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奇術師、騒ぎを治める

 街に入るための簡単な検査を受ける列が徐々にはけていく。一部の者は鑑定らしきことをされ、また他の者は何かを見せると街へと入ることを許されたりと対応は様々だった。エスが不思議そうに眺めていると、それに気づいたアリスリーエルが説明し始めた。


「あれは貴族ですよ。こういった物を見せてるはずです」


 そう言ってアリスリーエルが自分の持ち物から取り出したのは、紋章が描かれた小さな金色の金属板だった。それをエスが手に取り眺める。


「これは、魔道具の一種のようだな?」

「そうです。特定の人の魔力にしか反応せず、魔力を流しても光るだけです」

「ほほう、なるほど。それで個人の識別をしているというわけか。…偽装できそうだな」

「製造法を国が管理していますが、時々問題になったりはしているようですけど」


 金属板をアリスリーエルへと返し、エスは再び街の入口方面へと視線を向ける。すると、冒険者らしき者たちが兵士ともめている様子が見えた。大声で話しているためか、冒険者側の声は丸聞こえだった。


「だから言ってるだろ!俺たちは冒険者だ、中に入れてくれよ」

「さっきの奴だってすんなり入ってったじゃねぇか。なんで俺たちはダメんだんだよ!」


 その冒険者たちに説明しているらしき兵士がいるが、そんなに大きな声ではないため何を言っているかまではわからない。しばらく様子を見ていると冒険者らしき者の一人が突然剣を抜いた。


「チッ、おとなしく入ろうと思ったがめんどくせぇ!テメェら」

「「「おう」」」


 剣を抜いた男の言葉に反応し他の冒険者らしき者たちも剣を抜く。それに対応するため、兵士たちも剣を抜いた。そんな状況に、並んでいた一部の貴族らしき者たちがこの場から逃げようと騒ぎ始めた。


「やれやれ、本当に物騒な世界だな」

「エス様、なんとかなりませんか?」

「ふむ、どうする?グアルディア」

「私としては様子見を推奨しますが、多少なら荒事も問題ありませんよ」

「そうか、さっさと街に入りたいしな」


 そう言うと、エスは馬車の中に置いてある一本の剣を手に持つと魔力を流しつつ冒険者らしき者たちの方へ向け一言発した。


「『動くな』」


 その瞬間、冒険者らしき者たちの動きが止まった。それに動揺する兵士たちだったが、近づいてくるエスの姿を見つけると、そちらへ警戒する。片手には先程馬車の中で持った剣、つまり強盗団から奪った魔剣が握られていた。


「フハハハハ、兵士諸君、手伝ってやったのにその警戒はないんじゃないかな?」

「あなたはグアルディア様と一緒にいた…」

「なに…」


 警戒していた兵士の中に馬車まで来た兵士もいたため、エスへの警戒はすぐに解かれる。


「先程の兵士君か。ところで、こういったことはよくあるのかな?」

「えっ?ええ、珍しくはありません。レマルギアには一攫千金のために身元不明な輩も多く来ますから」

「お、おい。俺たちを無視すんじゃねぇ」


 自分たちを無視し話を進めるエスと兵士に苛立った冒険者らしき者たちが怒鳴り声をあげる。しかし、その声に先程までの元気はなかった。


「はぁ、君らのような輩にはそろそろお腹いっぱいなのだよ。少し『黙って』いたまえ」


 再びエスは魔剣に魔力を流し冒険者らしき者たちに向ける。エスの言葉通り、冒険者らしき者たちは黙ってしまった。


「ところで、彼らのような者たちはどうなるのだ?」

「一度、拘留し犯罪鑑定をすることになっています」

「それは丁度いい。どうやら待っていた者たちも逃げてしまったようだし、私たちの手続きをしてもらえないかな?預かってもらいたい者たちもいるしな」

「は、はい、構いません」


 それを聞き、エスは笑顔でグラルディアへと手招きする。状況を察したのか、グアルディアは馬車を走らせエスたちの元まで来た。エスの側まで来ると馬車の中から仲間たちも降りてくる。


「それではみなさん、身分証明になるものをお願いします。冒険者証や貴族証で構いません」

「そういえばそんな物があったな」


 エスは笑いながらポケットから以前作った冒険者証である黒いカードを取り出す。仲間たちもそれぞれ取り出し、アリスリーエルとグラルディアも取り出そうとする。それを慌てて兵士が止めた。


「お二人は結構です。身分はわかっておりますので」

「ダメですよ。わたくしたちも旅人ですので、同じように対応してください」

「その通りです。相手が誰であれ同様に対応しなさい」

「は、はい。わかりました」


 アリスリーエルとグアルディアに窘められ、兵士は全員分の身分証を確認する。全員の身分証に問題がないことがわかると、身分証をそれぞれ返した。


「身分証ありがとうございました」

「そうそう、兵士君たちにお土産があるのだ」


 エスはそう言うと、アリスリーエルとサリアに手招きをする。何の用かと近づく二人に、エスはズボンの左右のポケットから布を引き出すと、それぞれの端を手渡した。まだ布の全てはポケットから取り出されていない。


「これは?」

「なあに?」

「アリスはあの辺に、サリアはあちらだな」


 二人は首を傾げながらも布の端を持ったまま、エスに指定された場所へと歩く。スルスルと伸びていく布、指定された場所へと二人が辿り着くとポケットから布の端が現れ、エスはそれを掴むと頭上へと掲げる。


「二人も私と同じように持ち上げてくれ」


 言われるがままアリスリーエルとサリアの二人も布を持ち上げる。張られた布はV字になっており、その中央は兵士や街中の人々、徐々に戻ってきている冒険者や貴族たちの馬車からは見えなかった。何が起こるのか察したアリスリーエルとサリアは布の外側、兵士たちから見えるように立つ。エスは街を囲う壁の上方を見て、誰もいないことを確認していた。


「さあ兵士諸君、私と一緒に三つ数えてくれるかな?そちらの戻ってきた方々も」


 そう言ってエスは布を持つ手とは逆の手で指を三本立てて声をあげる。


「三!二!一!」


 指を折り数えるエスとアリスリーエル、サリアはそのカウントと共に布から手を離した。

 一方その頃、エスたちに返り討ちにあった強盗団の面々は死を覚悟していた。男たちの眼前には前足が四本ある熊のようなモンスターが唸り声をあげながら近づいてきていた。


「なんでこんなヤツがここにいんだよ…」

「やべぇよ…」

「縛られたままだし逃げらんねぇ」

「馬鹿言え、縛られてなくたってあいつからは逃げられねぇよ…」

「俺、もう死ぬのか…」


 男たちの目の前に現れたモンスター、それは凄腕の冒険者たちが複数人で狩るような大物だった。武器などが万全だったとしても強盗団に勝てる相手ではない。縛られていながらも男たち中心に身を寄せる。近付いてきたモンスターが、その腕を振り上げた瞬間、男たちを突然現れた布が包み込み姿を隠す。男たちを包んだ布はスルスルと地面へ消えていき何もなくなった場所にモンスターの振り下す腕が叩きつけられ土埃を巻き上げる。突然獲物が消えてしまったモンスターは辺りを見渡すと、また獲物を探すように森へと入っていった。

 レマルギアの入口では、エスたちが手放した布が地面へと落ちた。布に隠された何もなかった場所には、縛られた男たちが現れていた。


「どこだここは!?」

「ここは、レ、レマルギアか?」

「な、さっきのやつは!?」

「た、助かったのか…」


 驚いている男たちの前へ魔剣を持ったエスが歩み寄る。その姿に気づいた男たちは青褪めた表情でエスを見ていた。そんな男たちに背を向けエスは兵士たちに告げた。


「この者たちは強盗団だそうだ。捕えた場合は金が貰えるのだろう?」


 周囲では口を開け固まっている兵士や冒険者、貴族たちがいた。ハッと我に返った兵士の一人がエスに答える。


「は、はい。この者たちも拘留し犯罪鑑定を行います。こいつら全員を連行しろ」


 その兵士の言葉に他の兵士たちも動き出す。縛られたままの強盗団はすぐに連れて行かれたが、暴れていた冒険者たちに関しては手間取っている様子だった。


「おお、そうか。魔剣で縛ったままだった。ふむ、解いても面倒になりそうだし、ほら」


 エスは魔剣を近くにいた兵士に渡す。暴れていた冒険者らしき者たちにはそれぞれ兵士に囲まれており、反抗するこ気はないようだった。エスが兵士に魔剣を渡したことで縛りは解け、兵士に次々と連れていかれた。


「全員の犯罪鑑定は今日中には終わると思います。ですので、明日の朝にでももう一度こちらに来てください」

「では、私が来ましょう。雑用はお任せを」

「グアルディア様が直々に?わかりました。ではまた明日」


 そう言って兵士は頭を下げると他の待っている冒険者や貴族たちの対応を始めた。それを横目にグアルディアがエスに話しかける。


「では行きましょう。まずは宿を探さないといけませんね」

「そうだな。すぐ行くとしよう」

「お腹が空きました。レマルギアには確か名物があったと思います」

「えぇと、肉料理だったかしら?」

「肉料理!?食べに行こう姉さん」

「その前に宿よ。エスもさっさと行くわよ」


 仲間たちの会話を聞きながら、エスは門から見えるレマルギアの街並みを眺めていた。


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