アリとカマキリ
おいおい、嘘だろ……
目の前に、あのデカいアリが割り込み、俺を守ろうとしている。
背中から「俺にまかせろ!」という気迫がビシビシ伝わってくる。
ただ、アリは怪我をしている。
恐らくカマキリの一撃から俺を守るために負った傷だろう。
カマキリは鎌を振り回すが、アリは小さくて当たらない。
しかもこのデカいアリ、人間で言うマッチョ並みの筋肉質。
アリの中でも相当強いのではないかと思う。
アリは鎌を避けながら、頭突きでカマキリに反撃する。
俺は後ろで少し距離を取り、隠れながら戦いを見つめる雑魚だ。
ずるい……?
さっきまでは「死んでもいい」と思っていたのに、
生きられる可能性が出てくると、一気に「死にたくない」と思ってしまった。
カマキリは痺れを切らしたのか、大振りの攻撃が目立つ。
このまま行けば、勝てる……かもしれない。
そう思った矢先、カマキリの鎌がアリにヒット。
大振りの後の鋭い返し、鎌の二連撃。
アリは吹き飛ばされ、俺は再びピンチに。
カマキリはニヤリと俺を見つけた。
「おい……なんなんだよ、この化け物……なんで俺を追ってくるんだ?」
俺に選択肢はない。
ヤケクソで体当たりを仕掛ける。
もちろん、当たるはずもなく、カマキリは鎌を振る構えに入る。
その瞬間――
デカいアリが後方から頭突きを仕掛けた!
カマキリが気を取られている間に、俺も体当たりを試みる。
少しだけ、ダメージを与えられた……はず。
いや、そう信じなければ、この化け物と対峙できない。
そして俺は再び逃走。
生き延びるためだ。
デカいアリには申し訳ないが、俺は自分を守るために足を動かす。
不思議なことに、その後カマキリは追ってこなかった。
俺は息を整え、夜になると適当な場所で眠りについた。
朝、目を覚ますと、まだアリのままだった。
普通なら夢オチで人間に戻る展開なのに……
それでも、昨日のデカいアリのことが気になった。
アリとカマキリの激闘。
人間だった頃なら笑い飛ばす、踏みつける、蹂躙する対象だったのに……
最弱となった今では、とんでもない戦いに見える。
そして俺は、昨日戦っていた場所へ向かうことにした。
危険なのは分かっている。
でも、どうしても確かめたくて、俺は急いで足を動かした。




