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奇術師、暴き立てる

「ほう、リーナはこの蛇を知っているのか?」


 エスの問いかけにリーナは頷く。そして、表情はそのままに謁見の間全体に聞こえるように説明し始めた。


「この蛇は眷属、悪魔の眷属よ。この蛇から感じる気配からして王女に呪詛をかけた悪魔の眷属でしょうね」

「王女には呪詛がかかっていたのか。何か黒い靄がかかっているのはわかっていたのだが。いやぁ、リーナを王女の元へ送って正解だったな!それに王女の知識も素晴らしい。予想以上に話がスムーズに進む。フハハハハ」

「呪詛だと!?」


 笑うエスを見てため息をついたリーナは、驚く王の方を向きさらに説明を続けた。


「王様、今は王女にかかっている呪詛を一時的に抑えてあります。ですが、呪詛をかけた悪魔を見つけ出し滅ぼさなければ王女は解放されません」

「…そうか」


 王は黙って何かを考えていた。目の前に現れた女性が語る言葉、信じるに値するかどうかを見極めていた。だが、実際に王女は襲われず目の前にいる。結論としては成り行きを見守ることしかできなかった。

 王が考え込んでいることに構わずエスは歩き出した。その先にはレケンがいる。


「さて、レケン殿。あなたの机に悪魔の眷属がいた理由、教えて貰えないかな?」

「えっ!?レケンの机に?でも、それはわたくしにかかっていた呪詛を解くためではないのですか?」

「そ、その通りです。呪詛を解くため、その蛇を調べていたのです」


 レケンはアリスリーエルに答えた。しかし、エスは落ち着いた様子でアリスリーエルに問いかける。


「ところで、蛇の話をしたのは尖塔に籠る前かね?」

「いいえ、違います。尖塔で世話をしてくれているメイドに話しただけです。周りの男性は話を聞いてくれるような状態ではなかったので…」

「では何故、蛇をレケン殿が持っているのだろうな?」

「あっ!」


 違和感に気付きアリスリーエルは小さく声を上げた。エスはレケンの方を向き、話を続ける。


「王女の境遇からして、当時は相当な騒ぎだったのであろう?その騒動の中、蛇には逃げられたはずだ。だいたい、王女に呪詛がかけられているなど王も驚くほどのこと、誰が知っていたのだ?レケン殿、その辺りの説明をお願いしたいな」

「儂もその経緯を知りたい。話せ、レケン」


 王も問う。笑みを浮かべレケンへと歩み寄るエスを忌々しく睨みつけるレケンは一言呟く。


「クソッ!何もかも台無しだ。もういい、出てこい。ここにいる奴らを皆殺しにしろ!」


 その呟きと共にレケンの影から大男の頭が現れる。


「おおっと、足が滑った!」


 すでにレケンの目の前にいたエスはレケンを壁まで蹴り飛ばす。それに伴いレケンの影が壁へと移動する。影に現れていた大男の頭も影と共に壁へと移動していた。そこへレケンは背中を打ち付ける。崩れ落ちたレケンは、背中を打ち一時的に呼吸困難になっていた。影から出ていた頭もレケンが衝突したことで再び影の中へと戻ってしまった。


「フハハハハ、そう焦るな。もっとこの状況を楽しもうとは思わんのか?それとも、もう諦めてしまったのかな?大体、詰めが甘い。例えばだ、部下に女性の鑑定士なんかを用意して王女を鑑定でもさせておけばいくらでも言い訳できただろうに。王が知らなかった時点で、そこまで考えてはいなかったのだろう?それとも、蛇の主人である悪魔を相当信用していたのかな?」

「き、貴様のせいで長々と準備してきたのに台無しだ!殺してやる!」

「甘い、実に考えが甘い。角砂糖に練乳をかける程に甘い。準備と対策はし過ぎるくらいが丁度よいのだよ。私ももう少し時間があれば、レケン殿が勝手に自滅するように仕込めたのだがな。だいたい、ここへ連れてきたのはレケン殿、あなたではなかったかな?」


 突然の騒動に他の貴族たちは我先にと入口の扉へと走る。扉の前に立っていた兵士が扉を開こうとするが扉は開かなかった。開かない扉を前に罵声を上げる貴族たち、それを見て笑みを深めるレケンは再び叫んだ。


「早く出てこい、皆殺しだ!」


 その声に応じるようにレケンの背後から見覚えのある大男が四人現れた。全員がみすぼらしいローブを羽織り、フードを目深に被っていて顔は見えない。その手には大きな鉈のようなものを持っている。


「おや、大男君は四つ子だったのか?」

「エス!そいつら眷属よ。蛇とは別の悪魔の」

「ほほう」


 リーナの言葉を聞き、エスは大男たちに手加減は不要と判断した。

 エスは徐に右の掌を一番手前、一人の大男へと向ける。すると人の上半身くらいある火球が撃ち出された。火球が大男に向け飛ぶ中、風切り音と共に何かが火球を追いかけるように飛ぶ。リーナが火球を追っていた視線をエスへと戻すと、何かを投げた恰好のエスがいた。風切り音を上げる何かは火球をすり抜け大男の頭部へと突き刺さる。当の大男は声を上げることなく背後へと倒れた。火球はそのままレケンを掠め壁へと激突し霧散した。突然の出来事に周囲の者たちだけでなく他の大男たちも動きを止めていた。


「な、なんだ!?魔法、か?結界内だぞ…」


 エスはへたり込み驚愕の表情を見せるレケンを見る。


「フハハハハ、驚いたかね?いい表情だ。熱くはなかっただろう?今のは魔法ではなく奇術、ただし…」


 エスは倒れた大男を指差す。そこには額を剣で貫かれ倒れる大男がいた。フードがめくれ、見えたその顔は蛙のような顔をしていた。


「それは、その辺にいる兵士君から拝借した物だがな」


 エスの言葉を聞き周りの兵士が自分の剣を確認する。一人の兵士が驚きの声を上げるが、誰も気にしている様子はなかった。エスは残る大男を見て頷く。


「そうだ!折角だから私の召喚術もご覧いただこう!」


 エスは指を鳴らす。するとエスの隣にリーナたちを呼び寄せた時同様に布が現れ開くと、中から一人の人物が現れた。その姿は円錐型のナイトキャップを被り、帽子と同じ縞模様の寝間着を着た男だった。男は挙動不審に辺りを見ている。


「パッソ!」


 サルタールの声に振り向くパッソは驚いたような動作をしたあと手を振っていた。


「レケン殿、こちらは私の召喚獣パッソ君だ」


 それを隣で聞いたパッソがエスに対し抗議するようなジェスチャーをしている。


「フハハハハ、パッソよ、もう昼近いのにまだ寝ていたのか?団長が大変な目に合っているというのに暢気なものだな」


 はっと我に返ったパッソがゆっくりとサルタールの方を向くと、いきなり土下座をしていた。

 その最中、レケンは再び眷属を召喚し数を四人に戻していた。剣が突き刺さった眷属の死体はいつの間にか消えている。


「ほほう、再召喚できるのか。便利なものだ。召喚できる最大数は四体といったところのかな。しかし再召喚か、これでは大男を始末しても意味ないというわけだ。どうしたものか」


 顎に手を当て考え込むエスを待つことなく、三人の大男がエスがいる方へと向かう。一人は入口付近に集まる貴族たちに向けて走り出していた。エスはポケットへと手を入れ、素早く手を出すと入口付近へ向かう大男に何かを投げた。大男の後頭部に何かが三本突き刺さり、前のめりに崩れ落ちる。


「君は何処へ行こうというのかね?」

「あれは、角?」


 刺さっている物を見たターニャが呟く。


「あっ!アルミラージの角。そういえば換金してなかったわ」

「何をポケットから取り出してるのよ…」


 何の角なのか気付いたサリア、そしてリーナの呆れ声を聞きながらエスはパッソへと話しかける。


「ほら、私の召喚獣よ。奴らを蹴散らすのだ!」


 エスの勝手な言葉にパッソは首を横に振る。


「やれやれ、使えない召喚獣だ。まあ、どうせ再召喚されてしまうだろうしな。こういう時は…」


 一瞬でエスはレケンの目の前へと移動すると、その勢いのまま蹴り上げる。レケンは天井付近まで浮かび上がった後、床へとたたきつけられた。


「元を断つ!」


 レケンが床へ叩きつけられると同時に、大男たちは黒い煙となって消えてしまった。その様子を見ていた貴族たちはほっとしていた。エスは仲間たちの元へと歩く。しかし、背後から妙な気配を感じ振り返ると、そこには腕があらぬ方向へ曲がり体のあちこちから血を流すレケンが立っていた。


「おお、手加減はしたが予想以上の大怪我だな。しかし、この気配はあの時と同じ。なるほど、人の中に隠れていたのか。器が壊されそうになって焦って出てきたというわけか」


 その気配は以前、賊の隠れ家で感じたものと似た悪魔の気配だった。人の中に隠れることでその気配を隠していたため、エスたちも今まで気がつかなかった。血まみれのレケンから聞いたことのない低い声が発せられる。


『おのれ、この者を唆し国を乗っ取る計画を、よくも邪魔してくれたな』

「おや?自分から聞いてもいない計画を教えてくれるとは親切なやつだ。しかし、悪魔が国を乗っ取ってどうするつもりなのやら。まあ、その辺は興味ないがな。それで計画のために王女に呪詛をかけたということかな?」

『計画を立てたのはこの男だ。我は力を貸しただけだ』


 会話をするエスの隣にリーナ、サルタールが並んだ。


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