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奇術師、決着をつける

 蹴り上げられた雄牛の悪魔は空高く飛ばされ姿が見えなくなった。エスは姿が見えなくなったのを確認するとパッソが落とした剣を一本拾い上げる。


「これでよし。さて…」


 エスは心の中で念じる。すると以前聞いた声が頭の中に聞こえてきた。


 《【崩壊】解放、【奇術師】封印》

 《能力同時使用不可》


 その声を確認し、ふとエスは頭の中に響く声へと問いかけた


「いったい、おまえは何者だ?」


 案の定、答えは無かった。想定していた結果だったが、エスはため息をつく。


「ならば質問を変えよう。【崩壊】と幻惑魔法の同時使用は可能かな?」


 《【奇術師】以外、同時使用可能》


「ふむ、これは答えるのか。まあいい、では派手に終わらせるとしようか!」


 笑みを浮かべたエスは、手に持つ剣に【崩壊】の力を纏わせる。剣は淡く光り始めた。上空では雄牛の悪魔が落ちてくる姿が見えてきていた。エスは剣を雄牛の悪魔目掛けて投擲する。剣は淡い光の筋を残しつつ上空へと飛んでいき、雄牛の悪魔の腹へと突き刺さった。悪魔の叫びが王都に響き渡り、剣が刺さった場所からその体は消滅し始める。

 次の瞬間、叫び声をかき消すように炸裂音が響き渡る。それはエスにとっては聞き慣れた音だった。その音と同時に光が花開く。広がる光と共にエスは両手を広げ空を見上げながら声を上げた。


「たーまやー!」


 そらに広がる光はエスが前の世界で知る花火そのものだった。そのようになるようエスが幻惑魔法を使い幻影で作ったのだ。周囲の人や兵士たちがその花火を見上げている。その表情には驚愕の表情が浮かんでいる。そんな周囲の人の表情を見てエスは確信する。


「やはり、この世界に花火は無いようだな。ということは、稀にいるという転生者がこれを見て接触してくる可能性もあるか。楽しみが増えたな。だが昼間ではそこまで美しく見えん、残念だ。今度は夜に試すとしよう」


 ゆっくりと消えていく花火の中心で殆ど消滅した雄牛の悪魔の姿があった。すでに手と足先、そして角が残るだけだった。残っていた手足が消える。


 《【奇術師】解放、【崩壊】封印》


 雄牛の悪魔が死んだことを確認したエスは【崩壊】の力を再び封印する。未だ消えていなかった角は地面へと落下しエスの近くへと突き刺さった。悪魔が死んだことを周囲へ証明するためにも角だけを消さずに残したのだった。


「終わったみたいだな」


 エスに近付くサルタールが話しかけてきた。再びローブを羽織ったリーナとパッソもエスの元へと歩いてくる。


「あれなら【崩壊】に気付いた人はいないでしょうね」

「いい手だっただろう?」

「エスなら人目なんて構わず【崩壊】を使うと思ってたわ」

「愉快なことは好きだが、面倒はそんなに好きじゃないのでな」


 ため息をつくリーナの横で、パッソは腕を組みウンウンと頷いている。

 少しして周囲から歓声が上がった。その歓声の中には悪魔殺しを称える声も混じっていた。


「さあ、観客に最後の挨拶だ」


 エスの言葉を合図に四人は周囲の人へとお辞儀をする。再び、中央広場は歓声に包まれた。

 周囲の人たちへ手を振るエスたちの側へと一人の兵士が近付いてきた。


「倒したか…」

「おや、確かヴェイン殿だったか?」

「ああ、ここの処理は我々がしておく。おまえ達は陛下へ報告してくれ」

「ではそうさせてもらおう」


 エスたちは城へと向かうことにした。その道中、道行く人々からも称賛の声をかけられた。

 城へと到着すると、すぐに謁見の間へと案内された。謁見の間ではアリスリーエルと楽し気に話すサリアとターニャ、そして王座に座る王が待っていた。


「どうかな?短い時間だったが楽しんでもらえただろうか?」

「見事であった」


 エスの言葉に王が答える。それを聞きエスは満足気に頷いたが、思い出したように疑問を口にする。


「それにしても、リーナが魔法を封印したときに眷属も消滅していたが魔力妨害の結界が張られているこの中で、レケン殿は何故眷属を呼び出せたのだ?」

「この魔力妨害の結界はレケンが考案したものだからな、おそらくは…」

「なるほど、悪魔に知恵を借りて作った可能性があるということか。ということは、この結界は悪魔たちには効かないのではないか?」

「その可能性が高い。悪魔が魔法を使えて兵は魔法が使えないのでは問題がある、この結界は解除するとしよう」

「その方が良いだろうな。さて…」


 エスは未だ謁見の間に残るレケンの書斎机へと近付く。机の上には蛇が入った籠が置かれていた。徐に籠から蛇を取り出すと、その顔を自分の目の前へと持ち上げる。蛇は力なくその体を垂らしているだけだった。周囲の者たちはその様子を窺っている。エスの目には蛇の体から伸びる魔力の糸のようなものが微かに見えていた。

 やはりこの蛇は処分しておいた方が良さそうだな。蛇とはいえ悪魔の眷属、情けはいらんだろう。

 エスは蛇へと語りかける。


「聞こえているかな?それとも見えているのかな?この蛇の主人よ。大変わかりやすい暗躍だったな、次回はもっと凝った演出でお願いしたい。また楽しませてくれたまえ」


 エスは再び【崩壊】の力を解放すると手に持った蛇を塵へと変えた。その様子を見て兵士たちは動揺していた。


「エス!何をしているの?」

「なに、覗き見している者に挨拶しただけだ。それにあの蛇がいたらここでの会話は筒抜けだっただろうな」


 詰め寄るリーナに、エスは簡単に答えた。そして、王に向き直り告げる。


「レケン殿を裏で操っていた者はまだ健在だ。気を付けた方が良いだろう」

「その忠告、しかと聞き入れよう」

「さて、残す問題は王女に掛けられた呪詛だな。どうしたものか…」

「それなら、一つだけ案があるわ」


 エスの隣りへとリーナが近付き声をかける。


「陛下、アリスリーエル様を救う方法はあります」

「なんだと!?それは…」


 リーナの言葉に、王は立ち上がり声を上げる。


「落ち着いてください、呪詛そのものを消すには呪詛をかけた相手を滅ぼす必要があります。相手がどこにいるかわからない以上、それは難しいですから別の対処方法をお教えしたいと思います。ただ…」


 リーナは周囲の兵士たちを見ると、再び王の方を見て続ける。


「陛下、人払いをお願いします。できれば陛下とアリスリーエル様、あと私たちだけで話が出来ればと」

「ふむ…」


 王は少し考え答える。


「この国を救ってくれた者たちだ、信じよう。聞いたな、全員謁見の間の外へ」


 王の言葉と同時に謁見の間へとヴェインが入ってくる。


「待ってくれ。私も聞かせてもらっても構わないか?」

「リーナよ。ヴェインも同席させてやって良いのではないか?その方が他の兵士たちも安心できるだろう」

「…そうね、あまり知る人が多いのは良くはないのだけど…」


 エスの言葉にリーナもしぶしぶ了承する。少しして、謁見の間には王とアリスリーエル、ヴェインとエスたちだけが残っていた。


「それでは、別の対処方法とやらを教えてくれ」


 王の言葉にリーナが頷いた。



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