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奇術師、追いかけられる

 エスたちは森を奥へと進む。


「ねぇ、エス。どうして何かが近づいてきてるってわかったの?」


 歩きながらリーナが問いかける。


「ふむ、ここまでくれば大丈夫か」


 そう言うと、エスはリーナの方を向き手を合わせる。そしてゆっくりと手を開くと、指の間によく見ないとわからない程度の細さの糸が四本現れた。


「それは?」

「【奇術師】の力で作った糸だ。強度も思いのまま、それに…」


 薄っすらと見えていた糸は空中に溶けるように見えなくなってしまう。


「あれ?糸が…」

「糸があった場所を触れてみるといい」


 エスの手の間、糸があった場所へとリーナは恐る恐る手を伸ばす。すると何もないように見える場所で糸の感触があった。


「えっ!糸がある。幻惑魔法、じゃないわね。これも【奇術師】の力なの?」

「その通り。糸の見た目、強度、思いのままだ。こんな力が前世の世界でもあったならどれだけ便利だったか」


 そう言いながらエスが笑っていると、何かに気づいた表情をしたアリスリーエルがエスへと話しかける。


「もしかして、パラヘルバの動きを止めたのは…」

「ほう、気づいたか。そう、この糸だ。強度のテストも兼ねて試してみたが、切れないものだな。魔導投剣との相性もいい」


 エスの言葉を聞き、アリスリーエルは納得の表情を浮かべる。


「それが何かが近づいてくるのがわかったことと、どう関係があるのよ!」


 始めの質問の答えになっていないとリーナは怒っていた。


「この糸の強度を最低まで弱めたものを、魔導投剣を使って我々の周囲に張り巡らせておいたのだ。明け方、その数カ所が切られたのがわかったのでな、先程見に行っていたのだ。切られた場所の地面に何かが這ったような跡があったから急いで移動したというわけだ」

「なるほど…」


 ターニャが納得したように頷く。しかし、サリアは首を傾げたまま、エスに問いかける。


「でも変よねぇ。あの花やパラヘルバならまだしも、なんでその何かは私たちの場所がわかったのかしら?」


 サリアの言葉を聞き、全員が顔を見合わせた。


「つまり、わたくしたちの場所を知って近づいてきた、ということですね…」

「なら、ここで話していることも…」


 アリスリーエルとリーナの言葉に反応するかのように、周囲の木々がざわめきだす。まだ距離はあるものの、何かが自分たちの方へ向けて近づいてきていることがわかった。


「フハハハハ、囲まれたな。やれやれ、おそらくは植物のモンスターだろうが、なかなか賢いじゃないか」

「笑い事じゃないわよ。音の感じからして、村がある方角が一番手薄みたいね。一気に村まで走りましょ」


 リーナの言葉を合図にエスたちが村を目指し走り出そうとした瞬間、横の草むらから何かが飛びかかってくる。咄嗟にサリアが槍でそれを貫いた。貫かれたそれは、球状になった蔦であり何本かの蔦を触手のように蠢かせていたが、息絶えたかのように動かなくなった。周囲の草むらは、未だ何かがいると言わんばかりに揺れている。


「なにこれ、気持ち悪いわねぇ」


 サリアは槍を勢いよく振り、刺さったままの蔦の塊を振り落す。


「まるでタンブルウィードだな。私が知っているのは、こんな生きがよくはなかったが」

「タンブルウィード、ですか?」


 自分の知らない言葉に興味を持ったアリスリーエルだったが、周囲の草むらから次々と飛び出してくる蔦の塊に集中する。


「ふむ、とりあえずこいつらを何とかしないとな」


 エスたちは周囲から飛び出してくる蔦の塊を、各々の武器で倒しつつ村への道を走る。背後からは沢山の何かが徐々に近づいてきているのが音でわかった。その音は始めに聞いた時よりも激しくなっていた。


「アリス、村までどれくらい?」

「恐らく、もう少しだとは、思います」


 ターニャの言葉に、息も切れ切れにアリスリーエルが答える。しばらく走ると、蔦の塊が襲ってくることはなくなった。だが、背後の音は、既に何かがすぐ近くまで来ていることを知らせていた。エスは走りながら後ろを確認する。そこには、想像以上の光景が広がっていた。


「フ、フハハ、これはマズいな。『傲慢』の悪魔とやりあった時よりマズそうだ」


 エスの言葉に仲間たちも後ろを見る。そこには様々な容姿の植物たちが、植物にはあるまじき鋭い歯の並んだ口を開き迫ってきていた。根と思われる部分を巧みに動かし、地面を這って近づいてきている。その速度は足を止めたらすぐに捕まる程の早さであった。幸いなことに、数が多く木々の間で詰まってしまい動けなくなるものたちがいたため、今のところは追いつかれることはなさそうだった。


「少し時間稼ぎするとしよう」


 そう呟くと、エスはポケットから魔導投剣を取り出し、両手に一本ずつ持つ。走りながらそれを左右へと投げた。それらは遠くの木を迂回し、再びエスの手元へと戻ってくる。魔導投剣を手に持ったエスは足を止めると振り向き、自分たちを追う植物たちを見た。


「エス!何をやって…」


 突然止まったエスに驚いたリーナが声をあげる。次の瞬間、エスが魔導投剣を持った腕を体の前で交差させる。すると、向かってきていた植物たちが、何かにぶつかるように止まりもがいていた。その様子を見て仲間たちも足を止める。


「いったい何をしたんだ?」

「あっ!さっきの糸を…」


 理由に思い至らなかったターニャだったが、アリスリーエルは植物たちが止まった理由に気がついた。


「アリス、正解だ。ターニャはまだまだだな」


 やれやれといった風に首を振るエスへと、ターニャは殴りかかる。


「うるさい!」

「おっと」


 それを避けつつ、エスは植物たちを見た。すぐに糸を切断して迫ってくる様子はなかったが、糸を支えている木々の方が耐えられないかもしれないと感じ取り、手元の見えない糸を結ぶ。


「あまり長持ちしなさそうだな。数が多すぎる」

「急ぎましょ。村までは?」

「もう少しのはずです」


 リーナに答えたアリスリーエルが村の方を見る。すると、今度は村の方から何かが近づいてくる音が聞こえてきた。その音は、自分たちを追ってきた植物たちと同様のものだった。


「前からも来ます!」

「流石にヤバいぞ!」

「ターニャ、気をつけて」


 姉妹が武器を構え警戒する中、エスは村の方から聞こえてくる音に違和感を覚えていた。


「どこかで聞いたことがある音が混ざっているな」


 次の瞬間、眼前には後方で身動きが取れなくなっている植物と同じように口を持った植物が数匹現れた。


「やれやれ、先にこいつらから何とかしないといけないな。後ろを抑えられている間に始末するぞ」

「はい!」

「わかったわ!」


 返事をするアリスリーエルとリーナ。姉妹は武器を構えながら頷くと、目の前の口を持った植物へと駆け出した。リーナと姉妹は近くの植物たちを倒していく。アリスリーエルも爆発の魔法を使い数を減らしていく。


「魔法であいつら全部吹っ飛ばせないの?」


 魔法を使う様子を見ていたリーナが後ろを指差しながらアリスリーエルに話しかける。それを仲間たちが戦う様を眺めながら聞いていたエスが代わりに答える。


「ここら一帯を吹っ飛ばせれば倒せるだろうが、全てを倒す程となるとこちらも巻き込まれるな」

「それもそうね。じゃあ逃げるしかないか。って、それよりあんたも手伝いなさい!」


 リーナがエスへと詰め寄ると、再び村の方から何かが近づく音が聞こえてくる。その音は、植物たちが近づいてきた時とは別の音だった。


「今度は何だ!?」

「新手かしら?」


 動揺する姉妹を他所に、音はどんどん近づいてくる。その音を聞きながらエスはポケットへと手を入れた。


見切り発車で書き始めたこの話も早50話目、予想以上に読まれていて嬉しい限りです。

今後も読みやすさと予想外な展開を目指して、書いていきたいと思います。


ただ、サブタイトルの縛りだけは辛くなってきました…

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