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奇術師、新たな勢力を知る

 座り込んでいるエスにギルガメッシュは駆け寄ると、その胸倉を掴み上げ無理やり立たせた。


「エス!貴様、レヴィをよくも!」


 レヴィを殺されたと思っているギルガメッシュは激昂していた。


「ギル、落ち着いて!エス、説明してくれる?」

「もちろんだとも。そのためにも、この手を離してもらえるかな?」

「ことと次第によっては、殺すぞ」

「おお、それは怖い」


 渋々手を離し、ギルガメッシュは僅かにエスから離れる。エスは胸元の服を直すと、地面に刺さっている剣を抜いた。


「まあ、まずは本人に無事を確かめようではないか。レヴィ、聞こえているのだろう?」

『聞こえてる』

「レヴィ!」


 剣から聞こえたレヴィの声に、ギルガメッシュが驚きの表情を見せる。


「そこまで驚くことではなかろう?元々、アヴィドとトレニアもいたのだから。生きているうちに体ごと取り込んだ故、ほぼ死んでいたトレニアの時のように一か八かという賭けにはならなかったからな。成功していて当然だ」

「だけど、なんでレヴィをその剣に取り込む必要があったんだよ!」


 ガブリエルを退けるだけでよかったのではないかとギルガメッシュは問いたかった。だが、続くエスの言葉でその考えは砕かれる。


「やつを追い返す、もしくは倒すだけではダメなのだ。逃げるのも論外だな。レヴィを狙うことを諦める理由がない。つまり、またいずれレヴィを狙ってガブリエルもしくは他の者が現れるということだ。おそらくどこに連れて行っても結果は同じであろう。あの姿は目立つからな。すぐに場所は把握されてしまう。ならば、相手が一旦手を引くにはどうするか」

「ガブリエルや他のやつが狙えない場所に匿うってこと?」


 エスの言葉にミサキが答える。


「正解、そしてこの剣はアヴィドが丹精込めて作り上げただけあって、他者の干渉を受け難い。実に素晴らしい場所になっている」

「だがよ、そん中に取り込んじまったら死んだのと同じじゃねぇのか?」

「ふむ、俺様君の心配はわかる。だが、そちらも手がないわけではないのだよ」

「どういうこと?」

「ミサキ、おまえは以前見たことがあるであろう?フォークス、前奇術師を」

「トレニアのところに現れたやつだね」


 ミサキに頷いてみせたエスは、そこから推測した仮説を話し始める。


「フォークスの意思と力は元々、転生した私の中にあったのだ。だが、あるときそれが奪われた。丁度、ミサキに出会う前だったな。その奪われた意思と力だけだったフォークスが、肉体を持って私たちの前に現れた」

「あっ!」


 ミサキはエスの言いたいことを理解し声をあげる。


「つまり、どういうことだ!」

「もう一度言うぞ。意思と力だけだったフォークスが、肉体を持って現れた。つまり、意思だけでは不可能かもしれんが、再び肉体を手に入れる手段があるとは思えないか?」

「確かに、それがホントなら何らかの手段があるって考えられるな」


 ここまで話を聞き、ギルガメッシュもようやく落ち着きを取り戻した。


「というわけで俺様君、そのあたりに詳しそうな者に心当たりはないかな?」

「ねぇよ!フォークスを復活させたやつに聞けば…」


 そこまで言って、フォークスを復活させた者に心当たりがあるギルガメッシュは口を閉じてしまった。ギルガメッシュと同じ結論に至っていたエスは、やれやれと首を振りつつギルガメッシュの言葉を否定する。


「それは無理だろう。おそらく七聖教会の人間だ。教えてくれと言ってすんなり教えてくれるとは思えん。まあ、脅すなりなんなりすればいいかもしれんが、最終手段だな」

「おまえ、サラッと酷いこと口にするな…」

「悪魔だからな。君も悪魔であろう?」


 エスに非難の視線を向けていたギルガメッシュだが、その仮説は確かめる価値はあると判断し、知っていそうな者を記憶の中から探す。


「可能性があるとするなら、イグナスか…」

「イグナス?」

「ああ、『怠惰』の悪魔って言やぁわかるか?」

「ほほう、イグナスというのか」

「あいつは研究好きだからな。もしかしたらその辺りの技術も発明してるかもしれん」


 少し考えたエスは、ギルガメッシュに問いかける。


「俺様君、イグナスはマキナマガファス魔工国にいるのではないか?」

「お、よく知ってるな。その通りだ」

「そうか…」

「なんだ?何か問題でもあるのか?」


 エスがいつもの笑みを消し考え込んだことで、ギルガメッシュは不安を覚えた。


「ギル、教皇国と魔工国が戦争一歩手前なの知らない?」

「なんだって!?」

「事実だ。今は睨み合ってるだけのようだがな」

「ってことは、あの女にイグナスの居場所がバレたのか。マズいな」


 舌打ちするギルガメッシュは、急いで水晶窟の外へと歩き始めた。エスは、そんなギルガメッシュの肩を掴み引き留める。


「どこへ行こうというのかね?」

「魔国に帰ってイグナスに加勢する」

「いやいや、ちゃんと聞いていたのか?まだ、睨み合っているだけだ。一歩手前ではあるが開戦したわけではないのだぞ。それに、教皇国側がそう簡単に戦争を仕掛けられるわけではなかろう?」

「それは、そうだが…」

「まあいい、俺様君は自国に戻って加勢の準備でもしておきたまえ。そうそう、世界に向けて魔国が魔工国に加勢すると宣言すれば、もっと開戦時期を引き延ばせるのではないか?」


 ギルガメッシュは考える。確かにエスの言う通り、魔工国に肩入れすれば教皇国は二国を相手にしなければならなくなり、開戦は引き延ばせる可能性はあるだろう。だが、理由次第ではそれ以外の国が参戦しかねないとも考えられた。


「フォルトゥーナとポラストスも巻き込めば、より確実に時間稼ぎができそうだな」

「それじゃ、アリスたちに迷惑かからない?」


 フォルトゥーナ王国を巻き込むというエスの言葉を聞き、ミサキは心配そうに問いかけた。


「賭けではある。いざ、戦争になりそうというときに動いてもらうように頼んでみるとしよう。無理強いはできないがな」

「…うん」

「さて、俺様君」


 話を切り替えようと、エスはギルガメッシュに声をかけた。


「ガブリエル、あいつについて知っていることを教えてくれないかな?今後も迷惑を被りそうなのでな」

「急いでんのに。仕方ない」


 ギルガメッシュはエスへと向き直り、知ってる限りを話し始めた。


「あいつらは天使族、金髪碧眼で人型なのが特徴の種族だ。人間にも金髪碧眼のやつはたまにいるが、俺様達に敵対する金髪碧眼は天使族だと思って間違いない。やつらは天界なんて呼んでやがるが、普段は雲の上にある浮島に住んでる」

「ほほう、それは興味深い」


 エスの見てみたいものリストに天界、空に浮かぶ浮島が追加された。


「前までは地上には不干渉だったんだが、神が殺されてからはちょくちょく手出しするようになったな」

「天使というからには、神に仕えていたのであろう?神が死んだ今は誰に仕えてるのだ?」

「確実なことはわからん。だが…」


 ギルガメッシュは、少し間を置き続きを話し始めた。


「おそらくは、チサトのやつだ」

「チサト、というと七聖教会の最高司祭だな」

「そうだ。あいつしかいない」

「ふむ…」


 もっと詳しく聞きたいところではあるが、すぐに自国へと帰りたそうにしているギルガメッシュをみて、エスはそれ以上聞き出すのを諦めた。細かい話は天龍にでも聞いてみよう、というのがエスが出した結論である。


「最後に、天使たちは何人いるのだ?」

「七人だ」

「そうか。引き留めて悪かったな。急いで自国に戻るといい。今度お邪魔させてもらうとしよう」

「ああ、わかった。レヴィたちを奪われるなよ」


 ギルガメッシュは翼を羽ばたかせると、水晶窟の外へと一直線に飛んで行った。エスは手に持ったままの剣を眺める。


「言われるまでもない。ところで、レヴィよ。そちらの居心地はどうかな?」

『悪くはないんだけど、アヴィドとトレニアが煩くて…』

『アヴィドが細かすぎるのよぉ』

『貴様がだらしないだけであろう。この場を汚すな』

「うむ、仲が良いようでなにより、ではな」

『ちょっと!』


 そういってミサキの腰から鞘を奪うと、剣を納め消し去った。


「さて、ミサキ。アリスリーエルたちのところに戻るとしよう」

「うん。それからはどうするの?」

「折角招待されているし、天龍に会いに行く。ミサキも行くか?」

「妖精国はちょっと面倒そうだけど、あたしも行ってみたい」

「よろしい。では、帰って旅の準備をするとしよう」


 エスがいつものように指を鳴らすと、これまたいつものように布が現れエスとミサキを包み込んだのだった。

 同時刻、天界と呼ばれる浮島にガブリエルが到着していた。浮島の下部は雲に覆われ、地上からは雲が浮かんでいるようにしか見えない。等の浮島は現在、フォルトゥーナ王国の上空にあった。

 島の中央に立つ大理石のようなもので作られた神殿、その入口へとガブリエルは舞い降りると中へ入っていった。


「よう、ガブリエルじゃないか。早かったな、【嫉妬】は手に入ったのか?」

「カマエルか。全員が揃ってから報告しよう」


 ガブリエルに声をかけたのは、神殿の入口付近でのんびりと過ごしていたガブリエル同様、金髪に碧眼のカマエルだった。ガブリエルと違うのは、少年のような容姿でありそれに似合う軽い口調をしている。

 カマエルはガブリエルの言葉に違和感を覚えていた。いつもであれば、ガブリエルからは成功という結果しか聞いたことがなかった。カマエルの記憶では、結果を濁したのは初めてである。スタスタと神殿の奥へと歩くガブリエルの後ろを、カマエルは共に歩いて行った。

 扉を開き部屋へと入るガブリエルとカマエル。部屋の中央には円卓が置かれ囲むように椅子が七席用意されている。そのうち、四席にはすでに座っている者たちがいた。全員の容姿はそれぞれ違うが、ガブリエルたち同様に金髪碧眼という共通点があった。


「帰還した」

「おかえりなさい、ガブリエル。カマエルも座りなさい」

「はぁい」


 部屋に入ったガブリエルとカマエルに声をかけたのは、ウェーブがかった髪が背中まで伸びる女性だった。女性に促され、席に座ったガブリエルとカマエル。二人が座ったのを確認し、女性は話し始めた。女性の名はミカエル、希望と期待を司っている。


「あとは、アナエルだけですね」

「あら?ガブリエル。その鎧はどうされたのですか?」


 ガブリエルの欠けた鎧を見て、ミカエルの隣に座る女性が話しかけた。ミカエル同様ウェーブがかった髪だが、こちらは肩までの長さで切り揃えられていた。彼女の名はラファエル、正義と公正を司っている。


「全員揃ってからと思ったが、まあいい。これは、『奇術師』にやられた」

「なんだと!?我らの鎧はオリハルコン製だぞ。【崩壊】で消されたのならまだしも、どうやってそんな傷をつけられた!?」


 ガブリエルの言葉を聞き声をあげ、机を両手でたたきながら立ち上がる者がいた。装飾されたモノクルをかけた男だった。髪をオールバックにし、神経質な顔をしているその男はカフジエル、知恵と賢明を司る者だ。


「カフジエル、落ち着け」


 立ち上がったままのカフジエルに声をかけたのは、短髪の落ち着いた表情をした男だった。名をザドキエル、信仰と史実を司る者である。


「すまない」


 謝罪を口にし、カフジエルは自分の席に座る。


「でも、ガブリエルがこんな傷負わされるなんて信じられないよねぇ。鎧の強度だけじゃなくて技術的にもさぁ」

「カマエル、おまえは鎧をどうした?」

「えっ!?部屋にしまってある」

「着ておけ!」


 カマエルの返事に苛立ち、再びカフジエルが声を荒げた。


「カフジエル、落ち着きなさい。アナエルも戻ったようですよ」


 今度はミカエルに窘められ、カフジエルは黙って再び席に座る。それと同時に、部屋に一人の男が入ってきた。


「おかえりなさい、アナエル」


 男は黙ったまま、一つだけ空いている席へと座る。その男は以前、エスが見たことのある男であった。エスと出会ったときに名乗った名はリフィディア。本来の名をアナエル、愛と慈悲を司る者であった。


「では、まずアナエル、報告を」

「はい」


 ラファエルに促され、席に着いたばかりのアナエルは報告を始めた。


「結論から言いましょう。【色欲】の確保は失敗、あの方にも報告済みです」

「原因は?」

「『奇術師』の介入、『色欲』に裏をかかれた、といった感じです。直接の理由ではないですが、フォークスが何の役にも立たなかったのも要因の一つですね。あと確認しましたが、他国との切り離しのために【嫉妬】の力を利用して操った海龍も、『奇術師』たちの手で正気に戻ったようです」

「そう、今回はあちらが上手だったということね」

「そうなります」

「潜入ご苦労様、しばらくは休むといいわ」

「そうさせてもらいましょう」


 説明を終えたアナエルは、背もたれに体を預けると目を閉じた。


「ではガブリエル」

「ああ、こちらも失敗だ。『嫉妬』の本体は『奇術師』に確保された」

「馬鹿な!?距離的に間に合うわけが…」


 驚き声をあげたのはアナエルであった。


「事実だ。やつが転移できるという話は聞いていないが、できるとすれば辻褄が合う」

「そう、ですね。その点については、後であの方に聞いておきましょう」


 アナエルはそう言うと、再び目を閉じた。


「今までの『奇術師』と同等と思っていては、痛い目を見ることになるのは確かだ。この鎧の傷も『奇術師』の持っていた剣によってつけられたものだ」

「オリハルコンに傷、創造主様が作り出した神器の一つの可能性があるな」


 ガブリエルの報告を聞き、カフジエルが顎に手を当て考え込んでいた。


「報告は以上だ」


 考え込むカフジエルを横目に、ガブリエルはそう告げた。


「やはり、『奇術師』の存在はあの方の目的には邪魔ですね」

「ですが、【崩壊】を宿せる器はあの者だけです」

「こちらに引き込めれば、いろいろと解決するのですが…」

「それはなかなか難度の高い案だ」


 ミカエルとラファエルの会話を聞いていたガブリエルが、エスと相対した感じからそれが非常に困難であると告げた。

 重い雰囲気の中、天使たちの会議は続いていた。


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