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奇術師、賭け試合に参加する

 建物の中に入ると、外以上の賑わいを見せている。少し前の方では歓声が上がっていた。


「あちらで何かやっているようだな」

「見に行ってみましょ」


 エスたちは歓声の上がる方へと向かう。人込みをかき分けそこへたどり着くと、周囲の人が大きな円形の穴を覗き込んでいた。エスたちも同様に覗き込むと、穴の底は闘技場のようになっており、一匹のモンスターと武器を構えた一人の人が睨み合っていた。モンスターは毒々しい色をしたヤモリのような姿をしている。だが、エスが知るヤモリとは比べ物にならない程に巨大で、人ひとりぐらいなら丸のみできる大きさだった。


「なるほど、あれが闘士か」

「周りの方々が持っている紙はなんでしょう?」


 エスの隣で、アリスリーエルは周囲の者たちが握る紙を不思議そうに見ている。サリアとターニャが周囲を見回していると、賭けを取り仕切っていると思われるカウンターを見つけた。そこで、周囲の者たちが持っているような紙を受け取る人を見つける。


「賭けのチケット的なものかしら?」

「みたいだね」

「そうなのですか?」


 サリアとターニャ、アリスリーエルが話をしていると、唐突に闘技場周辺の者たちが悲鳴を上げ闘技場から遠ざかるように逃げ始めた。何事かとエスが再び闘技場を覗くと、丁度目の前に壁を這いあがってくるヤモリのようなモンスターがいた。既にモンスターは覗き込むエスの目の前まで来ている。


「君の相手は下にいるだろう。戻りなさい」


 エスは徐にモンスターを平手打ちをする。叩かれた衝撃でモンスターは闘技場へと落ちていき、地面へと叩きつけられモンスターは気絶してしまった。それを見ていた客たちは驚愕の表情を浮かべている。それを見てやれやれと首を振るエスに、一人の人物が近寄ってきた。その人物を見てリーナは嫌そうに顔を顰める。


「なんであなたがここにいるのよ、ウェナトール…」

「あぁら、リーナじゃない。それにぃ、あなた、姿は変わったけど奇術師ねぇ。私の下僕がやんちゃしちゃってぇ、ごめんなさいねぇ。それとぉ、その子を落としてくれてぇ、ありがとぉ」


 野太い声でそう話すウェナトールと呼ばれた人物の姿は見覚えがあった。緑の長髪をした男とも女ともとれる容姿、革製の服装に鞭を持っている。食事の時、窓越しに見た人物その人であった。エスは思わずウェナトールへと問いかける。


「おまえ、そのナリで男なのか?」

「うふふ、私は女よぉ」

「嘘よ!あんた男じゃない!」


 女だというウェナトールに対し、リーナが声を荒げる。


「フハハハハ、面白いやつだな。ところでリーナの知り合いなのか?」

「ええ、そうよぉ。私は調教師、調教師のウェナトールよぉ」


 ウェナトールはくねくねとポーズを取りながらそう答える。調教師と聞きエスはサルタールとの約束を思い出す。


「そうか、おまえがサルタールの探している調教師か。フォルトゥーナ王国の王都でサーカスやっているから来いと言っていたぞ」

「あらぁ、サルタールちゃんが?でもぉ、私ここでの仕事もあるのよねぇ」

「仕事だと?」


 ウェナトールが胸を張りながら答える。


「闘技場のモンスターを管理してるのよぉ」


 それを聞いた瞬間、エスはウェナトールを蹴り飛ばした。蹴られたウェナトールは後ろへと転がっていき倒れる。少ししてウェナトールは何事もなかったかのように起き上がるとエスに対し文句を言い始める。


「いったぁい。突然、何するのよぉ」

「おまえの管理が甘いから、さっきモンスターが這いあがってきていたのではないか?」

「あっ…」


 エスを睨んだウェナトールだったが、エスの言葉を聞きさっと目を反らす。


「まあいい、さっさと試合を再開してやれ。皆が待っているだろう?」

「そうねぇ、それじゃまた後でねぇ」


 手を振りウェナトールはカウンター傍の扉へと入っていく。それを見送りながらエスはリーナに問いかけた。


「やつも悪魔なのか?」

「ええ、私たちと同種のね」

「だが、あいつからは悪魔の気配はしなかったぞ?」

「調教師だしね。モンスターを捉えるのも自分でやってるから、気配を消すのが上手いのよ」

「なるほど、そこだけは見習いたいものだな」


 少しして闘技場は先程までの騒動はなかったかのように賑わいだした。気を失っていたモンスターもウェナトールに起こされ試合を始めている。状況としては闘士の方がやや優勢といった感じだった。


「さて、見ているだけではつまらんな。カウンターの方に行ってみるとするか」


 エスたちは闘技場から賭け等の受付をしてると思われるカウンターへと向かう。カウンター横には闘士募集の張り紙が貼ってあった。


「あら?飛び込みで一般参加の闘士も募集してるみたいねぇ」

「姉さん出てみたら?」

「嫌よ、見世物になる気はないわ」


 仲間たちのやり取りを聞きながら、エスは張り紙に書かれた対戦相手となるモンスターたちを見ていた。そこには上から紙が貼られ、名前を書き直したようになっている。


「六脚熊?」

「確か、前足が四本の凶暴な熊型のモンスターです。こんなモンスターも捕えているのですね…」


 エスの呟きにアリスリーエルが答えた。ふと、思い出したサリアが呟く。


「そういえば、レマルギア周辺で目撃されてるって情報がギルドで出ていたわねぇ。対応できる冒険者は限られるからギルドも頭を抱えていたわ」

「そんなものを捕まえて見世物とは…。いやはや、ここはすごい所だな」


 エスが笑っていると、リーナが耳打ちする。


「おそらく、捕まえてきたのはウェナトールね。あいつなら六脚熊くらい簡単に捕まえるわよ」

「ほほう。それなりに実力があるというわけか」

「…違うわ。あいつの能力よ。あいつの【調教師】は動物やモンスターに対して有利な能力なの。他には気配消去なんかも使えるわ」

「動物などを捉えるのに気配が消せねば問題があるだろう。なかなか、面白そうな能力だな」


 話しながらもエスは張り紙を見る。どうやら飛び入りで参加の場合、倒せれば賞金が出るようだった。


「ほう、賞金が出るのか。出てみるか?」

「…好きにしたら?あなたが負けるとは思えないし」


 リーナは興味なさそうに答えると他の張り紙などを見ていた。エスが腕を組み考えていると、カウンターから受付らしい女性に声をかけられる。


「飛び入りで参加されるのですか?今なら次の試合のあと、試合が行えますよ」

「ふむ、そうだな…。折角だし参加しようではないか」

「では、こちらで登録を…」


 エスは話しかけてきた女性の元へと歩く。その後ろでは、やれやれといった様子で見送る仲間たちがいた。

 細かな手続きを済ませると、係りの者に案内され闘技場入口へときていた。入口にはウェナトールが立っており、エスを待っていたかのように手を振っている。


「あらぁ、奇術師ぃ。あなたも参加するのぉ?」

「そのつもりだが?」

「大丈夫なのぉ?あなたぁ、戦いはすこぉし苦手だったはずよぉ」

「ああ、今は苦手ではないと言っておこう。それと…」

「なぁにぃ?」


 エスはウェナトールを睨みながら告げる。


「私の名はエスだ。覚えておけ」

「わかったわよぉ。まぁ、あなたが相手ならぁ、待機してなくてもよさそうねぇ」


 ひらひらと手を振りながら、ウェナトールはエスが歩いてきた方へと去っていった。その姿を見送りながら独り愚痴をこぼす。


「やれやれ、どうにも好きになれない相手だな。なんかこう、いちいち喋りが癇に障る。さて前足四本の熊か…。フハハハハ、楽しみだ」


 エスは気を取り直し、相手となるモンスターに興味を移した。丁度、その時前の試合が終わる。少しして、係りの者がエスに近づいてきた。


「それでは、試合になります。危険と判断したらこちらで試合を終了にしますので存分に戦ってください」

「モンスターは殺してしまっても問題ないのかな?」

「はい、結構です。ご自分で危険と判断したら言ってくだされば、そこでも試合を終了させます。他にご質問は?」

「ふむ、特に無いな」

「では、どうぞ」


 係りの者に促され、ゆっくりと開く金属扉から闘技場へと足を踏み入れた。


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