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奇術師、植物に囲まれる

 エスはアリスリーエルの側まで近づくと地上から僅かに浮いた場所に静止する。そしてアリスリーエルを横抱きで抱えた。所謂、お姫様抱っこという格好だった。


「え、エス様!?」


 杖を両手で握り、慌てるアリスリーエルを見下ろしながらエスは答える。


「この方が運びやすいからな。フハハハハ、そのままの意味でお姫様抱っこだな。さて、どこへ行けばいい?」

「そ、そうですね。茎の部分へ…」

「了解だ」


 エスは空中を歩きながらアリスリーエルの指示通り、花の化物の木の幹のように太い茎へと近づく。アリスリーエルは抱えられながら、花の化物の茎を観察していた。


「…ここなら。エス様、少し時間がかかります。もし危険だったら逃げてください」

「ふむ、理由はわからんが了解した」


 アリスリーエルは手に持つ杖を茎へと突き立てると、杖が青く光り始める。すると、周囲の蔦が一斉にエスとアリスリーエルへと向かい伸びてきた。杖を突き立てられ花の化物は苦しそうにもがき始める。


「おお、これはいかんな」


 エスは、浮かせたままにしていた魔導投剣を使い迫りくる蔦を切り落す。しかし蔦の数は多く、動くことができないエス一人では止めきれなかった。エスが一旦退こうとすると、そこへリーナが両手に曲刀を持ち蔦を切り裂きながら飛び込んできた。


「こっちには蔦が来ないから近づくのが楽だったわ」

「アリス、どのくらいかかりそう?」


 同じように蔦を切り裂きながら走り込んできたターニャがアリスリーエルへと声をかける。上空からは華麗な槍さばきで、蔦を寄せ付けないようにしつつサリアが飛び降りてきた。


「もう少し時間がかかりそうです…」


 杖に魔力を込めながらアリスリーエルは答えた。


「それなら私たちでアリスを守るしかないわねぇ」


 サリアの言葉を合図に、リーナたち三人は周囲の蔦へと斬りかかった。エスも、三人がさばききれなかった蔦を魔導投剣で切り落す。少ししてアリスリーエルは杖を花の化物から引き抜いた。茎は内側から僅かに膨張し、所々が裂け青い光が漏れていた。


「皆さん、離れてください」


 リーナたち三人は花の化物から距離を取る。エスも、アリスリーエルを抱えたまま三人の元へと飛んだ。アリスリーエルをその場に降ろし振り向くと、花の化物はもがきながら、その身を先程よりも膨らませていた。もがいていた花の化物はその動きを唐突に止める。エスたちが見守る中、その茎にある無数の裂け目から氷の棘が突き出した。断末魔をあげるように開いた花弁は、枯れたように茶色に変色し地面へと落ちる。蠢いていた蔦も、今は力なく地面に倒れていた。


「ほほう、茎の中の水を凍らせたのか」

「はい、効果があって安心しました」

「それにしても…」


 エスはゆっくりと動かなくなった茎に近づく。


「なんとも凶悪な魔法だな」

「内部の液体を凍らせる魔法です。ですが…」

「どうかしたの?」


 途中で黙ってしまったアリスリーエルを不思議に思い、リーナが声をかけた。


「書物で見たこの魔法の効果は、ここまで酷い結果にならないはずなのですが…」

「まあ、魔力が強くなったからじゃない?それにしてもこの森にはこんなものがいたのね。これじゃ動物もモンスターもいないわけよ」


 リーナの口にしたこの森に対する感想は、全員が思っていたことだった。エスはリーナに頷いて見せると、森の奥へと歩き始める。


「さぁ、先に進もう。今度はいったい、どんな植物が現れるのか楽しみだ」


 そう言うと笑いながらスタスタと歩いて奥へと進んでいった。アリスリーエルたちは顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。


「まったく、エスのやつは…」

「とにかく先に進みましょ。村まではまだあるの?」

「ええ、まだ遠いです」

「なら、急ぎましょう。流石にこの森で野宿は嫌よ?」

「姉さんの言う通り、見張っていてどうこうできそうにないしね」


 四人はエスの後を追い森の奥へと走った。しばらくしてエスと合流し、森の奥へと歩く。


「きゃっ!」


 声をあげたのはサリアだった。エスが振り返ると、躓いた様子のサリアにターニャが寄り添っていた。サリアの後ろの地面を見て何かが落ちているのに気づくが、エスもサリアの元に近づく。


「大丈夫か?」

「ええ、躓いただ、け…」


 サリアは自分が躓く原因を見て言葉を失くした。それは、地面に半ばまで埋まった人の頭蓋骨だった。エスは周囲を見渡すと、あちらこちらに骨が見えていた。人だけではなく、動物やモンスターのものらしき骨も見て取れる。それらの骨は蔦のようなものが絡まり、所々には蕾のようなものがついていた。


「植物たちにやられたか…」


 エスが呟くその隣で、アリスリーエルは驚いた表情をする。


「エス様、すぐにこの場を去りましょう。あの蕾はパラヘルバ、生物に寄生する植物です」


 アリスリーエルの説明が終わると同時に、逃がさないと言わんばかりに周囲のパラヘルバたちが咲き始める。毒々しい色をした花弁を広げ、その中央には血走った眼球が現れる。それらの眼が一斉にエスたちを見た。


「ふむ、どうやら気づかれたらしいな」

「…ですね」


 エスたちは武器を構える。パラヘルバたちが咲くと、周囲の骨が蔦のようなものに持ち上げられるようにして浮かぶ。よく見ると、絡みついている蔦のようなものの先は骨に融合するかのように溶け込んでいた。浮かんだ骨同士が繋がっていき、やがてスケルトンの様な姿へと変化する。その数、数十体。人だけでなく熊や鹿の様な動物から、何かわからないモンスターらしきものまで多種にわたる。


「フハハハハ、これまた大勢に囲まれたものだな。骨だけの観客はご遠慮願いたいのだが…」

「笑い事じゃないわよ!」

「皆さん、気をつけてください。植物の部分に生身で触れると寄生される恐れがあります」

「要するに触らなければいいのね?」

「骨だけでも操れるのか、厄介な相手だね…」


 エスたちが話している最中、パラヘルバたちが一斉にエスたちへと向かってくる。リーナは二本の曲刀を使い、舞い踊るように次々とパラヘルバたちを切り刻む。だが、切断した部分は蔦のようなものが伸び再び再生していた。


「これは面倒ね…」


 呟くリーナの視線の先では、サリアが槍の石突でパラヘルバが寄生する骨を砕いていた。砕かれた骨はパラヘルバの蔦が包み込むように補強し再生していく。


「あら、砕いてもダメなの?」

「どうしたらいいんだよコレ…」


 その横ではターニャが短剣で切り裂いているが、リーナの時と同じく再生していた。少し離れたところでアリスリーエルの魔法によって爆発が起こった。爆発の直撃を受けた一匹のパラヘルバが砕け散る。破片についていた蔦のようなものが僅かにのたうつと、動きを止めた。その後、砕けたパラヘルバが再生することはなかった。しかし、他の爆発の影響で一部が欠けただけのパラヘルバは再生を始めている。

 おや?どうして直撃したパラヘルバだけは再生しないのだ?

 その様子を眺めていたエスは、再生する条件を考える。そしてあることに気が付いた。笑みを浮かべポケットから魔導投剣を一本取り出すと頭上へと放り投げる。


「さて、予想は当たっているかな?」


 エスは徐に片手を挙げると、ゆっくりと一匹のパラヘルバを指差した。次の瞬間、頭上に投げられた魔導投剣が指差したパラヘルバへと勢いよく飛んでいく。魔導投剣はその勢いのまま、パラヘルバの花にある眼へと突き刺さった。眼を潰されたパラヘルバは地面へと倒れもがき苦しむかのように暴れると、そのまま動かなくなった。


「フハハハハ、大当たりだ!花の眼が弱点らしいな。眼を潰せば再生もしないようだぞ」


 エスの言葉を聞き、仲間たちはパラヘルバの眼を狙い始めた。元々、パラヘルバはそこまで動きが素早くないため、みるみる倒されていく。数を減らすパラヘルバたちの背後から、先程まではいなかった巨大なパラヘルバが姿を現した。


「ふむ、アリスよ、この世界には四本の手足を持った熊がいるのか?」

「…いえ、いなかったと思います」


 現れた巨大なパラヘルバは、それぞれ四本ある腕と足を持ち、頭が二つあった。頭蓋骨の形状からして熊だとわかるが、その姿は異様だった。指の先には鋭く長い爪がある。姿を見たエスがアリスリーエルへと問いかけたが、アリスリーエルも知らない見た目であった。


「となると新種なのか、あの花が勝手に融合させたのか…。どちらにせよ、ややホラー寄りだがなかなかにファンタジーな光景だな。どうやらあちらさんは、雑魚がいなくなるまで待ってはくれないらしい」


 エスの言葉が真実であると言わんばかりに、巨大なパラヘルバは、周囲のパラヘルバを薙ぎ払いつつエスたちへと向かい突進してきた。


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