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奇術師、遺跡へ侵入する

 そんなエスを見て、説明する聖騎士は少し引き気味に続ける。


「そ、そうだ。いくつかの冒険者パーティが中へと調査に行ったが、一向に戻らないとの報告があったから我々が調査している」

「それは少し変ではないか、冒険者ギルドにこの遺跡の調査依頼があったのだよな?」


 エスは隣のサリアを見ると、それに気づいたサリアが頷いていた。


「ええ、グレーススでも依頼を見かけたわ。聖騎士が調査に動いてるのに依頼が出てるのはおかしいわねぇ」

「どういうことだ?おい、おまえたち」


 説明していた聖騎士が、近くの聖騎士を三人呼ぶと命令する。


「三人でルイナイのギルドに行き依頼の有無を確認してこい。もし依頼があるようなら依頼者の調査、依頼の有無はすぐに報告しろ」

「了解しました」


 そう言って、命令を受けた三人の聖騎士は掌サイズの装飾された球体を受け取るとルイナイの方へと馬に乗り走っていく。

 それを見送る聖騎士、聖騎士からの注意が自分から反れたのをいいことに、エスは説明していた聖騎士の横を徐に通り過ぎる。遺跡の入口へと向かうエスに気づいた聖騎士が慌てて声を上げた。


「貴様、話を聞いていたのか!?遺跡は調査が終わるまで入らせるわけにはいかん!」

「もちろん聞いていたとも。だが、聞いたからと言って従うかどうかは別だろう?」

「貴様!」


 エスはそう言うと構わずに遺跡の扉を両手で押す。すると、重い石を引きずるような音をたて扉が開いた。


「さあ、アンデッドを見に行こう!」


 エスはそのまま遺跡の中へと歩いていく。やれやれといった表情でリーナたちはエスを追いかけ、遺跡へと入っていった。周囲の聖騎士たちは呆気にとられた表情で、それを眺めているだけだった。

 中は暗く数メートル先も見えない。アリスリーエルが杖を掲げると、杖の先に光の球が生成され周囲を照らしだす。


「ほう、これは魔法かな?」

「はい。読んだ本の中には魔導書もありましたので、練習して覚えたのです」


 物珍し気に光の球を眺めるエスにアリスリーエルが答えた。


「練習したからって魔法が使えるわけじゃないんだけど。アリスは魔術師としての資質があったってことかしら?」


 光を眺めつつ呆れた声を上げるサリア。


「他にも使えるのか?」

「ええ、部屋で試せるものは全部試して使えましたので大体基本的なものは使えるかと。流石に広範囲に影響が出るような魔法は試せませんでしたが…」

「試したらマズいでしょ」


 ターニャとアリスリーエルのやり取りを聞きながら、リーナが呆れていた。

 他愛のない会話をしつつエスたちは遺跡の奥を目指す。ターニャを先頭に罠を警戒し、時には解除しつつ進んだ。


「ターニャは罠の解除が出来るのだな」

「当然だろ。これでも盗賊ギルドの頭なんだ」

「そうだったな。そいえば、あの頃に比べて随分と体が軽くなった気がするな」


 そういって体を動かすエスを見て、リーナが理由を説明する。


「感覚が馴染んでなかったんじゃない?私も復活後はそんな感じよ。ただ、エスの場合は転生してるから余計にそう感じるのかもしれないわね」

「ふむ…」


 エスはふと考える。

 【奇術師】や【崩壊】の力を使う度に徐々に馴染んできているという感じはしていたな。前世と比べ心なしか考え方も変わった気がするが、まあいいか。不利益があるわけではないし、何よりこの世界を楽しむうえでこの力は必要だしな。

 独りでうんうんと頷くエスを見てアリスリーエルが問いかける。


「どうかされましたか?」

「いいや、なんでもない。それにしても、この遺跡は随分と奥行きがあったのだな」

「ちょっと待って。目の前の十字路、何か来る」


 小声で仲間へと忠告するターニャの背後から、エスは目を凝らす。


「暗くてよく見えんな。何が来るのだ?」

「乾いた足音、アンデッドがいるってことはおそらく…」


 薄っすらと見える十字路、向かって右手側の角から白い何かが姿を現す。


「やっぱりスケルトンだ!」


 ターニャが声を上げる。現れたスケルトンは一体、片手剣と小さな丸盾を持ち、こちらに気付くと顎を小刻みに震わせ歯をカチカチと鳴らしていた。


「フ、フハハハハ。素晴らしい!」


 次の瞬間、エスは目にも止まらぬ速さでスケルトンの背後へと回り込む。


「いったいコレはどうやって動いているのだ?」


 エスはすれ違いざまにスケルトンの両腕、肘関節から先をもぎ取っていた。エスがもぎ取られた腕を眺めていると、関節ごとにバラバラと崩れ持っていた剣と盾を地面へと落とした。


「おや?バラバラになってしまったぞ?骨君、すまなかったな」


 エスは自分の手に握っている骨をスケルトンの肘へとくっつけようと押し付けるが、手を離すと押し付けられた骨はくっつくことなく地面へと落ちる。エスは申し訳なさそうな表情でスケルトンの顔を見ていた。

 そんなエスの様子を無視し、腕をもがれたスケルトンは再びカチカチと歯を鳴らし始める。


「腕をもいで悪かったが、少々うるさい」


 エスはスケルトンの頭部を鷲掴みにすると鎖骨付近を抑え頭蓋骨を取り外してしまった。


「これで静かになるかな?」


 すると、スケルトンの体はもがれた腕と同様にバラバラと崩れ地面へと散らばる。それを見てエスは理解した。


「なるほど、頭部が無いと成り立たないのか」

「普通のスケルトンはそんなことないぞ」


 ターニャの声が聞こえエスはそちらを向くと、仲間たちが近くまで来ていた。エスは手に持っていた頭蓋骨は背後に放り投げた。


「どういうことだ?」

「自然発生したスケルトンは頭部を破壊した程度では止まらないの。頭部を破壊して止まるスケルトンは…」

「死霊術士が作成したスケルトンよ」


 サリアの言葉にリーナが続く。告げられたその事実に、エスは目を輝かせた。


「死霊術なんてものがこの世界にはあるのか!ネクロマンサーか、素晴らしい、是非とも見てみたい」

「たった今、死霊術は見てるじゃない」


 苦笑いするリーナを気に留めることなくエスは遺跡の奥を見る。


「それにしても、十字路か。どれが正解なのだろうな?」

「ひとつひとつ回ってみるしかないな」

「そうね。地図があるわけじゃないから全て行ってみるしかないわ」


 姉妹の言葉にエスは頷く。


「冒険者の先輩たちがそう言うのであればそうしよう。では、まずは一番怪しいこのスケルトンが来た道からだな」

「うふふ、いきなり本命の道へ行くのですね」


 エスの決定にアリスリーエルが笑う。他の仲間たちも異論はないようでスケルトンが現れた道を奥へと進んでいった。

 少し歩くと目の前に石でできた扉が現れた。ターニャが罠がないかと扉の周囲を調べている間、エスたちは背後の様子を窺う。だが、特に何かが追ってきている気配はなかった。


「そういえば、聖騎士たちは追ってはこないな。てっきり力尽くで連れ戻しにくるかと思ったのだが…」

「慎重に捜査しているのでしょうね。追ってこないのなら好都合じゃないの?」

「まあ、そうなのだが。少々つまらんな」


 エスとリーナが話しているとターニャが声を上げた。


「大丈夫だ。開けられるぞ」

「よし、では行ってみようか」


 エスは扉の前へ立つと、両手で扉を押す。石を引きずる音をたてながら扉が開くと、中は広い部屋になっていた。奥はまるで祭壇のような造りになっており、その祭壇左手の壁には扉があった。


「何か、教会のような場所ですね」

「元々はそういう場所だったのかもね」


 その部屋に、アリスリーエルとリーナだけでなくエスたちは皆同じ印象を受けていた。


「古代の教会か。あの奥の扉の先はどうなっているのか…」


 エスが奥に見えた扉に向かおうとしたとき、どこからともなく腐臭が漂ってきた。


「この匂いは…」

「やっぱりスケルトンだけじゃないわよねぇ」


 そう呟き顔を顰める姉妹、リーナも鼻と口を袖で押さえていた。アリスリーエルは顔を顰めながらも周囲を見ている。


「腐臭、アンデッドとくれば、定番の…」


 エスの言葉を切るように床の石畳を押し上げながら六体の何かが現れた。その姿は所々損傷した人の姿をし、革鎧などを着ている。その表情に生気はなかった。


「おお、やはりゾンビか!いい、実にファンタジーだ。まぁホラーと言えなくもないか…」

「エス様、ここはわたくしが処理します」


 そう言って一歩前に出たのはアリスリーエルだった。


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