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奇術師、潜入する

 テーブルの上には四つの箱。それぞれ小窓が開いている。箱の正面には腕を組み椅子に座ったエスがいる。エスの背後には、兵士、襲撃者たちの体が入った箱が立っていた。


「さて、君たちに聞きたいことがある。まあ、素直に話すとは思えないので…」


 そう言ってエスは、近くにいたパッソを手招きで呼び寄せる。そして、どこからか取り出したショートソードを三本、パッソに投げた。ショートソードは襲撃者が使っていた物だ。パッソはそれで器用にジャグリングを始めると、失敗しショートソードはあちこちに散っていく。その一本がテーブル上の箱の一つ、その手前へと突き刺さった。


「ヒィィィィィ!」


 声を上げたのは目の前にショートソードが突き刺さった襲撃者の一人だ。


「素直に話さないと、今度はおまえたちの体に剣が刺さってしまうかもしれないぞ」


 エスはクックックッと笑いながらテーブルに刺さったショートソードをパッソへと投げる。再びパッソはショートソードでジャグリングを始めた。テーブル上の箱の中では兵士と襲撃者たちがコクコクと首を縦に振っていた。


「では、襲撃者諸君。単刀直入に聞くが、おまえたちに依頼したのはこの国の大臣であるレケンとやらかな?」

「いや、依頼主の素性は知らない。依頼を持ってきたのはフードを目深に被って人相は見えなかったがガタイのいい大男だ」

「男?人相が見えなかったのにか?」

「声が完全に男だった。それにここ最近、城からの密命はそいつが持ってきていた」

「ほほう、おまえたちは城のお抱え暗殺者といったところか?」

「まあ、汚れ仕事を請け負ってるのは確かだ。そういうわけで、詳しい依頼主はわからない」

「ふむ、嘘はついてなさそうだな。まあ、聞き出せるとは思わなかったからまあいい。依頼内容はこの兵士君の処分ということで間違いないか?」

「いや、言われたのは城から出てくる二人組の男が持つ箱の破壊だった。中身が人の首だったなんて聞いてない」

「そうか。ところで兵士君」


 エスが兵士の方へと視線を向けると、兵士は顔を引き攣らせた。


「そんなに怯えなくてもいい。何も殺そうというわけではないからな。サーカス団から受け取った金は全額レケンに渡していたのか?」

「ああ、いや、途中から少しだけくすねてた…」

「ふむ、正直でよろしい。つまり、金額が増えていたことはレケンは知っていた、レケンが嘘をついているというわけか」


 エスは考える。

 この状況では兵士は本当のことを言っていると考える方が自然だな。レケンがこいつを切り捨てて、襲撃者たちに始末させようと画策したというのが真実だろう。だが、こいつらに依頼を渡した大男といい、依頼のタイミングといい、レケン以外の可能性も捨てきれないな。何かいい案は…

 そこでエスは何かを閃いたとばかりに笑みを浮かべた。立ち上がったエスは、首が入った箱をそれぞれの体の入った箱の上へと乗せ指を鳴らした。ポンッという音と共に煙を上げ兵士と襲撃者たちは箱から解放される。四人は自分の体の無事を確かめていた。


「やる事ができた。さあ、諸君は帰っていいぞ。そのかわり兵士君には手出し無用だ。なんなら襲撃者君たちは依頼者に失敗報告をしていい」

「なっ!?」


 声を上げたのはサルタールだった。


「それじゃ俺たちにバレたことが伝わるんじゃないか?」

「構わん。それで動いてくれれば尻尾を掴みやすい。命を狙われている兵士君には悪いがな。ハハハハハ」


 エスの言葉を聞き、兵士は顔を蒼くする。これについては兵士の自業自得だとエスは考えていた。


「さて、君たちは帰りたまえ。夜道に気をつけてな」


 そう言ってエスはさっさと帰れと兵士と襲撃者たちに手を振る。四人もこれ以上ここに居たくはないためか、すんなり部屋から出ると、部屋の前にいたサーカス団の団員に案内され外へと向かった。

 部屋に残った者たちはエスを囲むように立っていた。


「どうするつもりなんだエス?」

「エスさん、何か思いついていたようだけど…」

「どうせろくでもないことでしょう?」


 姉妹とリーナに続きサルタールがエスへと問いかける。


「どうするつもりだ?あんまり城の関係者とのいざこざは勘弁だぞ」


 パッソは皆の後であたふたとしていた。


「大した事ではないさ。まあ、三人は先に宿へ帰っていたまえ」


 そう言ってエスは姉妹とリーナを見る。三人もやれやれといった表情で頷いた。


「おまえら、止めなくていいのか?」


 三人の反応に驚いたサルタールは思わず声を上げた。


「どうせ無駄だし…」

「エスさんが忠告を聞いたことなんてあったかしら?」

「ないわよ。あったら聖騎士を揶揄ったりなんてしないでしょ。それに監視しててもしてなくても、いなくなるようなのをどうやって止めるのよ」


 三人の言葉を聞き、サルタールもため息をつくとエスへと視線を移す。


「なら、あの偽兵士は俺が監視しとく。生かしておくとは思えないしな。ところで…」

「なんだ?」

「なんでそんな首を突っ込むんだよ…」

「面白そうだからだ。では、また後でな」


 そういってエスは一人部屋を出て外へと向かった。夜道を歩くエス、辿り着いたのは街の広場だった。


「ここまで得られた情報は想定範囲内の内容だけ、やはり直接乗り込むのが手っ取り早いだろうな」


 その視線の先には城があった。エスは途中で尋問するのが面倒になり直接乗り込んで調べてみようと考え行動に移していた。


「さてさて、何がでるかな?」


 城へ向かいエスは歩く。城へと続く道は夜も遅いため人はいなかった。城の門には門番が二人、サルタールと訪れた時に居た者たちではなかった。


「ふむ、交代したのか?ここからはスニーキングミッションだな。フハハハハ、心が躍る」


 エスは門番に見つからないよう城壁沿いに横へと回る。しばらく進んだところで上を見上げた。


「元の世界の城壁と同じような造りだったから、上は見張りがいる可能性が大いにある。見張り塔もあるから簡単にはいかなそうだ。壁を抜けたところで兵士とばったり遭遇、なんてこともあり得るか。どうしたものか…」


 とりあえずと、エスは幻惑魔法を使い姿を消す。しかし、次の瞬間城壁の上が慌ただしくなる。エスが不思議に思い上を見上げていると、城門の方からも数名の兵士がこちらに向かってきていた。


「おや?バレたかな?ひとまず隠れるとしよう」


 姿を消してはいるが城壁近くの家、貴族の家と思われる大きめの建物の物影へと隠れ様子を窺う。集まってきた兵士たちが何か話している様だったので、耳を澄まし兵士たちの話を盗み聞く。


「魔力の反応があったのはこの辺りだな?」

「誰もいないな」

「微弱な反応だったからな。最悪手練れの可能性もあるが、恐らくは周囲の魔道具か何かに反応したのかもしれない」

「全員、周囲を警戒。僅かでも何かしらの痕跡があったら報告しろ!」

「「「ハッ!」」」


 隊長と思しき人物の言葉に他の兵士たちが答える。

 ふむ、どうやら魔法を使った時の魔力を検知されたということか。面白い、前世では考えられないセキュリティだな。ん?【奇術師】の能力はどうなんだ?

 エスは魔法を解除し姿を現すと、兵士たちが居なくなるのを待ち城壁へと再び近付いた。


「では試してみようか」


 エスは徐に足を城壁へとつける。そして、そこが地面であるかのように城壁を歩き、登り始めた。


「ふむ、【奇術師】は使って大丈夫そうだな。さあ、とりあえず城壁の上まで行ってみよう」


 エスはそのまま歩き城壁の上を目指す。のんびりと城壁を歩き見張りが行き交う城壁上へと辿り着く。エスは姿勢を低くし、まるで崖を覗き込むように壁から城壁上の通路を覗いた。


「よし、誰もいないようだな。誰か来る前にさっさと入ってしまおう」


 城壁上の通路に立ち、城との間にある庭を覗き見る。すると数人の兵士が歩いているのが見えた。


「下は無理だな。なら次は…」


 今度は今いる場所から空中へと足を踏み出した。

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