異質なる骨
血と死臭が充満するダンジョン。
兵も傭兵も、誰一人として生きて外へ逃れることはなかった。
「……終わったな」
ジンザが剣を払って血を振り落とす。
周囲には無数の屍。鎧ごと潰された兵士、鋼糸に吊るされた死体、そして毒に侵されたまま泡を吹いて倒れた者――。
その全てを、敬人は静かに見下ろしていた。
『……よし。始めるか』
敬人の指示に従い、屍の山の中に力が流れ込む。
次の瞬間――。
がしゃり、と骨の軋む音が響いた。
次々と死者が立ち上がり、眼窩に冷たい光を宿す。
領主の兵は、今や敬人たちの軍勢として生まれ変わっていく。
「おお、これで我らの軍はさらに強固になったわけじゃな」
ジンザは冷静に頷きながらも、どこかぞっとするような光景に目を細める。
だが、その中に――。
ひときわ異質な骨が立ち上がった。
骨格はスケルトンのはずなのに、異様なほどゴリゴリに張り出した骨の筋肉を持っている。
まるで石像のようなごつごつしたライン、肩幅は異常に広く、動くだけで骨が擦れる重低音が響く。
「……なんじゃ、ありゃ」
ジンザが思わず呟く。
敬人は驚愕しながらも、視覚共有でその存在を注視した。
『俺、あんなの作った覚えはないぞ……?』
ムキムキスケルトンが近づき、目を丸くした。
「ナンダコイツ!? オレ? オレノ兄弟? デモ……ゴリゴリ!? オレはムキムキ! アイツはゴリゴリ!!」
――その瞬間。
空気が不意に揺らぎ、どこからともなく陽気な声が響いた。
『いやぁ〜ちょっと遊んでみただけだよ。面白いだろ?』
敬人の頭に響くのは、あの神の声。
この世界に彼を送り込んだ、悪戯好きの存在だった。
『ムキムキくんがいるなら、対になるキャラも必要だろ? ほら、ゴリゴリ担当。筋肉より骨で押す感じ。カッコいいだろ?』
敬人は額に手を当てて、思わずため息をついた。
『……またお前か。勝手に眷属いじるなよ!』
『いいじゃんいいじゃん! どうせ賑やかな方が楽しいだろ? そいつにはちょっとだけ力を上げておいたから。』
異質なスケルトン――ゴリゴリスケルトンは、無言のまま拳を鳴らした。
その骨の拳は岩をも砕きそうな重厚さを放っている。
ムキムキスケルトンが筋肉を震わせて叫ぶ。
「勝負だぁぁ!! 筋肉か! 骨か! ドッチガ最強カァァ!!」
ジンザが冷たい声で遮った。
「……やめい。こんな狭い洞窟で暴れられては、罠も巣も崩れるわ」
くもりんが上からくぐもった声で笑う。
「ふふ……これでまた一匹、厄介な駒が増えたな」
敬人は頭を抱えながらも、内心では戦力の増加を否定できなかった。
神の悪ふざけは、またしても彼らの物語に波乱を呼び込もうとしていたのだ。




