表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/173

奇術師、完成させる

 エスの部屋から出たアリスリーエルとミサキの二人は、動いたせいでお腹が空いたというミサキに、アリスリーエルが付き合う形で食堂へと来ていた。四人掛けのテーブル席に向かい合うように座りミサキが注文したメニューを待つ間、二人は他愛のない会話を交わしていた。


「アリスリーエル、さんだったよね?なんで奇術師と一緒にいるかは聞いたけど、他の人たちは何で一緒にいるの?」

「わたくしのことは、アリスと呼び捨てにして頂いて構いません。そうですね、皆さん成り行きといった感じでしょうか」

「そう…。それじゃアリス、あの七聖教の勇者たちは何で奇術師と一緒にいるの?」


 それとなく聞こうと思っていたことだったが、ミサキは面倒になって単刀直入に聞いてみた。悪魔である自分やエス、そしてリーナにとっては相容れないはずの勇者が一緒にいること自体、不可思議で納得のいかないことだった。


「海龍の巣への同行を七聖教会、最高司祭のチサト様より依頼されたからです」

「本当にそれだけ?」

「ええ、表向きは。海龍の巣の調査は事実でしょうけれど、おそらくはエス様の監視も含んでいると思われますよ」

「うぅん、あの教会の考え方はよくわかんないや」

「エス様も、勇者様たちが監視の依頼をされていることくらいは予想しているはずです」

「だろうねぇ…」


 アリスリーエルの言うように、エスは始めからチサトを警戒していたため、マキトたちが同行するという時点で自分の監視も含めて依頼されていると予想していた。当然、本人たちに聞いたわけでもないため予想の範疇ではあるのだが、エスだけでなくアリスリーエルも間違いないと確信している。アリスリーエルの言葉を聞いたミサキも、ほんの少しの間話をしただけではあるが今の奇術師、つまりエスであればそのくらい気づいているだろうとは思っていた。


「にしても、ポラストスかぁ。飛行機でもあればいいのに…」


 ミサキは、今いるフルクトスからポラストスへの旅路を考えため息をつく。エスたちについていくことになったが、船旅の長さにうんざりしていた。


「ドレルが特別な船を用意してくれたみたいなので大丈夫だと思いますよ」


 アリスリーエルは、ミサキが何にうんざりしているかを察し慰めた。


「ドレルって、あのドワーフの?」

「はい」

「ふぅん…」


 ドレルには然程興味がなかったのか、ミサキはそれ以上質問したりはしなかった。丁度会話が途切れたところに、ミサキが注文した料理が運ばれてくる。アリスリーエルは空腹ではないため飲み物だけである。


「あら、アリス。それにミサキさんも」


 店員が料理を置き、去っていくのと入れ替わるようにアリスリーエルとミサキが座るテーブルに、サリアとターニャ近づいてきた。


「サリアさん、ターニャさん。どうしてここに?」

「することもなかったから、少しのんびりしようかと思ってね」


 そう言うと、サリアはそのままアリスの隣へと座る。ターニャは空いているミサキの隣へと移動した。店員を呼び、サリアとターニャが飲み物を頼んだところで、ターニャが口を開いた。


「エスの用は終わったの?」

「ええ、問題なく」

「まったく、いきなり実力見せてみろって木剣渡されたときは何事かと思ったよ。モンスターもけしかけられたし…」


 アリスリーエルとミサキの言葉を聞き、サリアとターニャは苦笑いを浮かべる。何があったのかだいたい予想がついたからだ。


「そういえば、二人は奇術師の眷属なんだよね?」


 顔を見合わせたサリアとターニャは、ミサキに頷いてみせる。


「どうして眷属になったの?言いたくなければいいんだけど…」

「そうねぇ。特に隠す必要もないけど…」


 サリアは目の前に座るターニャへと視線を移す。自然とミサキもターニャを見ていた。


「私は…、死にかけた時に助かる可能性にかけて眷属になったんだよ」

「あの時は、わたくしの力不足でもありましたので、申し訳ありません」


 謝るアリスリーエルにターニャは慌てて首を振る。


「そんなことない!油断した私が悪いんだし…」

「あれは皆の油断よ。気にしてはダメ」


 ターニャに続きサリアもアリスリーエルを慰める。その様子から、ミサキも何か大変なことがあったのだろうと感じ取ったのだった。


「ターニャさんはなんとなくわかったけど、サリアさんはどうして?」

「呼び捨てでいいわよぉ。ミサキさんの方が実際、歳は上でしょう?」

「歳のことは言わないで!あたしのことも呼び捨てでいいよ。それでサリア、はどうして眷属に?」

「私はねぇ、アリスが羨ましくて」


 そう言って微笑みながらサリアはアリスリーエルを見た。急に自分の名をあげられたアリスリーエルは、驚いて声をあげる。


「えっ!?」

「エスさんとの繋がりが欲しかったから、チャンスを見つけて眷属になったのよ」


 サリアはミサキに、ルイナイで眷属になった経緯を説明する。それを黙って聞いていたミサキは、ぽつりと呟く。


「そう、ギルガメッシュも会ってるんだね。それにあいつに出会って無事だったのか…」

「それにしても姉さんが異性に興味を持つなんて珍しいね?ま、悪魔だけど…」

「あら、私助けられたことってなかったから、あの時は嬉しかったのよ」

「そりゃ、姉さんに勝てる奴なんてディルクルム周辺じゃ五人もいなかったし…」


 ターニャが言うように、姉妹が拠点としていたディルクルム周辺の都市を合わせても、サリア以上の強さを持つ冒険者や兵士は片手で数えるほどしかいなかった。妹という弱点がなければ、サリアをどうにかできるような人物は存在しなかっただろう。そんな中、悪質な領主から助けだしてくれたことをきっかけに、エスに対し好意を持っていたのだった。


「なんだかんだで、みんな奇術師…、エスを慕ってるんだね」


 ミサキの言葉に三人は笑みを浮かべ頷いていた。

 そんな、アリスリーエルの様子を離れたテーブルで寛いでいたグアルディアが眺めていた。その隣では出発作業を一旦終え、休憩に戻ってきていたドレルが座っている。


「アリスリーエル様も、皆さんと仲良くやっているようでなによりです。同じ歳くらいのご友人は城にはいませんでしたからね」

「過保護も程々にしとけよ…」


 ドレルは手に持ったジョッキをあおると、勢いよくテーブルへと置く。そんなドレルの言葉にため息をつきながら、グアルディアも手に持つコップに口をつけた。


「それで、船の準備はどうなってますか?」

「ああ、問題ない。あと少し調整すれば出られるぞ」

「それは重畳。食料も準備は終わってますし、予定通り明日の朝には出発できそうですね」

「とりあえず儂は、船で一晩過ごすつもりだがな。ちょっかい出してくる奴がいないとも限らんし」

「わかりました。明日、朝一で皆様を連れて向かいますので、寝坊しないように」

「あぁあぁ、わかったわかった」


 ドレルはグアルディアの言葉に面倒そうに頷き、再びジョッキをあおる。グアルディアも楽しそうに話すアリスリーエルの姿に安心し、ドレルと共にしばらくの間酒を楽しんだ。

 マキトたちは自分たちの部屋でのんびりと過ごしていた。大量に買い込んだ食料はマキトの無限収納に収納されている。マキトはベッドに横になり天井を見つめていた。


「船旅かぁ」


 マキトは、明日から始まる長い船旅に気が滅入っていた。そんなマキトを心配そうな表情を浮かべたアイリスが、ベッドに近づくと座り声をかける。


「教会が使ってる転送陣を使わせてもらえたらよかったんだけど…」

「海龍の巣が目的地だしなぁ。無理だ」


 海龍の名が示す通り、その巣は海にあるため船で行く以外に方法はない。それがわかっていても、マキトたちにとって船旅は憂鬱なものだった。過去、長期間の船旅をしたときなどは、散々不自由な思いをしたのだった。


「諦める」


 部屋の椅子に座り投げナイフを磨いていたフィリアの呟きを聞き、マキトとアイリスはため息をついた。

 部屋で寛ぐリーナの耳に、突如エスの高笑いが聞こえてくる。エスの部屋はリーナの部屋の隣のため、大声を出せばすぐに聞こえてくる。すでに、エスがミサキとアリスリーエルを連れ帰ってきたことも、その聞こえる物音から気がついていた。


「なんなのよ!」


 エスの高笑いに苛立ったリーナは、自分の部屋を出るとエスの部屋の扉を勢いよく開ける。


「うるさいわよ!エ…ス…」


 リーナの目に飛び込んできた風景に思わず言葉を失う。扉の先に広がっていたのは宇宙空間のように黒い空間が広がっており、星のような光が無数に瞬いていた。その中心にエスは立っている。立っているというよりは浮いているように見えた。


「…なによ、これ」

「おや、リーナではないか。ノックも無しとは少々失礼ではないかな?」

「そんなことより、なにやってんのよ」


 唖然とした表情で部屋の中を見渡すリーナを、エスは笑いながら見ていた。


「フハハハハ、完成した私の“幻惑世界”はいかがかな?予定通りの性能で素晴らしい。これでまた楽しくなりそうだ」


 エスの言葉を引き金に、一瞬にして部屋の風景は元の姿へと戻る。そこでは立っていたはずのエスが椅子に座っていた。


「また、わけのわからないことを…」

「それで、リーナは何しに来たのだ?」

「…うるさかったから文句言いに来ただけよ。もういいわ…」

「それはすまなかったな。もう、うるさくはしないから部屋でゆっくりしたまえ」


 リーナは力なく頷くと、部屋へと戻っていった。それを見送ったエスは、椅子に座りながらたった今完成させた“幻惑世界”の力を考える。


「思った通りの魔法、技となったな。とりあえず完成ということでいいだろう。あとは実戦で使ってみて改善点を洗い出していくとしようか」


 エスは、椅子に座ったまま伸びをするとベッドに移動し横になった。

 こうして、皆が思い思いに過ごし翌朝を迎える。各々が準備を済ませ、宿の前に集まっていた。もちろん、ミサキの姿もある。


「全員いるな。では、出発しよう。船まで案内を頼む、グアルディア」

「はい、それでは皆様こちらへ」


 グアルディアに案内され、エスたちはドレルが待つ船へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ