蜘蛛の部隊
鋼糸が軋む音と共に、罠が次々と作動した。
兵士が足を踏み外した瞬間、地面の仕掛けが開き、尖った岩に突き刺さる。別の兵は頭上から垂れ下がった糸に絡め取られ、宙吊りのまま喉を切り裂かれた。
「ひぃっ!? ど、どこから攻撃が……!」
「暗闇だ、敵の数も見えねえ!」
恐怖に駆られた兵たちがたいまつを掲げようとするが、それもすぐ鋼糸に切り裂かれ火が消える。
闇の中、響くのは悲鳴と血の滴る音のみ。
『いいぞ、追い詰めろ! くもりん、左右から回り込ませろ!』
敬人の指示が響く。
「承知した。……網は獲物を逃がさん」
低く囁く声と共に、くもりんは兵士の足場をことごとく奪っていった。
前線では、アリリマートが暴れ回っていた。
「コロスコロス!! コロスウウウウウ!!」
巨体が突撃するたび、兵士が吹き飛び、盾ごと壁に叩き潰される。
「うわあああっ!」
「だ、駄目だ! あんな怪物……人間じゃ勝てねえ!」
後方では――。
「筋肉ッ! 剣ッ! オレ最強!!」
ムキムキスケルトンが筋肉を誇示しながら剣を振るい、兵士たちをまとめて薙ぎ倒していた。
その姿はまるで地獄から現れた戦神。だが、叫んでいる内容はどこか間の抜けたものだ。
「だ、誰だこいつ!? 傭兵じゃなかったのか!?」
「骨なのに筋肉ってどういうことだよおおおっ!」
ジンザは背後から短剣を振るい、兵士の喉を正確に突き刺す。
冷徹な手並みで敵を減らしながら、小声で呟いた。
「……狂気と筋肉に気を取られるがよい。その隙に、こちらは淡々と首を刈るだけじゃ」
シロは赤ん坊の姿のまま、するりと兵士の体に巻き付き、締め上げていく。
「うぐ……力が……抜ける……!」
兵士が崩れ落ちると、シロは小さく「シュー……」と鳴き、次の獲物を求めて這い出した。
――こうして討伐軍は完全に包囲され、蹂躙されていく。
「く……こ、こんな怪物どもが潜んでいたとは……!」
傭兵団長が必死に剣を振るい、叫んだ。
「退け! 退けぇ!! 一度体勢を立て直せ!」
だが、その声もむなしく、部下たちは蜘蛛の糸に絡め取られ、アリリマートの顎に噛み砕かれ、次々と屍となっていく。
『……逃げる気か。アリリマート、出口を塞げ!』
「オオオオオッ!!」
巨体が洞窟の口に立ちはだかり、完全に退路を断った。
血の臭いが立ち込め、恐怖と絶望に討伐軍は完全に飲み込まれる。
その時、ジンザがフードを払った。
「……残念ながら、ここが貴様らの墓場よ」
淡々としたその言葉に、兵たちの心はへし折られる。
くもりんの八つの目がぎらりと光り、低く笑った。
「――狩りの時間は、終わらない。」
闇のダンジョンで繰り広げられる蹂躙。
領主の精鋭軍は、もはや壊滅するしかなかった。




