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奇術師、中立都市へと至る

 魔剣をエスが奪ったことにより、自由となった強盗団の男たちは、頭に歩み寄るエスの姿を恐る恐る眺めていた。


「さて、ここに取り出しましたるは一つの箱。これを何に使うと思う?」


 何処からともなく箱を取り出したエスは、這いつくばる頭の男の目の前にしゃがむと箱を見せた。頭の男は意味が分からないといった感じで苦し気に首を振る。


「ふむ、わからないか」


 エスは立ち上がると、こちらの様子を見る男たちの方を向き問いかける。


「君たちの中で、この箱の使い道が分かるものはいるかな?」


 男たちは顔を見合わせたあと、エスに向かって首を振った。その様子を見て、エスはため息をつく。しかし、視界の端でサリアが手をあげるのが見えた。


「ん?サリアはわかったのか?」

「えぇと、頭に被せるのかしら?」


 サリアの答えを聞き、エスは満足気な笑みを浮かべた。


「サリア君、正解!」


 エスはそう言いながら箱を放り投げると、這いつくばる頭の男の頭部へと落ちる。スポっというような音が聞こえそうな勢いで箱が頭を覆ってしまった。


「「「お、お頭ぁ!」」」


 男たちの声が響く中、エスは徐に箱を持ち上げた。持ち上げた後には這いつくばる頭の男の体があったが、首から上がなくなっていた。首の切断面は黒い布で覆われているかのように黒くなっている。


「ほら、お仲間が心配しているぞ。無事な姿を見せてあげなさい」


 エスはそう言いながら手に持った箱の小窓を開けると、頭の男の顔が見えた。その表情は驚きと恐怖に染まっている。


「な、なんだここは!出して、出してくれ!」

「やれやれ、やかましい。君の体も無事なんだ、少しは大人しくしてくれないか?」


 そう言って頭の男に自分の体が見えるように箱を向ける。眼前に横たわる自分の体を見て、頭の男は顔を青褪めさせたまま黙ってしまった。


「おや、ちょっと刺激が強すぎたかな?まあいいか」


 そのまま箱を地面に置くと、エスは他の男たちの方へと歩み寄る。男たちは焦り散り散りに逃げようと走り出した。


「こら、待ちなさい。まあ、逃げられはしないんだけどな」


 エスの言う通り男たちに逃げ場などなかった。周囲は結界に囲まれており、男たちはそれを破ろうと必死に武器を叩きつけていた。エスはそんな男たちの背後に立つと、どこからともなく両手に箱を取り出す。そして、次々に箱を男たちに投げつけていった。その箱が体に触れると、まるで包み込むかのようにその部分を飲み込む。ある者は頭、ある者は腕と場所は様々だった。全員の体に箱がつくと、男たちはその場に崩れ落ちた。


「許してください…」

「殺さないでください…」


 そんな呟くような懇願が聞こえているが、エスは気にせず話しを始める。


「さて、君たちに選択肢をあげよう。一つ、このまま大人しく私たちに連れられて衛兵に引き渡される。そしてもう一つ、ここで死んで首だけ衛兵に引き渡される。さあ、どちらがいいかな?私としては前者の方がお金がたくさん貰えて嬉しいのだが…」


 わかりましたと男たちは皆頷いていた。そこへ、自分たちを守っていた結界を解いたグアルディアが歩いてきた。


「エス様、この者たちを全員連れてでは明日中にレマルギアに到着するのは難しくなるかと思います」

「そうか、それは困った。そうだ!」


 エスは馬車からロープを取り出すと男たちを縛り上げ一ヶ所に集めた。その際、体に付けた箱は外している。体を部分的に覆っていた箱が取り除かれても男たちは大人しくしていた。


「ふむ、もう少し抵抗するかと思ったのだが、まあ楽でいいが少々つまらんな」


 エスは地面に突き刺したままだった魔剣へと近寄り、その魔剣を馬車へとしまう。そして、再び縛り上げられた男たちの元へと近づいていった。


「君たちは明日までここでのんびりしていてくれたまえ。決して動かぬようにな。動いたら、体のどこかが取れてしまうかもしれないぞ?」


 エスが脅すようにそう言うと、男たちは必死に首を縦に振った。それを満足気な笑顔で聞き、エスは仲間たちの元へと戻る。


「さあ、カジノ用の資金も用意したし、日が昇ったらレマルギアへと行くとしようではないか!」

「はぁ?こいつらはどうすんだよ」


 意味が分からないとターニャが怒鳴る。そんなターニャの頭をポンポンと叩きながら話を続ける。


「どうするもこうするも、ちゃんと考えてあるから心配するな。魔剣まで手に入るとは予想外だったがな、フハハハハ」

「ではこの者たちは連れて?」

「いや、ここに置いていく。レマルギアに着いたら呼び寄せるつもりだ」

「そうですか、では明日すぐに出発できるよう準備はしておきましょう」


 グアルディアはエスの説明を聞き、以前城内でアリスリーエルや仲間たちを謁見の間に呼び寄せたという話を聞いたことを思い出した。エスの言葉に納得し、グアルディアは朝すぐに出発できるよう準備を始める。


「それでは、わたくしたちも寝ましょう」

「ええ、そうねぇ」

「エス、ちゃんとそいつら監視しとけよ」


 アリスリーエルとサリア、ターニャの三人は馬車へと歩いていく。やれやれと首を振りながらエスは焚火の側に座り男たちを監視することにした。と言っても、既に男たちの心は折れており抵抗する気配すらないのだが。そのエスの隣りへとリーナが腰を下ろす。


「エス、あなた少し派手にやり過ぎじゃない?やつらに目を付けられるわよ」

「構わんさ。特に『色欲』の悪魔に関しては向こうから来てくれたら手間が省けるのだがな」

「忘れてたわけじゃないのね…」

「もちろんだ。少々私を馬鹿にし過ぎじゃないか?」

「あなたの方が周りを馬鹿にしまくってるじゃない」


 そう言って笑うリーナにエスは肩を竦めて見せる。

 まあ、他の悪魔たちを誘い出すため、だけではないのだがな…

 その後、エスとリーナは他愛のない会話をしつつ朝を迎えた。起きてきた仲間たちが見たのは、エスが木の枝を使って男たちを囲むように地面に円を描いているところだった。


「君たち、私が呼び寄せるまでこの円から出るなよ、絶対に出るなよぉ。出ると体がバラバラになってしまうかもしれないぞぉ」


 エスの脅すような言葉に男たちは顔を青褪めさせる。その様子を見てエスは笑いながら仲間たちの元へと歩く。


「さあ、出発しようではないか」

「あいつらはいいのか?」

「ああ、問題無い。さっさと行くとしよう。あいつらがモンスターの餌になってしまう前にな」


 エスたちは馬車へと乗り込むと、レマルギアを目指し出発した。その馬車を縋るような眼差しで縛られた男たちが見つめていた。

 馬車で走ること半日、エスたちはレマルギアの街を囲む外壁が見える場所まで来ていた。王都より規模は小さいものの、それでも一都市を覆うだけにしては巨大な外壁だった。付近に隣国との国境があるはずだが、そちらには特に壁などが作られているわけではなかった。


「おや、少し混んでるようですね」


 グアルディアの呟きを聞いたエスが、御者台の方へと顔を出し前方を見る。レマルギアの入口と思われる場所で並ぶ馬車や旅人、冒険者たちの姿が見えた。その列の最後尾へとエスたちの馬車も並ぶ。しばらく待っていると、一人の兵士が近づいてきた。


「これは、グアルディア様ではありませんか。言っていただければすぐにでもお通ししましたのに。今、担当を連れて…」

「特別扱いは不要ですよ。今の私たちはただの冒険者ですから」

「いえ、そのようなわけには…」

「グアルディアの知り合いか?」


 顔を出しグアルディアに話しかけたエスを見て兵士は驚いていた。


「こちらの方は?」

「初めまして、私はエス。奇術師のエスだ。どうぞよろしく、兵士君」

「エス様、もう少しお待ちください。あなたも早く仕事に戻りなさい」

「ハッ、では後ほど」


 そう言って兵士は走って街の入口へと戻っていった。その姿を見送りながらエスにグアルディアが説明する。


「この入口を守っているのは我が国の兵士です。自分の国に通じる門は自分の国の兵士で守るというのがここの決まりになっていますので、もちろん私の知っている兵士もいます」

「なるほどな、中立という場所であればそんなものか。さて、もう少しかかりそうだから私ものんびり待つとしよう」


 あたりの風景や喧噪を楽しみつつ、エスはのんびりと過ごしていた。


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