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奇術師、襲撃される

 エスは持っていた箱をサルタールに押し付け壺の側まで歩いていく。それを見たレケンは声を上げた。


「おい、その辺の物に触れるなよ。価値のあるものばかりなのだからな。まあ、見るだけなら構わん」

「ああ、気を付ける」


 軽く答えたエスは気になった壺を観察する。

 やはり以前見た悪魔の入った壺とよく似た文様だな。しかし、悪魔の気配はない。似ているだけか?

 壺の観察を終えたエスがサルタールの側へと戻ると、丁度レケンとの話も終わったようだった。


「帰るぞエス」

「ああ」

「では大臣殿、明日以降は俺が直接持ってくる。使いを出さずに待っていてくれ」

「承知した」


 エスはサルタールから箱を受け取り、二人は執務室を出る。待っていた門番と共に門まで戻るとそのまま城をあとにした。しばらく歩き、周りに人気が無いことを確認しエスがサルタールへと話しかける。


「サルタール、王都で悪魔騒ぎがあった、もしくは噂話は聞いたことないか?」

「ん?そうだな、俺がここに来てからは特にそんな噂も聞いたことないな。強いて言うなら王女様が病気になったのは悪魔のせいだって噂があったくらいだ。そういえば、その噂を聞いて聖騎士が来たな」

「ほう、面白そうな話だな。私からも一つわかったことを教えてやろう」

「なんだ?」

「少し前、盗賊の隠れ家で見た悪魔が入った壺、それと似た文様の描かれた壺が大臣の部屋にあったぞ」

「なんだって!」

「まあ、似ているだけかもしれないがな。それよりも…」

「ああ、つけられていたみたいだな…」


 二人はすでにサーカス団のテント付近、使われなくなった農地を歩いていた。すでに夜遅く辺りに人気は無い。住民たちが住む場所からも遠い。そんな場所で二人は自分たちを囲む気配を感じていた。


「やれやれ、このタイミングで襲ってきては大臣が黒だと言っているのと同じだろうに」

「確実に俺たちを殺す気なんだろな」

「観客がいないからいまいちテンションが上がらないが、まあ派手にやってやろうではないか!」

「え!?」


 エスの言葉にサルタールは驚く。エスはというと、どうやって派手にするかを考えるので忙しいようだった。二人をつけていた気配は前方へと回り込む。暗闇から姿を現したのは、目深にフードを被り布で口元を隠した、いかにも暗殺者といった風貌の三人組だった。襲撃者の一人がエスへと走り出す。その手にはショートソードが握られていた。よく見ると、他の二人もショートソードを持っている。突き出されたショートソードをエスは徐に脇に抱えていた箱で受け止める。ショートソードは箱を貫通し、エスの目の前まで剣先が迫っていた。


「いやぁ、危ない危ない。箱が無ければ即死だった」

「おい、エス!中のやつが死んだんじゃないのか!?」


 焦るサルタール、ショートソードを突き立てた襲撃者は素早く箱から剣を抜き後方の仲間の元へと飛び退いた。


「これで依頼は完了か…」


 襲撃者の呟きに答えるかのようにエスは箱の小窓を開く。全員に見えるように小窓を向けると兵士の死んだような表情が露わとなり、少し後その叫び声が響き渡る。


「おおい!なんだよ今の音は。やめろ!出してくれ!」

「はい、残念!なんと兵士君は無事でした!いやぁ、兵士君も最高のリアクションだ」


 片手に箱を乗せたまま、両腕を高々とあげたエス。服装から表情はわからないが、襲撃者たちも驚いている様子だった。腕を降ろしたエスは箱をポンポンと手の上で跳ねさせながら襲撃者たちを眺めていた。


「や、やめ、回さないで…」


 箱の中から悲痛な叫びが聞こえてくる。


「おっと、中に人が入っていたのだった。いやぁ忘れていたよ」


 悪びれもせず笑いながらその叫びに答えるエスは、箱を脇に抱え直す。中の兵士は今にも吐きそうな顔をしていた。


「何故だ?確かに箱を貫いたはずだ…」

「ん?ただの奇術だ。箱に剣を刺して中身が無事なんて奇術ではよくあることではないか?」

「いや、エス。この世界での奇術はそこまで有名じゃねぇよ」

「おや、そうなのか?これは是非とも世界に広めなければならないな。この素晴らしいエンターテイメントを!」


 楽し気なエスの様子に襲撃者たちは危機感を覚え、小声で相談を始めた。


「リーダー、ここは退こう。こいつは俺たちの手に負えない」

「依頼主には金を返せばいいだろ」

「そうだな…」


 襲撃者たちがエスを警戒しつつ一歩後ろに下がる。


「おや、どこへ行こうというのかね?まだまだ、ショーはこれからだよ」


 エスはそう言うと指を鳴らす。すると、襲撃者たちの背後に人数と同じ数の箱が地面から生えるように現れた。兵士を閉じ込めた箱と同じものだ。背後の音に驚き振り返る襲撃者たち、その隙を見逃さずエスは一瞬で間合いを詰めた。


「それではお楽しみいただこう」


 自分のすぐ後ろで聞こえた声に驚いた襲撃者たちは、声のする方へと向こうとする。しかし次の瞬間、順に突き飛ばされ三人は箱の中に放り込まれた。それと同時に箱の蓋は閉まり、エスがかんぬきをかける。


「フハハハ、三名様ご案内!」


 新しい三つの箱からはうめき声の様なものが聞こえている。エスは三つの箱の小窓を開け、中にいる襲撃者たちの顔が見えるようにした。


「兵士君、見たまえ。お仲間が増えたぞ」


 そう言ってエスは箱の中の兵士にも見えるようにする。


「さてさて、事情を聞き出すとしても体は要らないな。ここに置いていくか?」

「まてまて、こんなとこに放置するな。テントから運ぶための人手を連れてくるから待ってろよ」

「それならば、こいつらは運びやすいように分割しておこう」


 サルタールはサーカス団のテントへと走った。エスは持っていた箱を地面に置くと、襲撃者たちを閉じ込めた箱を切断するための板を取り出し差し込み始める。差し込み終わりしばらく待つと、テントから歩いてくる者たちが見えた。


「エス、連れてきたぞ」


 サルタールの背後にはよく知る人物たちの姿があった。


「相変わらず滅茶苦茶なやつだ」

「あら?今日は平和なほうじゃないかしら?爆発もしてないわよ?」


 そう言いながら現れたのはターニャとサリアの姉妹、その横にはリーナが立っていた。


「あんまり派手にやってると、面倒なやつに目をつけられるわよ」

「それは無理な相談だな。ハハハハハ」


 リーナの小言を笑って流すエス、そのリーナの横では腕を組みウンウンと頷くパッソの姿があった。


「パッソは、運ぶのか?大丈夫か?」

「運ぶだけなら、大丈夫だろ…」


 エスの心配する言葉にサルタールが答えた。運ぶだけならとエスも納得する。


「そうだ!パッソよ、ジャグリングは得意かな?」


 言葉と同時に、エスは足元の箱をパッソへと投げる。続けざまに襲撃者たちの頭がある箱も次々投げると、パッソは四つの箱を使い器用にトスジャグリングを始めた。時々失敗をし地面へと落とすが、拾い上げ再びトスジャグリングをしながらテントへと歩いていった。


「さて、我々も運ぼうか。早くしないとパッソの持っていった箱の中が大変なことになるぞ」

「あ、ああそうだな。箱のやつらが吐く前に帰ろう」


 エスの言葉の意味を察したサルタールが箱を二つ持ち上げる。


「はあ、もう少しやりようがあるだろ」


 呆れた声を出すターニャの肩をサリアが叩く。


「わかっていたことでしょ?」

「まぁ、文句は戻ってからにしましょうか」


 サリアの言葉にリーナも続く。全員で残りの箱を手にテントへと向かって歩き始めた。


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