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奇術師、捕まる

 無数のエスが大男へと飛びかかる。それを大男が鉈で迎え撃つ。振るう鉈が一人を斬ると煙となって消えてしまう。その隙をつき他のエスに殴られていた。そんなことを繰り返している様子を、呆気にとられた表情で眺めるサルタールと偽兵士。そこへ、何者かが背後から近付いていた。


「何を呆けているのだサルタール」

「うわぁ!」


 突然背後から声を掛けられサルタールは驚く。その声に偽兵士も驚いていた。


「フハハハハ、驚いたか?」

「エス!え?じゃあ、あっちで戦ってるのは?」

「私の新作イリュージョン、楽しんでもらえているかな?」

「イリュージョン?これが奇術だと言うのか?」


 大男と無数のエスが戦っている場所を指差しサルタールは声を上げる。


「その通り!【奇術師】と幻惑魔法の合わせ技だ。まあ、タネは幻惑魔法と言ったところか。幻影なのに殴ることができているのは企業秘密だ。分身の術をモチーフにしてみたが、意外と相手を揶揄うにはいい手だな。見たまえ、あの必死な姿を。ハッハッハッ」


 笑うエス、その声に気付いたのか大男は狙いをサルタールの横にいるエスへと定める。エスはサルタールの方を見ていて大男の動きに気付いていない。目にも止まらぬ速さでエスの側へと迫った大男は躊躇うことなく鉈をエスへと振り下ろした。


「エス!」


 サルタールが声を上げるが、鉈はエスへと直撃し地面にまで到達する。


『油断したな。これが本体だろう?仕留めたぞ』


 地面を砕き土煙が上がる中、大男は勝ち誇っていた。偽兵士は地面へとへたり込み、次は自分だと思い必死に這いずりながら大男から距離を取ろうとしていた。ただ一人、サルタールだけは他の幻影が消えないことに違和感を感じ様子を窺っている。


「「「何を仕留めたのかね?羽虫かな?羽虫は鬱陶しいからな。存分に叩き潰すといい」」」

『何!?』


 たった今叩き潰したはずのエスの声が背後から聞こえ大男は振り返る。そこには、未だ複数人のエスが立っており、その全てが大男へと同時に話しかけていた。


『どういうことだ?これが本体ではなかったのか?』

「「「何故、それが本体だと思ったのかな?」」」

『忌々しいやつだ。チッ、時間切れか』


 舌打ちをした大男は城へと続く道を見る。その視線を追ってサルタールが視線を向けると、遠目に複数の兵士らしき人影がこちらに向かい走ってきているのが見えた。それを確認すると大男は素早く路地裏へと走り去っていった。

 大男の姿が見えなくなると、広場に指を鳴らす音が響き渡る。その音と同時に、広場にいた複数のエスは煙になって掻き消え、消えた場所には鈍い音と共に石が落ちた。サルタールは指を鳴らす音のした方へと視線を向けると、そこには屋根の上に立つエスの姿があった。エスは始めから屋根の上で一部始終を見ていたのだ。つまり、広場にいたのは全て幻影ということになる。それを悟ったサルタールは肩を落とす。


「ハッ、ハハッ、俺まで騙されてたのかよ…」


 エスは屋根の上からサルタールの元へと飛び降りる。


「サルタール君、待ったぁ?」

「おまえなぁ…、来るならもう少し早く来いよ」

「いやぁ、美しい女性との交流で忙しかったのだよ。ま、レケンを追い詰めるネタなら仕入れてきたから許してくれ」

「それよりも先に俺たちが捕まりそうだけどな」

「ふむ、私が引っかかった魔力を検知するセキュリティのせいで警戒していた兵士たちかな?」

「おまえ…」


 少しして、エスたちは武器を構えた兵士たちに取り囲まれた。兵士長と思しき人物が一歩前に出る。


「貴様たち、ここで何をしている」

「暴漢に襲われていたこの男を助けていただけだ。犯人の大男はそちらの路地裏へ逃げていったぞ」


 偽兵士を指差しエスが答えていると、兵士たちの背後に馬に跨った兵士が走ってくる。馬から降りた兵士は兵士長へと何かを囁いていた。


「貴様らがレケン様の使いを襲っていたと証言があった。レケン様より全員を連行しろとの命だ。おとなしくしてもらおう」

「まぁたレケンか…」


 ため息をつきながら、エスは考える。

 大男がレケンに報告したか。それでレケンがこちらを捕えるべく動いたのだろう。この短時間でそこまで考えて動いたのかあの大男、頭の中まで筋肉というわけではなかったようだな。

 じりじりと距離を詰めてくる兵士たちへエスは両手を上げ降伏の態度をとった。


「逃げはしないから連れていきたまえ」

「なっ!?」


 驚いたのはサルタールだった。


「おい、どう考えても罠だろこれは!」

「だからこそだ。もう面倒だから終わらせに行こうではないか。いざとなったら城を破壊して逃げればいい」

「そんなこと…」

「私たちに関わったら損だと思わせるだけでいいのだよ。まあ、レケンにはそれなりの報復をさせてもらうがな」


 笑いながらエスは兵士たちへと両腕を差し出す。兵士は戸惑いつつもエスの手をロープで縛った。

 こんなものは無駄なのだがな…

 エスがそんなことを思ってるとは知らず、兵士はロープを引きエスを連行する。サルタールと偽兵士も同様に捕縛され、三人は城の牢へと連れて行かれた。

 翌朝、エスとサルタールが捕まったと聞きサリア、ターニャの姉妹とリーナが牢の前にまで来ていた。関係者として面会だけは許されたのだ。


「何をしているの、あなたたちは…」

「面目ない…」

「ハッハッハッ、そうサルタールを虐めるな。牢で一晩というのも中々貴重な体験だ」


 リーナの言葉に項垂れるサルタール。しかし、エスは気にも留めず牢の中を楽しんでいた。


「エスならこんなとこすぐに出られるだろ…」

「エスさんはこの状況を楽しんでるだけのようね」

「ああ、貴重な体験で楽しいぞ。しかしもう飽きたな」


 姉妹の言葉にエスは答えた。そこへ見張りである兵士が現れた。


「貴様たちの処分は陛下より言い渡される。レケン様の関係者に手を上げたのだ極刑も覚悟するがいい。面会に来た者たちも帰りたまえ」


 そう言って兵士はエスとサルタール、そして偽兵士を牢から連れ出す。兵士に連れられ三人は面会に来たリーナたちの横を通った。


「リーナよ、準備をしておけ」


 兵士に聞こえないように呟いたエスの言葉をリーナははっきりと聞き取っていた。三人が連れて行かれた牢の前でリーナたちは立ちつくす。


「どうするんだ?助けようにも…」

「まあ、エスさんならどうにかしそうではあるけど…」

「エスが準備をしろと言っていたわ。私たちも武装だけでも整えておきましょう。エスは何か考えがあるみたいよ」


 リーナの言葉に姉妹は頷く。三人は宿へと急いで戻った。

 エスたち三人は兵士に連れられ、城内の掃除などをしているメイドから警戒されるような蔑むような目で見られつつ歩いていた。


「ハッハッハッ、まさか縛られて城の中を歩くことになるとは思わなかったぞ」

「はあ、どうしてこうなった…」

「貴様ら、うるさいぞ!黙って歩け」


 縛られていることすら気にも留めず普通に話すエスと、それに答えるサルタール。その様子に苛立った兵士が声を荒げていた。

 しばらく歩くと、大きな扉の前へと辿り着く。扉を守っていると思われる兵士へと三人を連れた兵士が何かを話している。その声はエスたちには聞こえなかった。話が終わると、扉を守る兵士はゆっくりと扉を開いた。中にはいかにもといった造りの謁見の間が広がっている。奥に見える玉座には誰も座っていない。


「おお、まさに謁見の間、王がいる場所だな。こんなところは初めて見た。いやあ、ファンタジーというほどのものではないが実に興味深い。おや?王はまだ来てはいないのか?」

「おまえ、余裕だな…」


 目の前の光景を見て感想を漏らすエスに、サルタールは呆れていた。三人は兵士に引かれ謁見の間の中央付近まで連れて行かれた。周囲には豪華な装備をした兵士たちが並んでいる。中央付近に三人を立たせると兵士は一礼し部屋を出ていった。兵士が頭を下げた先には、この国の重役と思われる人物たちが集まっていた。そこにはもちろんレケンの姿もある。勝ち誇ったような笑みを浮かべるレケンを見てサルタールは悔しそうにしていた。


「おお、いい笑顔をしているな、レケンのやつは。ま、もう少し優越感に浸らせておいてやろう」

「なに?まさか、おまえこの状況になるようにわざと捕まったのか?」

「まさか、たまたまだよ。しかし、予想した結果の一つではあったがな」


 そう言って笑うエスだったが、突如謁見の間は緊張に包まれた。


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