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奇術師、呼び寄せる

 エスの足元、床に広がった布を一同が見守る。エスが指を鳴らすと布の下に何かが現れた。


「はい!今回ご紹介するのは、こちら!」


 エスは大きく持ち上がった布を勢いよく取り払う。そこには一つの書斎机があった。書斎机の上には何もないが、何か物が置かれていた形跡はあった。そして、書斎机が現れた瞬間、何かが壊れるような音が謁見の間に響く。


「どこにでもある、至って普通の書斎机です。おや?レケン殿、顔色が悪い。それに手でも怪我されましたかな?」


 右手を押さえ、痛みからか額に汗をかくレケンにエスは声をかけた。レケンの足元には小さな金属の破片がいくつか落ちている。先程響いた音はレケンの指輪が壊れた音だった。


「レケンよ、大丈夫か?」

「ハッ、申し訳ありません陛下。大丈夫です」


 姿勢を正し王へと頭を下げるレケンを見て、エスは話を続ける。


「では続きを。この書斎机、城のとあるところから呼び寄せたのだが見覚えのある方はいるかな?」


 レケンのいる大臣や貴族たちが集まるエリアを見てエスは問いかける。殆どの者が知らないと首を振る中、レケンだけは落ち着きなく書斎机を見ている。王は顛末を見届けるべく、静かに様子を見ていた。


「ふむ、そこの兵士君」


 エスは入口に立つ兵士へと声をかける。


「レケン殿の執務室を見てきてはくれないかな?」

「しかし…」


 声をかけられた兵士はエスと王の顔を交互に見ていた。


「よい、確認してくるのだ」

「ハッ!」


 王の許可を得て兵士は謁見の間を出ていった。エスは書斎机へと近付くと、机に腰掛け王を見た。


「中々柔軟な対応するではないか。国王というのはもっと偉ぶって頭が硬いものだと思っていたぞ」

「正しく状況を見れもせず王が務まるわけがなかろう。何より…」


 言葉を切り、不敵な笑みを浮かべる王。大臣や貴族、兵士たちは息を呑み様子をうかがっていた。


「儂の知らぬ真実を見せてくれるのであろう?」

「フハハハハ、当然だ!」


 続く王の言葉にエスは笑って答えた。今まで黙って様子を見ていたサルタールは不安を感じ声を上げる。


「おい、エス!大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「真実を見せるなんて言って…」

「何を言っている?私が何のために今ここにいると思っているのだ。準備ならとうに済んでいる」


 エスが言い終わると同時に謁見の間の扉が開き、先程出て行った兵士が戻ってきた。


「報告します!レケン様の部屋から書斎机がなくなっておりました」

「ご苦労。レケンよ、どうやらおまえの机で間違いなさそうだな」


 王がレケンを見て声をかけるが、レケンは顔を伏せている。


「さて、続きを聞かせてもらおう」

「もちろん」


 先程の音、レケンの指輪が壊れたのだろう。魔力妨害の影響と考えるべきだな。これなら普通に開くはず…

 エスは立ち上がり書斎机の引き出しに手をかけると、予想通り鍵は機能しておらず簡単に開くことができた。エスは中から一つの籠を取り出した。その籠を見た瞬間、レケンは懐に手を入れ何かを操作する。それは籠に付いているはずの爆弾を起動する道具だった。しかし、爆弾は昨夜エスが爆発させてしまっている。レケンはそれを知らず焦っていた。エスはレケンの様子に気づいたが、悪戯を成功させた子どもの様な笑顔を浮かべ籠を開く。中にいた文字の様な模様をした蛇を掴むと、周りの者に見えるように掲げた。


「さあ、この蛇に見覚えはないかな?特に王、あなただ」

「その蛇は、アリスリーエルの言っていたという…」


 王はエスの持つ蛇をよく見ると、震えるような声で答えた。その声には強い怒りが込められていた。それを感じ、謁見の間にいる者たちは震え上がる。エスとサルタール、そして王の護衛であるヴェインだけは平然としていた。


「ふむ、ところで聞きたいのだが…」


 エスは蛇を顔の前に持ってきて眺めながら続ける。


「こんな模様の蛇はこの辺りで普通に生息しているものなのかね?誰か知っている者はいないのか?」


 エスの問いに答える者はいなかった。ふと、エスはレケンの方を向き一言声をかける。


「先程から何か焦っているようだが、どうした?腹が痛いのであれば我慢せずにトイレに行きたまえ」

「チッ!」


 笑みを浮かべるエスを見て、舌打ちをしたレケンは王の方を向き進言する。


「王よ、このような者が申す事など信用できません。早急に処断すべきです」

「まあ、待て。その蛇には儂も興味がある。エス、と言ったか?貴様が儂に見せると言った真実はその蛇か?」

「もちろん、これだけのはずがなかろう。ではここで、ある人物にもお越しいただこうではないか」


 エスは蛇を左手で持つと右手を高らかと上げ指を鳴らした。

 同時刻、アリスリーエルとリーナ、ターニャとサリアの姉妹がいる尖塔最上階の部屋に指を鳴らす音が響き渡った。宿と同様に床に布が広がり始める。


「あら?エスからの呼び出しのようね」

「またか。いい加減直接くればいいのに」

「エスさんも忙しいのでしょう。アリスリーエル様はどうしますか?」

「わたくしは…」


 自分の足元から現れた布を見ながら、言い淀むアリスリーエルの手をリーナが握る。


「行きましょうアリスリーエル様。エスはあなたを呼んでいるはずよ」

「エス様が?」

「大丈夫だって、襲いかかってくるような男がいても姉さんが蹴散らしてくれる」

「あら?私だけに押し付ける気かしら?ターニャ、あなたも守るのよ」

「はーい」


 サリアの言葉に素直に返事をするターニャ、その様子を見てアリスリーエルは僅かに微笑む。


「それじゃ行きましょうか」


 床に広がった布が四人を包み込んでいった。

 謁見の間では、エスと王の間に捻じれた布が床から生えるように現れていた。それはゆっくりと蕾のように膨らむと上部から開いていく。中からは四人の女性が現れた。


「お父様!」

「アリスリーエルか!?」


 娘の登場に驚いた王だったが、すぐさま周囲を見る。男たちがアリスリーエルに襲いかかる様子は見られなかった。そして周りの者たちもアリスリーエルの登場に驚いていた。


「ほほう、襲いかかってきたところを返り討ちにした後、リーナに対策を聞こうかと思っていたが先に対策したのだな」

「ええ、ただあくまで応急処置のようなものよ。それよりも、その計画は雑すぎない?」

「なに、リーナを信用していたのだよ」

「都合のいいことを…」


 近づきながら話しかけてきたエスにリーナは答えた。その言葉から状況を把握しエスは見つめ合う親子に話しかける。


「王よ、王女は一時的に襲われなくなっているとのことだ。そして王女、早々で悪いがこの蛇に見覚えはあるかな?」


 エスは手に持つ蛇をアリスリーエルに見せた。それを見て手で口を抑え驚くアリルリーエルだったが、気を取り直し答える。


「この蛇は、あの時の蛇で間違いないと思います。様々な書物を読んで調べましたが、この模様の蛇は見つけられませんでした」


 横から覗き込むようにリーナもその蛇を見る。そして険しい表情になるとエスへと詰め寄った。


「エス、この蛇をどこで見つけたの!?」


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