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奇術師、アシスタントを得る

 エスはアリスリーエルへと近づく。


「手を出したまえ」

「手、ですか?」


 エスの言葉にアリスリーエルは不思議そうな顔をしていた。


「そう、手だ。奇術は手品と言うこともある。つまり手は重要なのだよ」

「そうですか…」

「さあ、掌をこちらへ向けるのだ」


 恐る恐る手をエスへと手を伸ばすアリスリーエル、その掌へエスも自分の掌を合わせる。すると合わされた掌の隙間から僅かに光がこぼれ、すぐに消えてしまう。


「よし、これで終わりだ」

「えっ!?」


 あまりにあっけなく終わった儀式にアリスリーエルは驚きの声を上げる。儀式の様子を見ていた者たちも、簡単に終わってしまった儀式に驚いていた。


「王女よ、合わせていた手の甲をよく見たまえ」


 エスにそう言われアリスリーエルは自分の手の甲を見る。すると、そこには文字のようなものが浮かび上がっていた。


「それが契約の印だ。それがある限り呪詛の影響は受けまい。しかも不老と来たものだ。フハハハハ、便利な世界だな」


《眷属取得により【奇術師】の事象改変能力上昇》


 ほほう、【奇術師】が強化されたか。それにしても事象改変か、もはや奇術ではないな。だが、人を驚かすという点については問題にはならんだろう。

 エスは謎の声により【奇術師】の力が上昇したこと、そしてその力の本質を知る。能力のことを考えているエスの顔をアリスリーエルが覗き込んでいた。


「どうかされたのですか?」

「ん?何でもない。なぁに、契約をしたことで私にも恩恵があったようだ」

「恩恵、ですか?」


 アリスリーエルはその言葉に首を傾げる。その後ろで、アリスリーエルの手の甲を見た王は考え込んでいた。


「どうした王よ。何か問題でもあるかね?」

「ふむ、手の甲を見て七聖教会に悪魔の眷属として狙われないかと思っておった。気休めにしかならぬだろうが、隠す方法を何かしら考えよう」

「なるほど、聖騎士は人の話を聞かんようだからな。私の方でも気をつけるとしよう」


 全く面倒なやつらだと首を振りながら、エスはアリスリーエルへと視線を移す。


「さて、早速ここから近い面白い場所を教えてくれないか?できればドラゴンなんかを見たいものだ」

「ドラゴン、ですか?そうですね、一番近いドラゴンの巣と言われている水晶窟でも遥か北ですし…」


 俯き少し考え込んだアリスリーエルは何かを思いついたように顔をあげる。


「でしたら王都近くにある遺跡なんてどうでしょうか?この国が出来る前のものらしいですよ」

「ほほう、遺跡か」


 その話を聞いていたサリアが思い出したように話し始める。


「その遺跡って、もしかしてファスキナ遺跡かしら?」

「ええ、そうです。ご存知なのですか?」

「ギルドにあった依頼書で見かけることがあったの。ただ、そこに行った冒険者が帰ってきたという話は聞かないわねぇ」

「ほう、何かがいるのか罠があるのか。そんな場所にどんな宝があるか気になるな。まずはそこに行くとしよう!」


 あっさりと次の目的地を決めたエスの言葉に周囲の者はやや諦めた顔をしていた。


「せめて馬車くらいは用意をさせる。出発は明日にするといい」


 王の言葉を受け、エスは仲間たちに告げる。


「ならば今日は出発準備をするとしよう」

「そうね。食材類も少なくなってるし買い出しに行きましょうか」

「私たちも行きましょう、ターニャ」

「わかった」


 リーナは姉妹を連れ外へと向かう。それを見送ったアリスリーエルは落ち着かない様子でエスに話しかける。


「わたくしはどうしたら?」

「王女は今日は城でゆっくりするといい。久し振りの尖塔の外だ。城の中を見て回ってはどうかな?」

「そうですね、そうさせてもらいます」


 王と話し始めたアリスリーエルの様子を眺めていると、サルタールとパッソが近付いてきた。


「エス、俺たちはサーカスがあるからテントに戻るぞ」

「なんだ、一緒に行かないのか?」

「サーカスがあるって言ってるだろ!まあいい、一つ頼まれてくれないか?」

「嫌だ」

「はぁ、旅先で調教師を名乗るやつがいたらサーカスに来るように言ってくれ。どうせ会えばわかる」

「ふむ、まあ覚えていたらな。見つけたら報酬を払いたまえ。一応これでも冒険者なのでな」

「ああ、わかった。頼んだぞ」


 サルタールは伝えたいことだけ伝え、手を振るパッソを伴い帰っていった。それを見送った後、王たちへと向き直る。


「明日の朝またここへ来るとしよう。それでは」


 エスは王たちへと背を向けると、城の外へと向かっていった。

 その夜、一行は各々の時間を過ごす。エスは一人で武器屋へと来ていた。


「おう、らっしゃい。って王都を救ってくれた英雄さんじゃねぇか」


 店内で商品の整理をしていた男がエスを見て驚く。


「英雄というのはやめてほしいものだ。私は奇術師、奇術師のエスだ。少し武器を見せてもらってもよいかな?」


 エスは、今までは【奇術師】の力でどうにかなっていたが何かしら武器はあった方がいいだろうと判断し見に来ていた。


「おう、好きに見てってくれ」


 そう言って男はカウンターへ移動する。周囲の商品を見渡しつつエスは考える。

 ふむ、ファンタジーの定番と言ったら剣、片手剣だろう。だが、それでは面白くない。【奇術師】との相性は良さそうだが、さてどうしたものか…

 悩みつつ商品を見ていると、一つの武器が目に留まる。それは二対の短剣で、店に並ぶ他の武器とは違い柄には変わった装飾が施されていた。


「これは…」

「おお、それは魔導投剣と言う、らしい」

「らしい?」

「魔力を使って空中で自在に操ることができるそうだが、オレが魔法使えねぇからか、うまく動かなくてな。確認できてねぇんだわ。確認出来てねぇなら買えねぇってことで売れ残っちまってるわけだ」

「なるほど…」


 エスはその投剣を手に取ると悪戯を思いついた子どものように笑みを浮かべる。

 これは使えるな。手に持った感じ魔力の流れを感じる。店主の言った通りの効果もありそうだ。


「よし、この投剣を買うとしよう。いくらだね?」

「おお、そうか。まあ、名前通りの性能があるかわからんが、一本銀貨五枚ってとこだな」

「相場がわからんが、まあいい」


 エスはポケットから銀貨を取り出しカウンターへと置くと、付属の鞘にしまった投剣をポケットへとしまった。ポケットの中にみるみる入っていく投剣を見て男は驚愕の表情を浮かべていた。


「それではな」

「ま、まいど、あり…」


 未だ驚いたままの男をそのままにエスは店をあとにする。夜空を見上げつつ、エスは独り呟いた。


「面倒事が続いたが、これでのんびりとこの世界を楽しめそうだな。さぁ何が見れるか楽しみだ」


 高ぶる気持ちを抑えつつ、エスは宿へと歩いていった。


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