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奇術師、悪魔について少し知る

「さてさて、丁度いい機会だ。私に悪魔に教えてくれないか?知らないことが多くて困っているのだよ」

「リーナに聞いてないのか?というより記憶が無いのか?」


 サルタールの言葉にエスは首を振る。


「私は別の世界で死んでこの世界に生まれ変わった。転生したと言うべきか?故にこの世界については何も知らないのだ。何故か力の使い方や文字などの読み書きなどはできるのだがな。おそらく体が覚えている的な記憶は先代奇術師から引き継がれているのだろう。ちなみにリーナには聞こうと思ったのだが、ここまで聞くタイミングがなかったのだ」

「まあ、教えるのは構わんけどよ…」


 そんな会話を聞いたターニャが立ち上がり声を上げた。


「エス!おまえ転生者だったのか!?」

「おや?言ってなかったか?ああ、そういえばリーナだけにしか話してなかったな。しかし、この世界には転生者なんて言葉があるのだな」

「転生者は極稀にいるわよ。私は会ったことがないけれど」


 サリアの答えを聞き、エスは考える。

 私以外にも転生してる者がいるかもしれないということか。探してみるのも面白そうだな。


「それで何が知りたい?」

「そうだな…、少し前『強欲』の悪魔に会ったのだが、『強欲』というのは系統的なものか?」

「そうだ。『傲慢』『憤怒』『暴食』『強欲』『色欲』『怠惰』『嫉妬』に分類されているな。あくまで、人間たちが勝手に分類したものであって、悪魔たちはそこまで気にしているわけじゃない」


 元居た世界でも言われていた七つの大罪、七つの罪源とも言われていたな。内容はやや違いはあるがだいたい同じか。


「では、聖騎士たちも系統を持つのか?私が会ったやつは『正義』を名乗っていた。私が予想するに『知恵』『勇気』『節制』『正義』『信仰』『希望』『愛』と言ったところか?」

「…その通りだ。よくわかったな」

「やはりか、どうやら元居た世界で言われていた七元徳と同じようだな。まあ、ここまでは予想できていたし答え合わせみたいなものだ。それで、私たちは何に属するのかね?」


 サルタールは一息つくとサリアとターニャへと視線を移し警告する。


「この先の話は他言無用で頼むぞ。面倒事が増えるからな」


 二人が頷くのを見てサルタールはエスへと答える。


「俺たちはその系統に分類されていない。基本的に人間たちには俺たちの存在は知られていないからな」

「分類されていない、だからやつが私をイレギュラーだと言ったのか?」

「それは関係ないだろう。人とまったく同じ姿の悪魔は俺たちだけだから、それで見分けたんだろうな」

「ふむ、あとはそうだな、やつらが契約を持ちかけて魂を要求しているのは知ったのだが、私たちも契約を持ちかけることはできるのか?」


 その一言に、サルタールとリーナが険しい表情になる。


「なんだ?聞いたらマズい内容だったか?なら仕方がないな…」

「いや、教えるのは構わないんだが…」


 サルタールは途中で言葉を切る。続きを話すようにリーナが口を開いた。


「私たちの契約に関する内容はね、内容が内容なだけに人に聞かれたらマズいのよ」

「ほう、つまりサリアとターニャが話すには邪魔なわけか」


 それを聞き姉妹は怒りを露わにする。


「今更何を言ってるのかしらこの人たちは…」

「そうだ!今更とんでもないこと言われたって驚きもしないぞ!」

「そういう問題じゃないのよ…」


 リーナが姉妹を宥めていると、部屋に駆け込んでくる者がいた。


「どうした?入室は控えるようにとパッソから聞かなかったか?」


 サーカス団の関係者と思しきその人物は、息を切らし焦った口調で話し始める。


「す、すみません。緊急だったので。大臣の使いが金を取りに来ました」

「最近は来るのが早かったが今日は一段と早いな。わかった、俺が対応するから渡す分の用意を急ぎで進めてくれ」

「はい。しかし、すぐには無理かと…」

「まあ、そうだよな。とりあえず話をしにいくか」


 立ちあがったサルタールは、駆け込んできた人物からエスたちへと視線を移す。


「わりぃな、続きは後で。とりあえず待っててくれ」


 そのまま、サルタールは部屋を出ていく。それを見送ったエスは一人笑みを浮かべる。


「大臣の使い、つまり城の関係者か。少し興味が湧いた」

「おい、エス!」


 嫌な予感のしたターニャの言葉はエスに届かず、次の瞬間エスの姿は空中へと掻き消える。その様子を見ていたサリアとリーナは頭を抱えていた。

 サーカス団テントの関係者用入口に大臣の使いは来ていた。全身を覆う鎧を着た兵士ではあるが、大臣から直々に命を受けてきたと言うだけあり、鎧の装飾からもそれなりの地位に居ると思われた。しかし、表情は兜で隠れわからない。その兵士の元へサルタールは近付いていく。


「使いの方、申し訳ないがまだ集計が終わっていない、あとで城へ直接私が持って行くのでお待ちいただけるよう大臣殿に伝えてもらえないだろうか?」

「すぐに回収してくるように命を受けている。今すぐ用意したまえ。なんなら全て持ってくればよい」

「いや、すぐと言うわけには…」


 全く聞く耳を持たない兵士を相手に、どうしたものかと悩むサルタール。その背後で僅かな魔力の揺らぎが発生する。空中から溶け出すようにエスが現れた。


「ほう、城の兵士という職業は腕が悪くてもなれるものなのだな」

「なんだと!何者だ貴様!」


 腰の剣を抜こうとした兵士だったが、剣を掴もうとした手は空を掴む。そこには鞘しかなく、剣がなくなっていた。敵意を向けられたエスはというと、一本の剣を眺めていた。それを見てサルタールはため息をついた。


「はぁ、おまえ何しに来たんだよ…」

「面白そうだから見にきたのだ。この装飾もなかなか。剣はいいものなのに、使い手がこの程度では剣が可哀想だ。ほら、これは返そう」


 そう言ってエスは手に持っていた剣を兵士へと渡す。それを乱暴に受け取った兵士はそのまま剣をエスへと向けて構えた。


「この俺を馬鹿にするのか?一般人風情が」

「サルタールよ。城の兵士たちはこんなのばかりなのか?」

「ん?いや、おかしいな。この国の兵士たちは国民に対し高圧的な態度は取らない。怪しいな…」


 サルタールの言葉の最後は兵士には聞こえないように呟いていた。それを聞いたエスはサルタールへ小声で提案する。


「本物の兵士かどうかを見分ける方法はないのか?」

「ないな。城の関係者であれば何かしら調べる方法があるのかもしれないが、俺には手がない」

「そうか…」


 エスが少し考えていると、目の前の兵士は痺れを切らし怒鳴り始めた。


「こそこそと、いい加減にしろ!この国での巡業を許可し、場所を貸す代わりに金を収めるという話だったはずだ。さっさと用意しろ」

「ふむ、口調からしてあからさまに怪しいな。さて、こういった手合いはどうしたものかな?」


 そんな会話をしていると背後に先程部屋へと駆け込んできた人物が、革袋を手に持ち現れた。革袋の中には貨幣が入っているのか、金属音が聞こえる。


「団長、今日分の準備が終わったので持ってきました」

「それを渡せ!」


 ずかずかと歩み寄る兵士の前にエスが立ち塞がる。その顔は僅かに笑みを浮かべていた。


「貴様、国に逆らう気か?」

「サルタール、大臣とはどういう約束になっているのだ?」

「毎日の売り上げの一部を渡すことで国内での巡業、この場所の使用許可を貰ってる」

「その通りだ。だからその金を渡せと言っている!」


 エスとサルタールの会話を聞き、兵士はますます焦ったように詰め寄ってくる。


「その渡す金は大臣に直接渡しても問題無いのだな?」

「ああ、元々は直接持って行くという話になっているからな」

「ほほう、ならば…」


 エスは一言呟いた後、どこからか取り出した布を広げ、その下から人ひとりが立って入ることが可能な長方形の箱を呼び出す。その様子に、兵士もサルタールたちも呆気にとられ動きが止まっていた。エスは徐にその箱前面の蓋を開くと、その中に兵士を掴み投げ込む。そして、蓋を閉じると内側から開けられないように箱に備え付けられた金属製のかんぬきを掛けた。箱の中では兵士がじたばたと暴れていた。中から声が聞こえるが、言っている内容までは聞き取れない。


「さて、次は…」


 エスは兵士が入れられた箱を見つめ笑みを浮かべ、自分の背へと手を回した。


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