反撃の狼煙
夜の森を抜け、討伐軍はたいまつを掲げながらダンジョンへと進んでいた。
領主の旗を掲げる精鋭兵と傭兵団――その数は五十を超える。
「……やはり数が多いな」
ジンザが小声で呟き、フードを深く被った。
隣には鎧姿のムキムキスケルトンと、蛇のシロ。三人はあえて討伐隊の最後尾に紛れ込み、侵入の機会を窺っていた。
一方その頃――。
ダンジョン奥深く。
くもりんは天井に張り付き、無数の鋼糸を張り巡らせていた。
「……もうすぐ来る。火の匂い、金属の音、全部伝わってくる」
狡猾な蜘蛛は冷徹に状況を分析し、最後の罠を結び終える。
その下で、敬人が視覚共有を広げる。
『……よし、準備完了だ。アリリマート、くもりん、頼むぞ』
「テキコロスコロスコロスコロス!!」
巨大なアリ――アリリマートが、地響きを立てながら配置につく。
岩陰に身を潜めるその姿は、まさに門番のようだった。
やがて討伐軍が洞窟に足を踏み入れる。
たいまつの炎が闇を裂き、兵たちの影がうごめく。
「……ここが蜘蛛の巣窟か」
傭兵団長が唾を吐き捨てる。
「火を放て! 巣ごと焼き払え!」
その瞬間――。
天井から無数の鋼糸が閃いた。
たいまつが次々と切り落とされ、火は消え、闇が広間を覆う。
「な、なんだ!?」
「視界が……!」
混乱する兵たちを見下ろしながら、くもりんは冷酷に囁いた。
「……光を奪えば、ただの獲物」
続けざま、アリリマートが突撃。
岩壁を砕きながら飛び出した巨体が兵士をはね飛ばし、地響きが洞窟を震わせる。
「ひ、ひぃっ!?」
「ば、化け物だ!」
敬人の声が全体に響く。
『動揺してる! 今だ、仕掛けろ!』
同時刻、ダンジョン入り口。
ジンザが低く呟く。
「頃合いじゃな。――行け!」
ムキムキスケルトンが雄叫びを上げ、筋肉をぶるんと震わせて突撃。
鎧と大剣が閃き、後方の兵を一刀両断。
「な、後ろから!? 裏切り者か!?」
討伐軍は前後から挟まれ、完全に混乱に陥った。
シロはするりと床を這い、油断した兵の足を絡め取る。
「ぎゃああっ!? 蛇だ!」
「赤ん坊に見えるのに……力が……抜けねえ!」
混乱の叫びがダンジョンにこだまする。
ジンザは冷静に状況を見渡し、短く呟いた。
「……これで狩り場は整った。後は、我らが蜘蛛殿の舞台よ」
その声に呼応するかのように――。
闇の天井から、鋼糸の主がゆっくりと姿を現した。
八つの目が光り、無数の罠がきしむ音を立てる。
「――さあて。蹂躙させてもらうぞ。」
領主の兵を相手に、狡猾な蜘蛛と仲間たちによる反撃が幕を開けたのだった。




