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奇術師、攫われる

 あまりの騒がしさに目を覚ますと、そこは宿の部屋ではなく薄暗い石造りの部屋だった。騒いでいる声は目の前の扉の向こう側から聞こえる。体を見るとロープで椅子に縛られ身動きが取れない。ご丁寧に椅子の足に自分の足も縛り付けられていた。エスは頭をフル回転させる。


 どうしてこうなった!

 違う!ココはドコ?私はエス!

 そうじゃない!あっれぇ?宿で寝てたよな?


 混乱して訳の分からない自問自答を繰り返していると、目の前の扉が開き数人の人物が入ってきた。全員動きやすい服装をし、仮面をしたり、布で顔の下を隠したりしている。どう見ても裏の職業の方たちだとわかる。


「起きてるね。丁度良かった」


 一人の少女が近付いてくる。歳は18くらいだろうか。スレンダーな体型に露出が高めな革鎧を着ていた。口元を布で隠しているが、見た目は中々可愛い顔をしているようだ。


「あなたね、昼間に冒険者二人相手に派手にやったのは」

「うぅん、胸が残念、おっと…」


 すぐさま視線を逸らし、何も言ってない体を装う。


「んだとコラァ!」


 思わず口をついて出てしまった言葉に少女は激怒した。後ろで控えていた部下らしき男数人は吹き出している。


「てめぇらも笑ってんじゃねぇ!立場を考えて質問に答えな!」


 ふむ、縛られていて抵抗できないだろ?さっさと答えろってことかな?

 エスはわざとらしく神妙な顔になりやや俯いて話す。まるで推理ドラマで警察に捕まった犯人のように。


「はい、私が殺りました…」

「てめぇ何もんだ?」

「おっと、冗談も通じないよこの娘。さっきから怒ってばっかり、君らももう少しこの娘に笑顔を教えてあげて」


 少女の言葉を無視し、エスは言いたいことを背後に控える部下に言う。無視され馬鹿にされついに少女は腰の短剣を抜いた。


「立場を考えろって言ってんだろ!」


 首に突き付けられたナイフをエスは摘まむ。縛られているはずのエスがナイフを摘まんでいるのだ。目の前の出来事を理解できず、唖然とした表情をする少女とその部下たち。エスが椅子から立ち上がるとロープはスルスルと床に落ちる。少女から短剣を取り上げ、それを自分の掌に突き刺した。


「ギャーイタイーテガータスケテー」


 棒読みで叫んだ後、短剣を抜き刺した掌を少女に見せる。そこには全く傷はなく、血の一滴も流れていなかった。もはや、何が起こったのか理解できない少女はへたり込みエスを見上げている。部下たちも理解が追い付かず口を開けたまま固まっていた。

 あっれ~やり過ぎた?

 エスはそそくさと椅子に座ると自分でロープを体に巻き付け縛られたフリをする。それを見て部下の一人が思わず声を上げた。


「なに無かったことにしようとしてんだよ!」

「ダメ?アッハッハッハッハッ」


 無かったことにならなかった。この状況をどうしよう…

 エスは再びロープを外し少女の前にしゃがむ。


「おーい、大丈夫か?ビックリしすぎて漏らしたか?」

「ふざけんな!」


 正気に戻った少女に殴られエスは背後にあった椅子と共に壁まで吹っ飛ばされた。舞い上がった埃によってエスの姿は皆の視界から消える。


「頭ぁ、やり過ぎですぜ。」

「いや、だってよぉ…」

「ホントホント、もし死んじゃったらどうすんの?」


 少女の横にしゃがんで殴られた頬を撫でながらエスが会話に割り込んだ。その姿を見て再び全員が口を半開きに固まった。

 縄抜けに貫通系と【奇術師】は使えるなぁ。まあ、視線誘導必須だけどその辺は生前にたっぷり練習したしな。どうやら視線誘導しなくても自分の姿か手元が見えてなければ【奇術師】は発動できるみたいだ。それにしてもこの人たちのリアクションは最高だよ。


「いやぁ皆さんのいい顔も見れたし、そろそろ帰りたいんだけど…ココどこ?」


 未だ固まったままの少女へとエスは話しかける。少しの間を置き、正気を取り戻した少女が話し始めた。


「ここは盗賊ギルドだ。あんたを勧誘しようと宿から攫ってきた。」

「ほう、断ったら?」

「街から追い出すつもりだ。」

「まあ、物騒!」


 オネェ口調でおどけるが少女も周りの部下たちも反応はない。

 まぁた滑ったかぁ。


「殺すとか言われないだけマシか。まあ、盗賊ギルドだもんな」

「当然だ!それに、ふざけた悪徳貴族たちからしか盗みなんてしねぇよ!」


 なるほど、義賊みたいなものか。


「で、なんで私を勧誘しようと?」


 無理矢理な勧誘は諦め、少女は理由を語り始めた。


「なるほどねぇ、貴族の屋敷から姉を助けたいから腕の立つ者を探していたと」

「そうだ。あの豚貴族は街の気に入った女を自分の屋敷に連れて行くんだ。一月くらいすると金を持たせて屋敷を追い出すって行為を繰り返してる」


 俯きながら話す少女、今は口元を隠していた布を取ってその素顔を見せている。

 この娘の姉か、器量も良さそうだ。


「姉が攫われたのは一昨日、早く助けたいんだ」

「この街で一番偉いのが、その豚貴族か?」

「そうだ。だから誰も手を出せない…」


 まさに封建社会の闇って感じだな。ある意味よくあるパターンか。


「だから、手を貸してくれ!」

「断る!」


 きっぱりと断言すると絶望的な表情となった少女がこちらを見ている。

 いい表情だなぁ。もう少し見てたいけど、ここは交渉だ。こっちも困ってるし。


「…と言いたいところだけど、条件次第だな」

「条件?」

「実はな、宿代すらなくて困ってるんだ。少しでいいから報酬を出してくれるなら手伝うぞ」

「もちろんそれなりの金は払う。頼む!」

「OK、交渉成立!んじゃ行こうか」

「えっ!?」


 あれ?すぐ行くわけじゃないのか?

 すぐにでも助けに行くと思っていたエスは、驚いた表情をしている少女を見て不思議に思っていた。


「そ、そうだな。すぐにでも助けに行かないと…」

「しかし、頭。先日の潜入失敗で警備が厳重に…」


 部下たちの暗い顔、そして先の言葉でエスも状況をある程度把握した。

 なるほど、すでに助けに行って失敗している。しかも見つかって警備が厳重になってしまったと。きっとこの娘が先走ったんだろうなぁ。


「その豚貴族の屋敷に案内してくれないか?」

「え?」

「私一人で行く」

「可能なのか!?」

「フッ、知らん!だが面白そうだから行ってみる」

「無茶だ!」

「そう言われると余計行きたくなるねぇ」


 結局、少女としばらく言い争った後、少女を連れ屋敷脇の塀へと向かった。


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