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奇術師、魔道具を作る

「アリス!」


 ふと思いついたエスはアリスリーエルを呼ぶ。テーブルに置かれた物を眺めていたアリスリーエルは、その声に振り向く。そんなアリスリーエルへと、エスは魔結晶を放り投げた。慌てて魔結晶を受け止めるアリスリーエルへ、エスは笑みを浮かべながら話し始めた。


「森の中で使った爆発の魔法をそれに込めてくれないか?」

「えっ!?構いませんが…」


 そう言って、不思議がりながらもアリスリーエルはエスに言われたように、魔結晶へと魔力を注ぐ。爆発の魔法をイメージしつつ込められた魔力は、魔結晶の中に紋様を描き出した。完成した魔結晶をエスへと手渡す。


「ふむ、先程はなかった紋様が浮かんでいる。イイな、実にファンタジーだ。これを求めていたのだよ」


 エスは魔結晶を握り込み手を振る。その後、魔結晶を親指と人差し指でつまみ眺めた。


「確か、魔力を流せばいいのだったな」

「おい!何を…」


 ドレルの止める間もなくエスは魔結晶へと魔力を込めると、誰もいない部屋の隅へと放り投げた。魔結晶が床に落ちる瞬間、小規模な爆発を起こし床と壁がえぐられる。魔結晶自体は跡形もなく消し飛んでいた。


「フハハハハ、なかなかの威力じゃないか!」

「笑い事じゃねぇ!人の研究所に何しやがる!」


 笑っているエスにドレルは怒鳴った。だが、気にすることなくエスはドレルへと疑問をぶつけた。


「魔道具というのは流す魔力で威力が変わったりするのかね?」

「あん?確かに流す魔力量で威力は変わるが、それは効果に強弱があるようなものだ…け…」


 ドレルは途中で言葉を失くす。ドレルの目の前では、握り込んだ手を開き各指の間に魔結晶を挟んだエスがいた。その魔結晶には、全て先程の爆発の魔法が込められていることを意味する紋様が浮かんでいる。


「さっき爆発させたのに何故!?」

「いい表情だ。だが、流石に驚き過ぎだろう。言っているじゃないか、私は奇術師だと」

「奇術だと?たった今一つしか作ってないものをどうやって複数用意したんだ!」

「まあ、これが私の力だと言うしかないがな。増やしたいものが一つあった、それだけで私には十分なのだよ」


 相変わらず愉快だと言わんばかりに笑うエスに対し、ドレルは頭を抱えていた。そんなドレルにリーナとターニャが近づく。


「エス相手にむきになるだけ無駄よ…」

「エスはああいうやつだ」


 諦めた表情をする二人を見てドレルも同様の表情を浮かべる。そして、ゆっくりと部屋の隅へと歩いていった。そこは、先程エスが爆破した場所だった。ドレルは近くの壁に手を触れると、壁に向かって魔力を流し始める。すると、えぐれていた床や壁は、まるで傷が塞がるかのように補修されていく。しばらくして、爆発はなかったかのように元通りとなった。その様子をドレルの肩越しにエスは観察していた。


「ほほう、面白い。ドレルの能力か?」

「いいや、この研究所の機能だ。失敗して爆発なんてよくある事だしな。建物自体に修復機能を持たせてある。と言っても…」


 そのままドレルはエスへと向き直ると、エスの胸ぐらを掴みつつ怒鳴る。


「わざと爆発させんじゃねぇぞ!」

「わかったわかった。約束しよう」

「本当だろうな…」


 ドレルはエスに疑いの目を向けながらも、その手を離した。エスは笑顔のまま道具の置かれた机へと向かい、どんな魔道具を作るか再び考え始めた。

 私が使える魔法と言ったら幻惑魔法、まあ、魔道具との相性はいいだろうな。さて、どんなものを作るか…

 エスは仲間たちを順番に見た後、思いついた魔法を魔結晶へと込め始めた。流れ込んだ魔力は、魔結晶の中に紋様を描き始める。そして、それが終わると魔力の流れが止まった。


「ふむ、これでいいのか?さて、次は…」


 今度は近くにあったペンダントを手に取る。ペンダントトップの部分には魔結晶がはめられるようになっていた。


「これがいいな。リングよりは戦闘時に邪魔にならんだろう」


 持っていた魔結晶を一旦机の上に置き、その手でドレルが見せた棒状の器具を手に持つ。


「ドレル、これはどう使うのだ?」


 暇だったのか、部屋にある棚の整理をしていたドレルへとエスは質問した。


「その棒をアクセサリーのどこでもいいから当てて、魔結晶と同じように魔力を流すだけだ」

「なるほど、魔結晶と同じように直接はできないのか?」

「できん。直接魔力を流して作成できるのは魔結晶だけだ。ベースに使う方は金属だからその棒を使う。まあ、魔結晶も魔道具用に調整されてるからこそ、直接魔力を流して作成できるんだがな」

「金属の方は調整できないのか?」

「一番魔力を流しやすかった金属で試したが今のところ成功してないな。ま、儂が抱えてる課題の一つだ。そのうち出来るようにしてやらぁ」


 エスは豪快に笑うドレルから、手元に持ったペンダントへと視線を移す。棒状の器具でペンダントトップへと触れると、躊躇うことなく魔力を流した。少しして、ペンダントトップの部分に薄っすらと紋様が浮かんでいた。満足気に頷いたエスは、ペンダントトップへ魔結晶をはめる。既に、はめるだけに加工された魔結晶はペンダントトップに簡単にはまった。


「よし完成だ。ターニャ!」


 突然呼ばれ驚いたターニャがエスの方を向くと、自分に向かって何かが飛んでくる。それを咄嗟に掴み見てみると、エスが作った魔道具のペンダントだった。


「使ってみろ。ターニャにピッタリの効果なはずだ」

「…本当か?」


 ターニャは渋々といった感じでペンダントを身につける。ふと、エスは思い浮かんだ疑問をドレルにぶつける。


「ドレルよ。魔法が使えない者にも魔道具とは使えるものなのか?」

「ああ?魔力ってもんは魔法に適性が無くたって誰でも使えるもんだ。常識だろうに知らんのか?」

「フハハハハ、知らなかったぞ。なにぶん生まれたてでな、知らないことも多いのだ」

「エス様は転生されたばかりなのです」


 アリスリーエルの捕捉にドレルは少しの疑問を持ったが、ターニャの準備が整ったためそちらに意識を向けた。


「これは魔力を通すだけでいいのか?」

「ああ、大丈夫なはずだ」


 ターニャは静かに魔道具へ魔力を流す。それは微々たる量の魔力だったが、魔道具の効果を発揮させるには十分だった。

 魔道具に魔力を流したターニャが自分を見守っている仲間たちを見ると、その視線が僅かに自分から反れていることに気づく。その視線を追って自分の右へ向けるが、そこには何もなかった。


「皆、何を見てるんだ?」

「フハハハハ、成功のようだな。ターニャ、誰でもいいから触ってみろ」


 よくわからないといった表情でターニャは姉のサリアへと近づき肩に触れる。その間も皆の視線はターニャの周囲へと向けられていた。まるで、自分を見ていないかのように。


「きゃっ!えっ?」


 肩に触れられたサリアは咄嗟に後ろに下がる。その視界には確かにターニャがいた。その手は伸ばされていたがサリアに触れられる場所にはいなかった。


「姉さん、どうしたんだよ?」


 そんな姉の様子に驚くターニャに対し、エスが説明を始めた。


「ターニャ、おまえの姿は周りの者には見えていないぞ」

「え!?そこにいるじゃない!」


 エスの言葉に驚いたリーナが自分が見ているターニャを指差す。ターニャからはリーナが何も無い所を指差していた。


「ターニャ、リーナの腕でも掴んでやれ」

「えっ!?」


 ターニャは頷くとリーナの腕に触れる。リーナは見えない何かに触れられ驚いた。そんなサリアとリーナの様子を笑いながらエスは見ていた。


「さて、種明しだ。まず、ターニャはここにいるぞ」


 そう言ってエスはターニャの頭に手を乗せる。ターニャ以外からは何も無い所に手を乗せているエスの姿しか見えていなかった。仲間たちが驚く中、エスは説明を続ける。


「ターニャに渡した魔道具には、自分の姿を消し別の場所に投影する効果を付与した。つまり、周囲から自分の姿は見えなくなるというわけだ。我ながらうまくできたな。フハハハハ」


 そこまでの説明で理解したのか、サリアとリーナは納得の表情をみせた。一人納得していなかったアリスリーエルがエスに質問をする。


「エス様は何故、ターニャさんの居場所がわかるのですか?」

「ああ、魔力の流れを見れば場所がわかるぞ」


 エスに言われ、アリスリーエルとドレルが魔力の流れへと集中する。すると二人はエスが手を伸ばす部分にターニャを包んでいるであろう魔力の流れを見た。


「さてテストは十分だ。ターニャ、魔道具の効果を止めていいぞ」


 エスに言われ、ターニャは魔道具に流す魔力を止める。すると幻影が消えていくと同時にターニャの姿が現れ始めた。その魔道具の効果に興味を持ったアリスリーエルがエスに質問する。


「エス様、二つの魔法効果だけで今のようなことができるのですか?」

「私が込めたのは、自分の姿を霧散させるイメージと、霧散させた姿を別の場所に投影するイメージだ。もう少し効果が乗せられるのであれば任意の場所に姿を映すこともできるだろうが、効果は二つだけという縛りではランダムな場所に投影するしかできんな」


 エスの説明する効果にドレルは驚きつつも納得していた。転生、自分と同じように異世界から来た者であれば、その知識でこの程度のものは作ってしまうだろうと。そんなことを考えつつドレルは苦笑いを浮かべエスを見ていた。


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