冒険者ギルドでの噂
ジンザは杖を突き、深くため息をついた。
「……銀貨十枚。蜘蛛ごときに高すぎる。これは“討伐依頼”の皮を被った排除命令じゃ」
敬人が眉をひそめる。
「領主の差し金ってことか」
「おそらくな。……奴は、くもりんの背後にある“宝”を狙っておる」
敬人は唇を噛む。
ダンジョンの奥にある光る鉱石の群れ――偶然見つけたあの資源。
領主が嗅ぎつけたなら、くもりんはただの「邪魔者」だ。
「放っておけば、いずれ討伐隊が差し向けられるじゃろう」
ジンザは目を細め、冒険者たちのざわめきに耳を澄ます。
「銀貨十枚だってよ」
「蜘蛛一匹で家が建つぞ!」
「よし、パーティ組んで受けるか!」
人々の声に、敬人の背筋が凍る。
だが、その時。
「オレ、まもる」
重い声が頭蓋の奥に響いた。
振り返れば、ムキムキスケルトンが立ち尽くし、拳を握りしめている。
「オレ、クモ まもる。主 まもる。ダンジョン まもる。……ぜったい」
その言葉に、ジンザと敬人は一瞬押し黙った。
普段は「剣ほしい」「鎧ほしい」としか言わぬ骸骨が、今だけは違う。
「……フン。見上げた筋肉じゃ」ジンザが小さく笑った。
「だが、勢いだけでは守れん。奴らを敵に回すなら、根拠がいる。証拠を掴まねば逆賊扱いよ」
敬人も深く頷く。
「……つまり、依頼の裏を暴いてやればいいんだな」
その夜。
居酒屋の片隅で、ジンザとスケルトンは耳を澄ませていた。
街の酒場は情報の坩堝。商人や兵士が酔いに任せて余計なことを喋る。
「聞いたか? 蜘蛛討伐の後は、領主様の私兵がすぐに“探索”に入るそうだ」
「やっぱり宝狙いか……蜘蛛はその番人ってわけか」
ジンザの目が光った。
「やはりそうじゃ。討伐は囮、本命は宝。……これで証拠が取れたわ」
スケルトンは机に肘をつき、腕を隆起させながらぼそりと呟いた。
「領主……わるいやつ。オレ、たたかう」
「まだじゃ」ジンザが首を振る。
「街の人々が領主に不信を抱くよう、事実を広める。討伐依頼が“私欲”だと示せば、わしらが動いた時に正義は民衆の側にある」
敬人は天界から歯を食いしばる声を届ける。
「……くもりんもアリリマートも、絶対に渡さねぇ。オレたちで守る」
その瞬間、スケルトンは立ち上がり――
がしゃん、と椅子を吹き飛ばした。
「主。鎧と兜、ほしい」
「……おい、今その話かよ!」敬人が頭を抱える。
「まもる。まもるため、つよくなる。だから……鎧ほしい」
その真剣な声音に、ジンザも苦笑を浮かべるしかなかった。
「まったく……筋肉にしては理があるわい」
こうして彼らは、領主の陰謀を暴きつつ、討伐依頼の裏を探ることを決意する。
筋肉は、仲間とダンジョンを守るために――さらに輝きを増していくのだった。




