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奇術師、分割する

 エスは背後から薄い二枚一組になった薄い金属板を3つ取りだす。金属板の端には木製の持ち手もついていた。その板を兵士を閉じ込めた箱へと差し込んでいく。金属板は中に鎧を着た人間が入っていることを感じさせることなく差し込まれていった。首、腰、膝と1組ずつ差し込み終わり、エスは一番上の箱を持ち上げた。板が差し込まれたところから別れエスの手元には首から上が入っていると思われる箱があった。


「さて、成功しているかな?」


 エスが呟き、箱の前面に付いた小窓を開けると兵士の首と目が合う。


「ここから出しやがれ!ってなんだ?体が動かねぇぞ!」

「うむ、成功だな。ほら、おまえの体はあそこにあるぞ」


 そう言ってエスは他の箱にもある小窓を開け、首だけの兵士に自分の体を見せてやる。


「う、うわぁぁぁぁぁ!」

「やかましい、自分が生きていることくらいわかるだろうに」

「これは?」


 サルタールが兵士の首の入った箱と体の入った箱を交互に眺めながらエスへと問いかける。エスは笑いながらその様子を眺めていた。


「奇術の一つ、人体切断だ。箱に入れて切り分けるというよくある手法なのだがな」


 実際はこんな魔法じみたものではないが、流石は異世界、そして【奇術師】の力と言ったところか。アシスタントでもいればもう少し面白いことができそうだな。

 自分の能力に感心していたエス。しかし、サルタールはやや驚いた表情でエスを見ていた。


「いや、俺は見たことねぇよ。それでそいつは無事なのか?」

「死んでしまったら奇術にならないだろう。大丈夫だ、驚きすぎて固まっているようだけだろう、多分。おおい、ショック死でもしたか?」


 そう言いながら笑うエスは箱の中の頭を平手で叩く。金属を叩く音が響き、兵士は怯えた声で答えた。


「お、俺はどうなったんだ?死んだのか?」

「馬鹿を言うな、おまえは生きている。おまえを殺したところで得はないし面倒しかないからな。さてサルタール、これを連れて大臣とやらに会いに行こうではないか」

「なに?」

「この状態ならこいつを楽に連れて行けるからな。大臣に直接聞いてみようではないか」


 片手で兵士の首の入った箱を持つエスはそう言って笑っている。


「ハハハ、わかった行くとしようか。悪いな、そういうことだから客人たちとパッソには少し待っててくれと伝えておいてくれ」

「ああそうだ、この兵士君の体も丁重に扱ってやってくれたまえ」

「くれぐれもパッソに任せるなよ。何しでかすかわからんからな」


 サルタールは革袋を持ってきた人物に告げる。エスも箱に入った兵士の体を任せ、二人は城を目指し歩き出す。サルタールは貨幣の入った革袋を持ち、エスの脇には兵士の首が入った箱が抱えられていた。箱の中からは僅かにうめき声の様なものが聞こえている。

 エスとサルタールは円形の広場を歩いていた。サーカス団のテントへ向かうときにエスたちが通った広場だ。広場から遠目に見える城へと二人は向かう。すでに時間は夜、道を歩く人は昼間に比べ少なくなってはいるが、未だに歩く人たちを大勢見かける。


「流石は王都、もう夜だというのにまだ賑わっているな」

「そうだな。さて、城まではもう少しだ早く行くぞ」


 しばらく歩き、二人は城の門へと辿り着く。門には二人の兵士が立っている。その兵士へとサルタールが声をかけた。


「サーカス団、団長のサルタールだ。今日分の金を持ってきた」

「今日は直接持ってきたのだな。わかった、少し待っていろ」


 そう言って一人の兵士が城の中へと歩いていく。


「さっきも言われていたが、サルタールは団長だったのだな」

「ああ、俺が感情を集めるために立ち上げた。今では楽しくてやってるがな」

「ふむ、楽しいのはいいことだ。私ももっと派手にやりたいものだ」

「やめとけよ…」


 大事にしかならないと感じサルタールはエスを止める。エスはふと思いついたように残った一人の門番へと話しかけた。


「ちょっと聞きたいのだが…」

「なんだ?」

「この者を知っているか?大臣の使いだと言っていたのだが」


 そう言って脇に抱えた箱の小窓を開け中を見せる。


「おっと、このままじゃ顔が見えなかったな」


 エスは箱に手を入れ、兜の面甲を上げると青褪めた顔が露わになった。それを見て門番は驚いたが、箱の中の首が言葉を発しさらに驚愕する。


「た、助けてくれ。なあ、俺の顔覚えているよな」

「あ、ああ、ここ数日サーカス団が収める金を持ってきていたやつだな。何故こんな事になっている?こいつはおまえたちが雇った使いじゃないのか?というより生きているのか?」

「「ほほう?」」


 門番の言葉を聞き二人は同時に声を上げる。エスとサルタールは箱を覗き込んだ。二人の視線に箱の中の兵士は顔をさらに青褪めさせる。


「なるほど、大臣の使いだと俺たちに言って金を受け取りそれを自分で運んでいたと。そういえば金額が増えてからだな貴様が来たのは…」


 サルタールは箱の中の首へと怒りを向ける。その怒気に当てられたのか門番は黙ったままだった。


「まあまあ、サルタール。こいつの体は我々が預かっているのだ。後でたっぷり遊んでやろうではないか。それに、大臣とやらにも事情を聞いてみないとな」


 クックックッと楽し気に笑うエスを見てサルタールは肩の力を抜く。


「まあ、そうだな。こいつの処分は後だ。とりあえずは金を渡そう」


 そんなやり取りをしていると、先程城の中に向かった門番が戻ってきた。


「レケン様が直接受け取るとのこと。執務室へ案内するからついてこい」

「わかった。行くぞ、エス」

「さて、何かわかるかな?」


 案内する門番の後をエスとサルタールは歩く。初めての城に辺りを見回すエス、それをサルタールが窘める。


「エス、あんまりキョロキョロするな。不審がられてるぞ」

「おや?それは悪かった。いやぁ、城なんて初めて入ったのでな。思わずあちこち見てしまう」


 警備をしていると思しき兵士とすれ違う度に、エスは不審者を見るような目で見られていた。当の本人であるエスは、それを気に留めることもなくあちらこちらを見ていた。案内がいるため呼び止められることもなく、目的の執務室前へと到着する。案内していた門番は執務室の扉をノックした。


「レケン様、サーカス団の団長をお連れしました」

「入れ」


 中から声が聞こえ門番が扉を開ける。サルタール、エスの順で中へと入ると、扉の外で門番は一礼し扉をゆっくり閉めた。中に入ったのはエスとサルタールの二人だけだった。奥の書斎机で何か書類を見ている初老の男性が座っていた。

 ふむ、見た目で人を判断するのは良くないとは思うが…。いかにも悪さしてそうな顔をしているな。

 エスがそんなことを考えていると、レケンは手に持った書類を机に置き立ち上がると、こちらへ歩いてきた。


「今日は直接持ってきたのだな。最近、金を運ばせていた者はどうしたのだ?」

「それなんですがね、エス」


 サルタールの言葉から言いたいことを察したエスは脇に抱える箱の小窓を開きレケンに中を見せる。それを見てレケンは僅かに顔をひきつらせたが、すぐに何事もなかったかの様な表情となった。目の前のレケンの顔を見た兵士が助けを求める。


「助けてください、レケン様。こいつらに無理矢理こんな姿に…」

「おや、こいつは最近金を持ってきていた者だな」

「こいつは自分で大臣殿の使いだと言っていましたが、大臣殿の知り合いではないのですか?」


 サルタールの質問にレケンは首を振る。


「知らんな。サーカス団の使いだと言って金を持ってきていたから顔は知っているが…」

「なっ!」


 驚いた表情で兵士は固まった。


「では、金額が増えていたのは?」

「増えていた?金額は始めから変わっておらぬぞ」

「ほほう、では差分はどこにいったのですかねぇ?」


 レケンとサルタールのやり取りを聞いていたエスはふと思う。

 さてさて、ここまでは予想通りの展開でつまらないな。兵士と大臣どちらかが嘘をついているのだろうが、現時点では確実なことはわからないか。命の危機を感じてる兵士の方が本音を言っている気もするが、必死に助かろうと嘘をついている可能性もある…

 考えながら執務室を見回していると、数々の骨董品らしきものが並べられている場所を見つける。その中の一つの壺を見たエスは小さく声を上げた。


「フッ、これはこれは、なかなか面白そうな物があるじゃないか」


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