ダンジョン討伐
――冒険者ギルド。
登録を終えたジンザは、敬人たちを連れて掲示板の前に立っていた。
そこにはびっしりと依頼書が貼られており、薬草採取から家畜の護衛、魔物討伐まで多種多様。
「ふむ……まずは低ランクの依頼から始めるのが常道じゃな」
ジンザは白ひげを撫で、手近な紙を剥がす。
《薬草採集依頼:ダンジョン近郊に自生する“青葉草”を二十株》
《報酬:銅貨三十枚》
「地味だが、確実に信用を積むのが一番じゃ」
「まあ、薬草くらいなら怪しまれず動けるか」
敬人に確認を取りシロを引き連れて森へと向かった。
――その日の夕方。
採取を終えて戻ってきた一行は、無事に報酬を手に入れた。
受付嬢は笑顔で言う。
「ありがとうございます! またぜひお願いしますね」
ジンザは満足げにうなずく。
「これでギルドに信用も積める。次も同じように依頼をこなしていけば……」
だが、その時だった。
掲示板の一角に新しく貼られた依頼書が、ふと敬人の目に止まった。
視覚共有で覗いた瞬間、息を呑む。
《ダンジョン討伐依頼》
《対象:鋼糸蜘蛛》
《依頼内容:近郊のダンジョンにて、人里へ糸を張り巡らせる危険魔物を討伐せよ》
《報酬:銀貨十枚》
「……っ!」
敬人の心臓が跳ね上がる。
その名は、まさしく――くもりん。
「……おい、ジンザ。これ……」
小声で示すと、ジンザの表情も引き締まった。
「む……奴ら、とうとう依頼にまで仕立ておったか」
くもりん本人は少し離れた場所で新しい技の修練をしている。
だが、彼を討伐対象とする紙が今まさに公然と掲示され、人々の目を引き始めていた。
「見ろよ、これ。鋼糸蜘蛛だってさ」
「やべえ、強敵じゃねーか」
「でも銀貨十枚はデカいな……誰か挑むんじゃねえか?」
冒険者たちがざわめき、依頼書を注視する。
敬人は冷や汗をかいた。
(……このままだと、くもりんが狙われる!)
ジンザは低く呟く。
「さて……どう立ち回るべきかの。依頼を潰すか、あるいは……」
その横で、ムキムキスケルトンは鎧と兜のポスターを眺めながら脳内に声を響かせた。
「主、鎧ほしい。兜ほしい。でも……くもりん、やらせない」
珍しく物欲の合間に、仲間を想う意志をはっきり示したのだった。




