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奇術師、カジノを見てまわる

 様々な人種行き交う大きな通りを歩いてくと、モンスター闘技場とは比較にならない程、大きく豪華な建物が見えてくる。この世界の言葉で『カジノ』と書かれた大きな看板が、昼間だというのにネオンのようなもので輝いていた。


「これはまた、なんというか…」

「凄い、派手ですね…」


 エスとアリスリーエルの呟きは周囲の人々の声に紛れ仲間たちには聞こえていない。咄嗟にエスは後ろを振り向く。


「なんだ!?」


 背後から異様な視線を感じたエスだったが行き交う人の多さから、その視線の主らしき人物は見つけられなかった。


「どうかしましたか?」

「気のせい、だろう。まあいい、入ろう」


 突然振り向いたエスに声をかけたアリスリーエルだったが、そのエスに促され仲間たちと共にカジノへと入った。

 中に入ると相変わらずの人の多さだったが、モンスター闘技場よりも広いためか、そこまで窮屈には感じない。天井は高く、シャンデリアが辺りを照らし、壁には窓はなく建物の中央部分は吹き抜けになっていた。内装に金の装飾が施された、きらびやかな店内をエスは見回す。


「中も随分と派手だな。それに、スロットにルーレット、あれはポーカーとブラックジャックに、バカラか?いやぁ、知ってるものばかりじゃないか。まあ、予想はしていたが…」

「エス様はカジノに来たことが?」

「ああ、前の世界でな。カジノに併設された、ちょっとしたステージで奇術を行っていたことがあった。ここだけまるで元の世界に戻ったかのようだ。獣耳や尻尾を持った人たちやドワーフなんかがいなければだがな」


 エスの言葉を聞き、質問したアリスリーエル。それにエスが答えた。


「エスがいた世界では亜人やドワーフはいなかったの?」

「私のいた世界では、おまえたちのような人しかいなかったのだ。ふむ、個人的にはこっちの光景の方が好みだな。フハハハハ」


 目の前にいるファンタジーな人々を見て笑い声をあげるエスだが、仲間たちはよくわからないといった表情だった。とりあえず店内を見てまわろうということになり、エスたちは歩きはじめる。


「それにしても、本当に広い店だな」

「外からではここまで広そうに見えませんでしたね」

「空間系の魔法でもかかってるのかしら?」

「ほう、なんだその面白そうな魔法は」

「そんなことより、あっちに面白そうな物があるぞ!」


 リーナの口にした空間系の魔法というものに興味を持ったエスだったが、ターニャが何かを見つけたらしく皆で見に行くことにした。

 ターニャの案内で辿り着いた場所には、たくさんの人が集まっていた。その人たちが見つめる先には、小さなステージの上に人ひとりが入れるくらいの透明のボックスが立っており、中には一人の男性が風で舞う紙を掴もうと悪戦苦闘していた。


「あれは何でしょう?」


 何をしているのかわからないといったアリスリーエルだったが、エスは思い当たるものがあった。


「あれは、ボックスの中で舞うただの紙切れと紙幣を掴むゲームだな。だが、この世界に紙幣は無かった気がするが…」

「しへい、ですか?」

「簡単に言えば紙のお金だな。いったい何をつかみ取りしているのだろうな…」


 ステージ上に看板のような物が見えたため、書かれた文字が読める場所までエスたちは移動してみる。


「ほほう、カジノで使えるチップと交換できる引換券をつかみ取るのか。制限時間は一分、一人一回限りか」

「面白そうねぇ」

「ただし、冒険者は参加禁止だそうだ」

「あら、残念…」


 本当に残念そうにしているサリアだったが、個人差はあるものの冒険者の中には身体能力が異常に高い者がいる。エスは店側が損をするだろうし、当然の処置だと感じていた。


「グアルディアなら参加できるのではないですか?」

「アリス様、察するに一般的な身体能力の者だけが参加できるのであって、私の参加は無理だと思います」

「そうですか…」

「グアルディアも、その辺の冒険者よりも身体能力が高いだろうし、私たちでは見るだけしかできんな」


 ボックスに入り悪戦苦闘する挑戦者を数人見た後、再び店内を見て歩く。少し歩くと金貨や銀貨とカジノ用のチップを交換してくれる換金所を見つける。


「ふむ、あそこで金貨や銀貨をチップに変えて遊ぶようだぞ。チップからの換金もやってるようだな」

「それでは少しチップに交換してきましょう。遊ぶためにはチップが必要なようですから」

「お願いしますね、グアルディア」


 アリスリーエルに一礼して、グアルディアは換金所へと向かった。グアルディアが帰ってくるのを待ちながら、エスは周囲を見渡し面白そうなものを探す。周囲には所謂バニーガールのような恰好をした女性たちが案内をしていたり、飲み物を配っていたりしている。エスは一人の店員の元へと歩いていき、配られている飲み物を受け取ると仲間の元へと戻ってきた。そして、手に持った飲み物を一口飲んでみる。


「ふむ、ワインのような風味の酒だな。頑張って再現したという感じだ」

「それは、なんですか?」

「これか?酒のようだ。アリスとターニャにはまだ早いかもな」

「な!?成人してるぞ!」

「わたくしも…」


 アリスとターニャの抗議を聞き流しながら、エスはワインのようなものを味わう。その隣にサリアが近づいてきた。


「エスさんは、ああいった格好が好みなの?」

「バニースーツのようなものか?そうだな、ああいった格好でアシスタントをしてもらうのは、華やかでイイかもしれん。好きか嫌いかで言うなら、私はディーラーをしている者たちの格好の方が好みだな」

「…ふぅん」


 そう言ってサリアはディーラーをしている女性たちをじっと見つめていた。エスは飲み終わったグラスを、近くの飲み物を配る女性の持つトレイへと乗せた。

 しばらくして、エスたちの元へグアルディアが戻ってきた。その手には大量のカジノ用チップを持っている。


「お待たせしました。それでは参りましょう」

「ではどこから行こうか?」

「あの大きな機械のところへ行ってみたいです」


 アリスリーエルの指差す方を見ると、大きなスロットが置かれ人が集まっている様子が見える。


「スロットか。景気付けには丁度いいだろう。行こうではないか」


 エスたちは大きなスロットの置かれたスペースへと向かった。一際大きなスロットが目の前に置かれている。周囲には小さなスロットが沢山並んでいた。


「どうやら、私の知っているスロットとは少し違うようだな…」


 大きなスロットは一ラインしかなく、チップを入れてレバーを降ろすだけの簡単な造りをしている。よく見ると周囲の小さなスロットも同様の造りで、並んでいる絵柄の数が大きいものは七つ、小さいものは四つだった。


「エス様…」

「どうした?グアルディア」


 突然、グアルディアがエスに話しかける。そのグアルディアの視線の先では屈強そうな男たちに取り押さえられ、外へと連れて行かれる男の姿があった。連行されている男は諦めているのか俯き、その表情はわからない。


「ここでは、魔法を使用されるとあのように強制的に店の外へと連行されます」

「ほう、城で使ってた魔道具みたいなものがここにもあるのか?」

「おそらくは。換金所でも同様に注意がありましたので、お気をつけください」

「アリスとリーナにも教えてやれ。サリアとターニャは、魔法は使えないから大丈夫だろう」


 エスはフォルトゥーナの城に忍び込んだ時、僅かな魔力ですら探知されていたことを思い出していた。あの時の魔道具は、魔法は探知できてもエスの【奇術師】の力に対しては無反応だった。試しにと思いエスはポケットの中から金貨を一枚取り出すと、それを【奇術師】を使い二つに分ける。周囲を見渡しても、【奇術師】の力に気づいた様子はなかった。しかし、再びエスに対し異様な視線が向けられる。カジノの外で感じた視線と同じものからの視線だとわかる程に、独特な気配がする。そして、今回は視線に憎悪や嫌悪といった感情が感じられた。


「どうやら、気づいた奴がいるようだな。従業員が反応しないところをみる限り、視線の主はカジノの店員とは別か。さて、【奇術師】は使えるようだし、少し遊んでみるか」


 呟きながら分けた金貨をポケットにしまうと、グアルディアからチップを受け取り挑戦者がいなくなった大きなスロットへと向かう。そして、チップを投入口へと入れ徐にレバーをたおした。勢いよく回るスロットのドラムを眺めながら止まるのを待っていると、右から順にゆっくりと止まり始めた。ひとつ、ふたつと止まっていくドラムの絵柄は数字の七を表す文字が描かれている。


「この世界でも七はラッキーな数字とでも言うのか?まあ、恐らく作った奴の感覚なのだろうな…」


 そんなことを考えながら、眺めていると六つ目の絵柄まで七で揃い周囲から歓声がわいた。


「え!?どうなったのですか?」

「あと一つ、七が揃ったら大当たりだぞ」


 エスの指差すスロットへとアリスリーエルが視線を移すと、丁度最後のドラムが止まるところだった。ゆっくりと速度を落としていくドラム、七で止まるかと思いきやゆっくりと回り続け、次の絵柄で止まってしまった。その結果に、周囲からはため息が聞こえてくる。


「いやぁ、残念残念。まあ、当たるとは思っていなかったがな。フハハハハ」

「いや、明らかに最後の止まり方おかしいでしょ!」


 他のドラムと違い最後のドラムだけ、あたかもずれるように止まったのが気に入らなかったリーナが声を荒げる。そんなリーナの肩にエスはポンッと手を置くと、耳元で囁いた。


「ああいうものだと納得したまえ。当たってばかりでは店が儲からないうえに、二つ目の絵柄から違っていたら盛り上がらないだろう?なかなかよくできていると褒めてやるべきだな」


 エスの言ったことを理解したリーナも、観客同様にため息をついていた。

 エスたちが大きなスロットから離れると、周囲で見守っていた他の客たちがスロットを回し始める。先程、当たりかけたのを見て次は当たるのではないかと思ったようだ。


「やれやれ、店の思惑に乗せられてるな。まあ、楽しそうだからいいだろう。おまえたちも、あっちにあるスロットで遊んでみてはどうだ?」

「やってみたいです。ターニャさん行きましょう」

「ちょっと待って、アリス!」


 アリスリーエルはターニャの手を引っ張り、近くの空いているスロットへと向かっていった。その後ろをサリアとリーナが歩いてついていく。


「グアルディア…」

「なんでしょう?」


 ゆっくりと仲間たちの後を歩きながら、エスはグアルディアへと話しかけた。エスは足を止め、その視線は別の方向へと向けられている。その方向は、先程視線を感じた方向だった。グアルディアもそちらへと視線を向けるが壁があるだけで、特に変わった様子はない。


「もしもの時は、あいつらを連れて宿に逃げろ、私が対応する。杞憂であればいいのだがな…」

「了解しました。どうやら私では足手まといになりそうですね…」


 自分の感じ取れないものを見ているであろうエスに対し、自分の力不足を認識したグアルディアはエスの言葉に頷いた。


「まあ、とにかくだ。何かあるまでは楽しもうではないか」


 エスとグアルディアは、こちらに手を振るアリスリーエルたちの元へと向かった。


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