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奇術師、料理に感動する

 街を眺めるエスの険しい表情を見てリーナが問いかける。


「どうかしたの?」


 エスは答えることなくしばらくの間遠く、街の奥の方を見ていた。少ししてリーナに視線を移すと周りに聞こえないような小さな声で呟いた。


「…いるな。リーナは感じないのか?」

「え!?何が?」


 エスの言ってる意味が分からず、リーナは思わず聞き返した。しかし、エスは首を振ると皆の側へと歩いていった。


「さて、さっさと宿に行ってそれから遊びに行こうではないか」

「そうですね、行きましょう」


 エスの言葉にアリスリーエルが賛成し皆が頷く。先程までのエスの態度にリーナは不安を感じていたが、それを表情に出すことなく皆についていった。

 少し歩き、グアルディアが知っているという宿へと辿り着く。そこで手続きを済まし、身支度を整えたエスたちは宿の入口付近に集まっていた。


「それでは私は宿で待っていますので、皆様楽しんできてください。エス様、くれぐれもアリス様のことを頼みます」

「ああ」

「では、行ってきますねグアルディア」


 見送るグアルディアに背を向け、エスたちは宿を出る。宿までの道中もそうだったが、フォルトゥーナ王国王都と見間違うほどの人の多さだ。風景自体は、ややエスの記憶にある世界に似ている。


「ネオン、のような物もあるのだな。この街の建物は今まで見た街とは違うのだな」

「建物などは魔工国の技術で作られているそうですよ。夜になってもこの街は昼間のように明るいと聞きます」

「詳しいのねぇ」

「…書物で読みました。城の中は退屈でしたので…」

「あっ、ごめんなさい」


 アリスリーエルはそう言って俯く。何気ない一言だったが、アリスリーエルの過去を思い出しサリアも申し訳なさそうな表情をしていた。エスは、アリスリーエルの頭にそっと手を置く。


「今、その知識は観光するのに役立っている。気にすることではないぞ」

「…はい」


 エスの言葉を聞き、アリスリーエルは笑顔を見せる。それを見てサリアもほっとした表情になった。そんな三人の視線の先では、ターニャとリーナが道に並ぶ店を順番に覗き込んでいた。今、二人が見ている店はレストランのような場所だ。近づいていくと二人の会話が聞こえてくる。


「これが噂の肉料理?」

「そうじゃない?私も知らないけど…」


 そんな二人が見ている物をアリスリーエルは一緒になって覗き込む。それは、メニューのような物で実物のような見事な絵で紹介されていた。


「この品ではないですが、試しに入ってみましょうか?」

「そうねぇ、お腹も空いてるし入りましょ」


 アリスリーエルの提案にサリアが同意する。他の仲間たちも賛成らしく店へと入っていった。


「やれやれ、元気なお嬢さん方だ。まあ、名物料理には私も興味があるし、妙な気配の方は後回しだな」


 エスは苦笑いを浮かべ独り呟くと、仲間たちを追い店へと入っていく。


「混んでるわねぇ」

「あそこが空いてるよ」


 サリアとターニャが席を見つけ皆で座る。テーブルの上にはナイフにフォーク、メニューが置かれていた。メニューを広げ、エスは思わず笑ってしまった。そこに書かれているメニューは使われている食材名は違うものの、前世の世界で見たような名前の料理ばかりだった。


「そうだったな、転生者がいるような世界だ。向こうの料理があってもおかしくないか…」

「どうかされたのですか?」


 独り言を呟き笑みを浮かべているエスに、隣に座ったアリスリーエルが首を傾げ話しかけた。


「なに、前世の世界で見たようなメニューが並んでいたのでな。思わず笑ってしまったのだ」

「エス様はここの料理を知ってるのですか?」

「食材が違うから全く同じ、というわけではないだろうが。私も少し楽しみになってきたぞ」


 エスたちは店内を歩く女性店員を呼び止めた。


「店員さん、この店のおすすめはどれかな?」

「当店のお勧めは、雪羊のステーキです~。魔工国の技術で雪羊が飼えるようになったんですよ~。最近ではそれを食べに遠くから来る旅の人もいるくらいです~」

「雪羊?」


 エスは思わず店員に聞き返してしまう。そこにアリスリーエルが説明する。


「山岳地帯かつ豪雪地帯に生息する薄っすらと水色がかった毛が特徴の羊です。環境が厳しい場所なので捕まえるのもの困難なのですが…」

「そ~なんですよ~。それが~魔工国の技術で~、えっとチクサン、だったかな~?できるようになったんです~」

「畜産…」


 畜産という言葉、そしてメニューから、エスは裏に転生者の存在を感じずにはいられなかった。だが、美味い飯に罪はないと割り切ることにする。


「なるほど、それが噂の肉料理か。ではそれを人数分頼むとしよう。それでいいか?」

「ええ」

「いいわよぉ」

「もちろん」

「楽しみです」


 エスが仲間たちに確認すると、それぞれが頷いていた。


「は~い、少し待っててね~」


 返事を聞いた店員は奥へと小走りに行ってしまった。仲間たちがメニューを見ながら楽しそうに話しているのを見ていたエスだったが、ふと店の外へと視線を移す。窓越しに見える通りには、人と呼ばれるものたちだけでなく、獣の耳や尻尾を生やした所謂、亜人や獣人と呼ばれるような人たちや、人食いの森で出会ったドワーフなど様々な種族が歩いていた。そんな人々の中、緑の長髪をした男とも女ともとれる容姿の人物が歩いていた。その腰には鞭があり、革製の服装も相まって怪しい雰囲気を醸し出している。その人物はそのまま通りを歩いていき、やがて見えなくなった。

 いろいろな人種がいるのだな。やはり人の集まる街は面白い。

 のんびりと外を見ながら待っていると、全員分の料理が運ばれてきた。見た目は前世で見た牛肉のステーキのようだったが、明らかに肉が高級なものとわかった。


「では~ごゆっくり~」


 運んできた女性店員が去っていき、エスたちは雪羊のステーキを食べ始める。


「これ、すごい美味しいわねぇ」

「王宮でも食べたことありません!」


 サリアとアリスリーエルがステーキの味に感動している前でターニャが黙々と食べていた。リーナも無言で味わいながら食べている。エスも一口食べてみる。


「フハハハハ、これは想像以上に美味いな」


 その後、エスたちはゆっくりとステーキを堪能し、一息ついていた。


「さて、次はどこに行こうか」

「お客さんたちは~レマルギアには来たばかり~?」


 エスの言葉に、丁度通りかかった先程の女性店員が反応する。


「ええ、今日着いたばかりです。何かおすすめの場所や店などはありますか?」


 アリスリーエルが女性店員に質問すると、少し考え込んだ後店員は答え始めた。


「そうね~。そういえば~最近モンスター闘技場が人気みたいよ~。モンスターと闘士の戦いで~、賭けもやってるみたい~」

「ほほう、また殺伐とした見世物だな」

「モンスターは調教済みで~闘士が殺されることもないから~、そこまで殺伐としてないわよ~。ケガぐらいはするけどね~」


 店員の説明にお礼を言うと「どういたしまして~」と手を振りながら去っていった。


「みなさん、とりあえずそのモンスター闘技場というものを見に行ってみましょうか?」

「そうね、予定もないし」


 エスたちは支払いを済ませると、店員に教えてもらった場所へと向かう。道中色々な種族とすれ違い、エスはその様子に目を輝かせていた。しかし、ドワーフと呼ばれる種族がいるのならと、エルフらしき種族を探すが見当たらない。


「ふむ、エルフ、のような者はいないのか…」

「ん?エスはエルフを知ってるのか?」

「エルフたちは最近、人の街には出てきてないわ」

「最近?何かあったのか?」


 リーナの言葉に疑問を感じ、エスは問いかける。秘密というわけでもないらしく、リーナが説明を始めた。


「エルフたちは自分たちの森に帰ってるみたいよ。悪魔が活発に活動し始めたのと同じくらいの時期にね」

「関係があるというわけか」

「恐らくね…」


 タイミング的には関係があると見るのが自然だろうとエスは思った。リーナもそれは思っていたらしくエスの言葉に頷いていた。


「直接、エルフに聞いてみたらどうなのだ?」

「エス…」


 リーナはエスの胸元を掴むと引き寄せ、耳元で囁いた。


「エルフは魔力に敏感なの。私たちの正体にすぐ気づくわ。敵対されるのがオチよ」

「なるほど、それは実に残念だ」


 そんなやり取りをしているうちに、店員に教えてもらった店へと辿り着いた。そこはかなり大きな石造りの建物であり、壁には様々な彫刻が設置されている。入口と思われる付近は沢山の人が行き来していた。


「ここでしょうか?」

「そうだろうな。それにしてもこの人数、全て客なのか?凄まじいな」

「はぐれたら大変ねぇ。ターニャ、手ぇ繋ぐ?」

「嫌だよ!子どもじゃないんだし」

「ほら、止まってると邪魔になるわよ。行きましょ」


 リーナに促され、エスたちは人の流れに乗りモンスター闘技場の中へと進んでいった。


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