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奇術師、最奥で嫉妬を知る

「『退け』!」


 扉と通り中に入ると、無数の蛇がギルガメッシュに襲い掛かる。それを【傲慢】の力である、支配の力が宿った言霊で蹴散らしながら奥へと進んでいった。


「まったく、【傲慢】とは便利な力だな。それにしてもこの蛇たちは何なのだ?」

「この蛇は、呪詛を噛んだ相手に送り込むことができるんだよ」

『妾たちの力も呪詛として媒介できるし、便利なのよぉ』


 ふと呟いたエスの疑問に、ミサキとトレニアが答えた。それを聞き、エスは思い出す。アリスリーエルと初めて会った時に見かけた蛇、それはレヴィが生み出した蛇を使いトレニアがアリスリーエルに呪詛をかけることに使ったのだと理解した。


「思えば、私の観光はあの頃から邪魔されっぱなしだな…」

『しかし、これは異常だ』

『ええ。エス、ミサキ、急ぎなさい』


 アヴィドとトレニアに促され、エスとミサキは全力でギルガメッシュを追う。

 少しして先に走っていったギルガメッシュの背中が見えた。周囲には無数の蛇が蠢き、いつ襲い掛かってくるかもわからない状態ではあるが、ギルガメッシュは何かを見つめていた。その両隣にエスとミサキは立つと、ギルガメッシュが見ているものを知る。


「これは…」

「レヴィ!生きてるの!?」

「息はある。だが、力を暴走させて消耗が激しすぎるな」


 そこにいたのは下半身は巨大な蛇、上半身は人間の女性の姿をしており、その右腕は切断されたのか肩から無かった。ただ、右腕の代わりになるかのように、無数の蛇が絡み合い腕の形を成している。意識がないのか、地面に倒れたまま動いていない。


「一体何があったんだ!?」

「この者がレヴィか?」

「ああ、間違いない。だが、腕はどうした!?前に会った時は…」


 ギルガメッシュが屈み、レヴィに手を伸ばそうとすると、レヴィが意識を取り戻す。


「ん、んん、ギル、来たの?」

「レヴィ、大丈夫か?何があった?」


 レヴィの視線が周囲を確認し、エスの姿を見てその表情を凍り付かせる。


「イヤァァァァァ!」


 レヴィの悲鳴と同時に、右腕の蛇が伸びエスへと絡みつく。それと同時に周囲の蛇もエスへと飛び掛かってきた。エスは巻き込まれないよう咄嗟にミサキを突き飛ばし、他の二人からも距離をとるように軽く後ろへ飛んだ。

 無数の蛇がエスに襲い掛かるものの、傷をつけることも呪詛をかけることもできず、蛇たちはただ噛みついているだけであった。エスにとっては甘噛みされている程度の痛痒しか感じない。


「ふむ、初対面でそこまで嫌われると、流石の私も傷つくぞ。君に危害をくわえる気などサラサラないから、この蛇たちを退かせてくれないかな?若干、痒いのだよ」

「化け物!」

「失敬な!」


 エスの言葉も聞かず、レヴィは周囲の蛇を次々にけしかけた。そんな状況に呆然となっていたギルガメッシュは我に返りレヴィに話しかける。


「レヴィ、安心しろ。こいつは敵じゃない。むしろこっち側だ」

「ギル、どういうこと!?あいつは奇術師よ!」

「説明するから、とりあえず開放してやってくれ」


 ギルガメッシュに言われ、レヴィは渋々蛇たちを退かせる。蛇たちが離れ解放されたエスは、自分の体を確認していた。体に傷はないが、服には蛇の牙で空いた小さな穴が無数に開いている。エスはため息をひとつ付きその場でくるりと一回転すると、服に開いていた無数の穴が全て元通りに塞がった。


「これでよし」

「エス、怪我はない?」

「見ての通り無傷だぞ。それより…」


 心配そうに声をかけてきたミサキに、問題無いと答えるとゆっくりとギルガメッシュとレヴィの傍へと歩いていく。警戒し体を強張らせるレヴィだった。


「初めまして、奇術師のエスだ。以後お見知りおきを」

「ワタシの蛇が効かないなんて…」

「エス、ちょっと待っててくれ。アヴィド、トレニア、俺様に説明したようにレヴィにも説明してくれ」

「えっ!?アヴィドとトレニアもいるの!?」


 驚くレヴィの前に近づいたミサキは腰の剣を抜くとそれを地面に刺した。


『ちょっとミサキ!土で汚れるじゃない』

『今はそんなことを言っている場合ではなかろう。レヴィよ、久し振りだな』


 目の前の剣から聞こえるよく知った懐かしい声に、レヴィは驚きの表情のまま固まってしまった。


「まあ、気持ちはわかるがな。ミサキも一緒に説明を頼む」

「うん、わかったよ」


 そこからしばらく、ミサキとアヴィド、トレニアの三人が今までの経緯をレヴィに伝える。ギルガメッシュはすでに聞いている話のため、その場を離れ少し離れたところにいたエスへと近づいた。


「おや、君は説明に加わらなくてもいいのかね?」

「ああ、あいつらだけでいいだろ。それよりも本当に大丈夫なのか?」

「問題無い。少し痒かったくらいだ」

「そうか。俺様の用事はこれで済んだようなもんだが、おまえはこれからどうするんだ?」

「ふむ、ここでの用が済んだらフォルトゥーナの王都に仲間たちを迎えに行った後、天龍に会いに行く予定だ」

「天龍だと!?」

「招待されたのでな。妖精国も興味があるから丁度いい」

「『調停者』が認めているのなら、ミサキたちの話は信用できるか…」


 ギルガメッシュは、ミサキたちの言葉を全て信じていたわけではなかった。だが、エスが天龍に認められた者であるのなら、信用に値すると考えた。もし天龍の名を利用しようものならば、利用した者は天龍自身に消されることをギルガメッシュは知っている。故に、エスに対する警戒をギルガメッシュはこの時初めて解いたのだった。


「エス、おまえもこれをかけられてるか?」


 ギルガメッシュが自分の額を指さすと、額から少し離れたところに浮かぶ見覚えのある紋様があった。それは、神の呪いと呼ばれるものだった。


「また、神の呪いか。まったく、鬱陶しい」


 エスはそれを、まるで虫を払うかのように薄っすらと白く光る手で払う。すると、ガラスが割れるような音を立て、紋様が砕け散った。


「何ぃ!?呪いが解けただと!」

「フハハハハ、イイ表情だ。素晴らしい。大変満足だ」


 ありえない光景に、ギルガメッシュの表情は驚愕に染まる。それを見て、エスは満足気に笑っていた。


「やかましい!てめぇ何した!?」

「そんなに取り乱さなくてもよかろう。もうアレは見飽きたからな。以前にも解呪していたし、俺様君のものも解呪してやっただけだ。まあ、ついでというやつだ」


 ギルガメッシュの大声に驚き、ミサキとレヴィはエスたちの方を見ていた。それに気づいたエスは、ギルガメッシュに指さして見せる。


「ほら、俺様君が大声を出すから向こうも驚いてるではないか。謝りなさい」

「てめぇ!いい加減、その呼び方もやめろ!」


 そんなやり取りをしているエスたちの傍に、剣を持ったミサキとレヴィが近づいてきた。


「話は終わったのか?」

「うん」

「一方的に攻撃してしまって、ごめんなさい」


 レヴィが謝罪を口にし頭を下げた。


「俺様君も謝ってくれるといいのだがな。私は一度、君に殺されかけてるのだが…」

「あん時は、仕方ねぇだろ!」

『はいはい、あなたたちそのくらいにして』

『エス、レヴィの腕を治すことはできんか?』


 アヴィドの問い掛けに、エスは顎に手を当てると少し考え答える。


「アリスなら可能だとは思うが…。流石にその姿で王城に入るのは迷惑だろう」

「迷惑とか、そういう問題!?」


 呆れるミサキをそのままに、エスはアリスリーエルを連れてくれば問題無いであろうと言おうとするが、突然の地響きがそれを妨害する。地震のような揺れにミサキが驚きの声をあげる。


「な、なに!?」

「ギル、ワタシの結界が壊されたわ!」

「なんだと!?」


 続くレヴィの言葉に、今度はギルガメッシュが声をあげた。


「結界?」

「外の水晶霧のこと。蛇たち、行きなさい」


 エスに答えたレヴィは、周囲にいる蛇を全て洞窟の入り口付近へと向かわせた。先程エスは噛まれても平気だったが、ここの蛇に宿る呪詛は即死、レヴィと同等かそれ以上の力を持つもの以外は噛まれれば死ぬ。そんな蛇たちを向かわせたことで、レヴィは緊張を解いていた。


「これで、ここは大丈夫でしょ」

「いや…」

「マズいな」


 安心するレヴィの言葉を、エスとギルガメッシュが即否定する。水晶霧の結界を破った者がすでに水晶窟入口に来ていることに、二人だけは気づいていた。結界が破られてから、水晶窟の入口に辿り着くまでの時間から、明らかにここが狙いだったと理解できる。


「レヴィよ。この洞窟の出口は他にあるか?」

「え!?一つだけ…」

「逃げ道はなしか。やるしかねぇな」

「どういう…っ!?」


 エスとギルガメッシュの言葉に戸惑っていたレヴィだったが、水晶窟入口へと自分が放った蛇たちが全て殺されたことを感じ取り警戒心を強めた。


「誰か知らんが、ここに来たってことはレヴィ狙いで間違いないだろ」

「ミサキ、レヴィを連れて奥に行っていろ。護衛は任せるぞ」

「うん、わかった。レヴィ、行くよ」

「えっ、ええ、わかったわ」


 背後から聞こえる音でミサキたちが離れていくことを確認したエスは、隣に立つギルガメッシュに話しかけた。


「来た者に心当たりはあるかね?」

「ありすぎて困るな。だが、恐らくはレヴィの腕をやったやつだろ」


 ギルガメッシュの答えにエスも同意する。少しし、二人が見据える通路の先から足音が聞こえてきた。暗闇から姿を現したのは、白銀に輝く鎧を身に纏った、金色の短髪に碧眼の如何にも戦士といった顔をした男であった。その背には、巨大な両刃の剣が背負われており、その辺のモンスター程度であれば一刀両断できると思われた。


「これまた、聖騎士のようなやつだな」

「聖騎士って認識で間違っちゃいない。ただ、厄介なやつだ」

「ほほう。俺様君の知り合いかな?しかし、金髪碧眼はどこかの民族的な特徴なのか?ついこの間も一人見かけたのだが…」


 エスは思い出したのは、ポラストスの首都で出会った奴隷商たちの反乱を煽った者の姿だった。


「なんだと!?いや、それは後だ。今はこいつからレヴィを守らないと…」


 ゆっくりと近づいてきた白銀鎧の男は、背負った巨大な剣を軽々と抜き構えた。


「『傲慢』と『奇術師』。大物が二匹もかかったか」

「俺様君、あいつ狩人気取りだぞ?」

「獲物は俺様たちってことか?冗談にもならねぇぞ!」


 男が剣を横薙ぎに一閃する。すると、見覚えのある剣閃が放たれた。エスが知る白いものと違い輝く銀をしたその剣閃を、ギルガメッシュがいつの間にか取り出した漆黒の剣身を持つ剣で天井へと打ち上げる。剣閃は天井に当たり爆発すると、周囲に天井を砕いた破片を降らせた。

 崩れる天井と巻き上がった土煙の中、男は間合いを詰め手に持った剣をギルガメッシュ目掛け振り下ろす。ギルガメッシュも、自身の剣でそれを受け止めるが、相手の振り下ろす力が強いのかギルガメッシュの足が僅かに地面に沈んだ。


「馬鹿力が!」

「貴様がひ弱なだけだろう。っ!?」


 突如、男は背後に飛び退く。驚いたギルガメッシュの眼前、男が先程までたっていた場所に、一本の刀が突き出されていた。よく見ると、刀は自分を貫き腹部から飛び出ている。だが、痛みは全く感じない。見ている目の前で刀はゆっくりと背中側に引き抜かれた。刀があった場所には傷どころか、服が裂けている様子もない。


「フハハハハ、イッリュージョン。楽しんでもらえたかな?」

「エス、てめぇか!」


 振り向いたギルガメッシュが見たのは、両手にそれぞれ刀と鞘を持ち両腕を広げたエスの姿だった。


「私に構っている場合ではないぞ。やつには逃げられたからな」


 エスに言われ、ギルガメッシュは男へと向き直る。すぐに反撃してくると思われたが、男は何かを警戒するように距離をとったままだった。よく見ると、男が纏う白銀の鎧の胸の部分にひびが入り欠けていた。


「この鎧に傷だと。なんだその剣は…」

「剣?私の認識的には、これは刀と言うのだがな。まあいい、最近貰った私の新しい得物だよ」

「そのようなことを聞いているのではない」

「何が知りたいのかは知らないが、それは置いておいて」


 刀を鞘にしまうと、エスは優雅にお辞儀をしいつも通りに自己紹介を始める。


「奇術師のエスだ。君の名はなんというのかね?」


 剣を構えなおした男は、いつ踏み込んでもおかしくない姿のままエスに答える。


「我が名はガブリエル、節制と貞節を司る者だ」

「節制と貞節、ガブリエル。ふむ、美徳の一つに天使の名か…」

「エス、七美徳も七大罪も便宜上つけられてるだけだ。本質的な力と言葉本来の意味が関係ない場合もある」

「所謂、雰囲気重視というわけだな。なるほど、自分の知っている知識通りではない可能性もあるということか」

「ごちゃごちゃと煩い!」


 一瞬で二人の目の前に移動した男は、剣を地面に叩きつけるよう頭上から振り下ろした。目にも留まらぬ速さの剣を、二人は左右に飛ぶように回避する。今回は剣閃が飛んでくることはなかった。それを見て、エスの頭に疑問が浮かぶ。


「もしかして、ここが崩れるのを警戒したのか?殺すだけが目的、というわけではなさそうだな」


 ふわりと地面に着地したエスは、いつでも抜刀できるように刀を構えガブリエルと名乗った男の様子をうかがっていた。


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