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奇術師、現実に打ちひしがれる

 エスたちの元へギルドで説明をしていた大男が装飾の施された斧を背負い近付いてきた。


「どうやらそちらも終わったようだな。ご苦労だった」

「労いの言葉より報酬の方が欲しいな」

「ハッハッハッ、冒険者らし言い分だ。報酬に関してはギルドに戻ってからだな」

「それも大事なのだが、一つ気になることがある」

「なんだ?」


 エスは疑問に思っていたことを大男へと質問する。


「おまえは何者だ?」


 エス以外、全員が唖然とした表情になるが質問された大男はすぐに気を取り直し豪快に笑いながら答えた。


「ハハハハハ、そうか、自己紹介がまだだったな。俺はここグレーススのギルドを取り仕切ってるギルドマスターのボヌムだ」

「ふむ、予想通りギルドマスターか。大して面白くもない展開だな。それよりもだ…」


 エスはモンスターたちが出てきた森を指差す。突如、森から鳥たちが飛び立った。


「モンスターたちが突然街に向かってきた。何かから逃げるだけなら散り散りに逃げるだろう?それが追い立てられるようにこちらに来たということは…」

「チッ!そうか、おいてめぇら!」


 ボヌムはエスの言葉にすぐに判断し、大声で周囲にいる冒険者たちへと声を上げた。


「元凶が来るかもしれんぞ!警戒しておけ!」


 その言葉に反応するかのように、森の奥で土煙が上がる。何か巨大なものがこちらに向かってきているのがわかった。


「エス、よく気付いたな」

「ん?アルミラージは街道の方へ逃げてきていた。それなのに今回は街の方へ大量にモンスターが流れてきた。それは何かに追い立てられている可能性があると思わないか?あくまで可能性だったが。それに探しに行かなくても向こうから来てくれるのだから、大歓迎だ!」

「ハァ…」


 ため息をつくターニャを無視してエスは森の奥、向かってくる何かを凝視していた。

 しばらくして、土煙を上げていた主は草原付近まで来たところで飛び上がりその姿を現した。それは巨大な蛇に鳥のような翼が4枚生え、それらを器用に羽ばたかせ浮かんでいた。大きさは優に数十メートルはある。


「おお、デカい!翼の生えた蛇か!蛇か、蛇かぁ…」


 エスの声は段々と小さくなっていったかと思うと、四つん這いの姿勢になり地面を殴りつけ叫ぶ。


「ドラゴンじゃない!」

「そこかよ!」


 ターニャの言葉にエスは反応を示さなかったが、ふと思い立ったように立ち上がった。


「あれは、アーナグイス。ギルドマスター、あれは私たちが相手をします。他の冒険者を下がらせてください」

「そうか。サリアなら問題ないだろう。頼むぞ、俺は一旦他の冒険者を連れ街へ戻る。持ってきた資材は好きに使って構わん」


 ボヌムは他の冒険者を連れ街へと走る。それを見送り、エスたち四人は迫りくるアーナグイスを迎え撃つべく武器を構える。


「はぁ、テンション急降下だ。しかし、あれほど巨大な蛇は初めて見た。まして飛んでいる。そこは素直に感動するべきだな」

「どうするの?まともに相手をするにしても大きすぎるわよ」


 リーナの疑問にサリアは落ち着いた表情で答える。


「大丈夫。以前にも狩ったことのある相手だから」

「姉さん、あれ狩ったことあるの?」

「え?ただ蛇が大きくなって飛んでいるだけよ?」


 何を言ってるのと言わんばかりの表情でターニャを見るサリア。ターニャもこの姉は何を言っているんだという表情をしていた。


「さあ、二人とも遊んでないでさっさとアレを始末するぞ。私の期待を裏切ったのだ、万死に値する!」

「理由が小さいわよ。かもしれないって言ってたじゃない」


 リーナの言葉の途中で、すでに目の前まで来ているアーナグイスへとエスは跳躍する。アーナグイスの頭上へと飛んだエスは踵落としでアーナグイスを地上へと落とした。地面に叩きつけられたアーナグイスは落下するエスを喰らおうと口を開く。エスが落ちてくるタイミングに合わせアーナグイスが口を閉じたが、エスは閉じられた口の少し上空に立っていた。


「「浮いてる!」」

「魔法?じゃないわね」


 驚く姉妹、そしてリーナも一瞬魔法を使ったのかと思ったがエスが持つ能力を思い出し理解した。


「フハハハハ、【奇術師】の力を使えばセルフレビテーションも完全な空中浮遊になってしまうか。やはり【奇術師】という呼び名は詐欺だな」


 笑いながら再び口を開けたアーナグイスの噛みつきを空中で避け地面へと降り立つ。再び飛び上がろうとするアーナグイスを、いつの間にか回り込んだサリアが背後から翼目掛けて槍を振るい1枚の翼を切断した。痛みから咆哮をあげるアーナグイス、ターニャも走り込みサリアが切り落した翼の側に生えるもう1枚の翼を切り落す。片翼を失い、アーナグイスは空を飛ぶことができなくなった。


「ふむ、飛べなくなったらただの蛇だな」

「それでもこの巨体だから押し潰されたらひとたまりもないわ。それでどうするつもり?」


 いきなりポケットから布を取り出すエスにリーナは問いかけた。


「取り出したるは何の変哲もないただの布切れ。これを手に乗せ、取り払うと…」


 エスは自分の手を布で隠し、少し間をおいて布を取り去る。すると、手の上には黒い球体が現れる。球体からは明らかに導火線と思われる縄が出ていた。その横には小さな棒の先に紅い宝石のようなものがはめられた道具があった。


「なんと爆弾が!しかも着火用の道具もセットでご用意致しました!」


 小さな棒が着火用の魔法道具であることをエスは何故か認識していた。昔から知っていたような感覚だが、今は気にしているときではない。


「爆弾!?」

「あそこの資材の中にあったみたいだぞ?」


 エスの指差す場所には積み上げられた資材類があった。


「みたいって…」

「なんか使えそうなものが無いか引き寄せてみたらコレが出た」


 呆れるリーナをそのままに、エスはアーナグイスを牽制していた姉妹に声をかける。


「二人とも下がらないと危ないぞ」


 エスの手には火を灯した棒と爆弾、それを見た姉妹はすぐさまアーナグイスから距離を取る。


「それでは蛇君、プレゼントだ」


 エスは爆弾に火を付け布で隠し消し去る。次の瞬間、アーナグイスの口が爆発した。


「フハハハハ、食べるモノには気を付けたほうがいいぞ!」

「あなたが食べさせたんでしょうに…」


 エスの隣に立つリーナは呆れながらもアーナグイスの状態を注視している。口の中が爆発したアーナグイスは多少のダメージはあるものの、エスを睨み威嚇するような声を上げていた。


「ふむ、おかわりが欲しいのか?」


 エスが今度は大きな布を取り出し地面へと広げると布が何かに下から押し上げる。そして布を取り払うと、そこには大きめの木箱が置かれていた。辺りを見ると、南門側の資材から木箱が1つなくなっている。


「では箱ごとプレゼントだ。しっかりと味わいたまえ!」


 木箱の中の爆弾に火をつけ、再びエスは木箱に布をかけた。向かってきたアーナグイスが鎌首をもたげる。だが、突如動きが止まり次の瞬間、大爆発と共にアーナグイスの頭が弾け飛んだ。首を失ったアーナグイスの巨体が地面へと倒れる。


「フハハハハ、汚い花火だ」

「おいエス、血がかかったぞ!」

「これは、お風呂に入りたいわね」


 爆発により飛び散った血しぶきを浴びた姉妹がエスとリーナの元に歩いてきた。


「血も滴るいい女というわけか。本来は血ではなく水だけどな」

「はぁ、いいから早く街へ戻ろう」


 肩を落とし歩くターニャの横をエスが動かなくなったアーナグイスへと向かう。その際、ターニャの持っていた短剣を掠め取っていた。


「おい!」

「ちょっと借りるぞ」


 エスはそのままアーナグイスの死体へと近付いていった。


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