し始めた。


「『強欲』の悪魔!」

「アリス、逃げよう」

「でも、この結界は抜けられません」


 状況を理解したターニャがアリスリーエルを連れ逃げようとするが結界に阻まれる。その時、空間が震えるような声が響いた。


『いつまでやっている』


 大男は咄嗟にグアルディアから距離を取ると跪いた。突然の行動にグアルディアも手を止め様子をうかがう。


『申し訳ありません。思いのほか手強い者が護衛しておりました』

『まあいい』


 突然、何かが割れるような音がするとアリスリーエルとターニャの背後の空間に亀裂が入り、まるで空間が歪むかのようにその亀裂が広がる。そして、中から現れた巨大な腕がアリスリーエルへと伸ばされる。その腕は鳥の足のような見た目ではあるものの、人と同じく五本指の手に鋭い爪を持っていた。腕に掴まれたアリスリーエルは亀裂の中に引き込まれてしまう。アリスリーエルが掴まれるまで、グアルディアもターニャもその亀裂の存在に気づかなかった。


「えっ!?」

「アリスリーエル様!」


 グアルディアが叫ぶが、そのままアリスリーエルは亀裂の中に連れ去られてしまう。あまりに突然の出来事にターニャは見守る事しかできなかった。


『後始末をしておけ』

『ハッ!』


 ここまで跪いたままだった大男は立ち上がると、掌を空へと向ける。その掌には魔力が集まり球体になっていた。


「マズいですね。何とかエス様に連絡を…」

「来るよ!」


 グアルディアとターニャに向けその魔力の塊は落とされると、地面を削る程の大爆発を起こし結界内は土煙に包まれた。

 しばらくして土煙がおさまり、倒れるグアルディアとターニャの姿が現れる。倒れている位置関係からグアルディアが辛うじてターニャを守ったことがうかがえた。


「う、う…」

『まだ息があるのか、ならばもう一度だ!』


 ターニャのうめき声を聞き大男は手をあげ、再び魔力の球体が生成された。それが落とされる瞬間、地面から布が現れ中から姿を現した者がいた。


「エ、エス…」


 薄く開いた目でエスの姿を見たターニャがその名を呼ぶ。突然現れたエスに構わず、大男はそのまま魔力の球体を落とした。


「やれやれ、いきなり大ピンチじゃないか」


 エスは地面に落ちようとする、自分を覆っていた布を掴むと落ちてくる魔力の球体へと被せる。布に接触し爆発するかと思われたが、被せられた布は何もなかったかのようにふわりと地面に落ち、燃えて消えてしまった。


「大丈夫かターニャ、グアルディア」


 ターニャは僅かに頷くが、グアルディアは動かない。近づいてみると、気を失ってはいるが生きていることはわかった。その事実にエスは安心する。


『奇術師、何故ここに!?』

「なんだ、さっきの爆発は君がやったのだろう?つまり、君が私を呼んだのだ。故にその質問はどうかと思うぞ?」

『チッ!あいつらは足止めも満足にできなかったか』

「いやいや、十分に足止めをしたのではないか?頑張った彼らはちゃんと労ってやりたまえ」

『何っ?』


 エスは大男の頭上に瞬間的に移動すると、全力で殴り地面へと叩きつけた。その表情からは今まで浮かべていた笑みは消えている。


「おい、アリスはどこへやった?」


 エスのあまりの殺気に大男は一瞬たじろぐが、負けじとエスを睨みつける。


『も、目的は達した。後は貴様らの始末だけだ』

「答える気はないか。どうやら目的はアリスリーエルで、損失の回収というのは私の足止めの口実か。そうかそうか…」


 エスの手にはいつの間にか取りだした魔器が握られていた。一瞬にして大男の視界から消え背後へと回ると魔器をそっと背中に当てる。


「貴様らの大将の居場所に連れていけ。どうせ、そこにアリスがいるのだろう?」

『な、何故!?いつの間に。だが、貴様のような戦闘に不向きなやつに…』


 エスは魔器に魔力を流し細長い剣を生成する。それは大男の体を貫き生成され、そのまま横薙ぎに払い大男の脇腹を切り裂いた。


『グガアアアァァ!』

「さっきのやつと同じ叫びを上げるのだな。仕方がない、アリスについては別の手段を考えるとしよう」


 エスは高速で魔器で生成した剣を振る。細切れに刻まれ大男は死亡した。


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